変わらない空

 幼馴染から電話が掛かって来た。

『もしもし』

「もしもし」

『飛行機が墜落するから最期に声が聞きたくて』

「飛行機って機内モードにしなきゃダメなんじゃないですかね?」

 それはそうなんだけど、と彼は口ごもる。

「こっそり掛けてるんですか?」

『そうだね』

「他の人の迷惑になりますからすぐ切ってください。周りにいる人にはちゃんと謝ってくださいよ」

『はーい。じゃあね』


 翌日、旅客機が墜落した事故がニュースで放送された。生存者は一人だけという大惨事だったという。

 生存者は四十代くらいの女性で、彼ではなかった。

 私は三日くらいそのニュースを追ったけれど、どうして飛行機が墜落したのか、原因は不明だった。一つの可能性として、テロが疑われているらしい。

 その容疑者として、幼馴染の名前が上がっていた。

 生存した四十代の女性が、「日本人の男性が急に周囲の人間に謝り出した」と証言したからだ。彼が飛行機を墜落させたのか? だから謝ったのだろうか? 真相を知るにはさらなる調査が必要、などと連日放送される。

 私は彼が犯人ではない事を知っている。

 しかし、証言する気がなかなか起きなかった。

 私だけが、彼の無実を知っている。どうしてもそれを独り占めしたいのだ。

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