第13話動くしっぽが
ひだまりであくびする猫 気だるげに
動くしっぽが描くハピネス
にゃんこネタ。
猫大好きなのですが、我が家には猫はいません。飼いたいのですけれどねぇ。
お義母さんが、猫嫌い。しかも手強い。
仕方ありませんから、嫁は時折猫カフェへ通います。
結婚前、猫を飼っていました。
飼っていたというか、餌付けしたというか。
野良猫でした。メスの三毛猫。野良ちゃんといっても、とても人懐こくて、向こうから寄って来たのですよ。当時わたしは急性胃炎を悪化させ、自宅療養中で落ち込んでいたので、この猫ちゃんがやって来るのが楽しみでした。
普通野良猫といえば警戒心が強くて、近寄れば逃げてしまいますが、この子は近寄ってくる。おそらくもともとは飼い猫で、何かしらの理由で野良生活になってしまったのでしょう。人間を怖がりませんでした。
ちょうど昼ご飯の時間にやってきていたので、わたしの分を少し分けてあげるようにしていたら、毎日通ってくるようになり、そのうち居付きました。
当時母とふたり暮らしで、適当にかまってくれて、適当に静かな実家は猫にとって居心地がよかったようです。
そのうち「うめ」と名前が付き、その頃には大手を振って我が家に出入りをしていました。ご近所さんにも、すっかり認知されていたりして。どこからも元の飼い主の名乗りが無いので、そのままうちの
帰省した弟から「なんで
一応アントワネットも考えたのですが、おそらく「やめてくれ」と言われたと思うのよね。
最初は猫の存在を嫌がっていた母も弟も、そのうち
どこから見つけてくるのか、スズメの子を
そんなうめでしたが、やはりシーズンになると夜中にフラフラ出歩いてアバンチュールを楽しんでいましたっけ。これも猫の習性ですからね。密閉性の高いマンションではありませんでしたから、結構自由に出たり入ったりができたのです。
野良生活体験猫ですから閉じ込めるのもかわいそうだと、わたしたちも自由にさせていましたし。
その結果何度か妊娠したのですが、子猫は産めませんでした。産んでも死産で、うめの身体に負担がかかるだけ。かわいそうなので避妊手術をしました。
うめはおとなしい子で、悪戯して壁紙をひっかくような悪さはしませんでした。食べ物を探してあちこち荒らすような真似もしません。お利口さん、でした。
そのうちわたしも再就職して日中留守になるようになったのですが、閉じ込めるのはかわいそう(ほら、元野良ちゃんですから)と戸締りをする際は、家の外に出すようにしていました。
ある日、わたしが家に戻ると、裏庭に面したサッシが5センチほど開いているのです。
背筋が凍るとはこのこと、すわ「泥棒に入られた!」と思いました。
恐る恐る家の中に入りあちこち見て回ったのですが、荒らされた様子はありません。わたしが家を出た時のまま。人が出入りしたような形跡はないのです。唯一違っていたのは、2階の押入れの
きちんと閉めてあったのに?
もし泥棒が隠れているのなら、ここしかないでしょう。手に裁縫用の竹製の物差し(50センチ)を握り、覚悟を決めて襖を勢いよく開けてみたら――
「にゃぁ」
寝ぼけまなこでうめが顔を上げました。
よかったんだけどさ。よかったんだけど、安堵感と拍子抜け感で脱力してしまいましたよ。「お帰り~、お腹空いたよ~」とうめは嬉しそうに鳴くのだけれど。ちょっと腹立たしさが……。
隙間風を防ぐサッシのゴムパッキンに爪を立て、渾身の力でうめは開けたみたいだけど、猫にそんな馬鹿力があったとは! どうも、サッシのカギをかけ忘れたみたい。
いやはや。お留守番、ありがとうございました。
その後開けるところを目撃しましたが、本当に驚きました。しかもどんどん開け方が上手くなり、時間短縮していくし。
母とわたしとうめの生活はしばらく平和に続いたのですが、お別れの時はやはりやってきました。病気でどんどん衰弱していき、餌も水も口にしなくなって。
動物病院に入院して治療もしましたが、お医者様にも覚悟をしてくれと言われました。猫のがんだったように記憶しています。
とても苦しそうで観ていられないと母はボロボロ泣いて、これ以上苦しまないようにと、最終的には安楽死させてあげることにしたのでした。
最後のお別れに行ったときのことです。立つこともできなかったうめが、わたしたちの顔を見ると病室の奥から歩いて来て弱々しいしい声で、でもはっきりと「にゃぁ」とひと声鳴いたのです。
もう、ふたりして涙腺崩壊。動物病院のスタッフさんたちにも人気のあったうめなので、みんなで泣いてしまいました。
その後、母は猫を飼っていません。ご近所さんの猫をかわいがったことはありますが、もうあんな思いはしたくないと拒み続けました。どんなにかわいい猫でも、うめ以上の存在にはなれないのでしょうね。
今も実家には、うめの写真が飾ってあります。
わたしにとっても、うめは特別の存在。うめ以上の猫はいないのかもしれません。
でも、やっぱり猫を飼いたいなぁ~と思ってしまうのですよ。
浮気じゃないですけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます