姫本香さんと依頼人(K)さんの会話

 下記は、このファイルの元の持ち主(姫本香さん)が文字起こししたものです。


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 廃墟××邸の前で依頼人(K)と待ち合わせた。


 私「こんにちは。……どうされました?」

 K『姫本先生、ご本人でお間違いないですか? 助手の方ではなく?』


 私「ああ、はい。姫本香、本人です。いつもメールでやり取りするだけで、お会いするのは、初めてですもんね。それと名探偵じゃないのでワトソンみたいな助手はいません」

 K「……」



 私「ところで、配信されていた動画の文字起こし、見ていただけましたか」

 K『廃墟探索のですね。拝読しました。でも、どうしてビデオじゃなくて、文字起こしなんですか?』


 私「映像で見るのは、お辛いかと思いまして」

 K「え?」


 私『……いえ、何でもありません。娘さんとのお別れは、本当にお辛かったと思います。 心よりお悔やみ申し上げます』


 K『お気遣いありがとうございます。……二カ月前、ミツコはここで首を吊ったんです。ここに住んでいた頃の思い出が蘇ったのかもしれません。ここからちょうど見えると思います。カーテンがかかった、あの二階の部屋。あそこが娘の部屋でした。あの部屋でミツコは……』


 ——Kさんがすすり泣く声。


 K『偶然近くを通った方が、窓に映った娘の遺体を見て通報してくださったそうで』


 私「原因に、心当たりはありませんか?」


 依頼人はしばらく黙っていたが、ようやく話し始めた。


 K『祖母が遺した箪笥の中身だと思います。昔、娘と一緒に開けたことがあったから』

 私「何を見たんです?」


 K『中から出てきたのは、生きた鼠でした。娘が引き出しを開けたら飛び出したんです。それも、一匹だけじゃないんです。何匹も。何十匹も溢れ出して、床を駆けていきました。……信じられないと思いますが、本当なんです。あの光景、先生にも見せられるなら見せてあげたいですよ』


 私「動画配信者の○○さんが見た、あの頭蓋骨は?」


 K『当時も置かれていました。あの時も動かないように、引き出しの中に固定されていました。何で母があんな不気味な物をしまっていたのか、全然わからなくて……。生きていたら、問い質せたんですが。


 きっと良くないものなんでしょうね。あの後、色々不幸が続いたので。結局、この屋敷を出ていく事にしたんです。


 ミツコが死んだのも、きっとあの骨の呪いのせいです。今も呪いが続いているんです』


 私「……今から、箪笥を開けてみようと思います。申し訳ありませんが、箪笥の場所まで案内していただけませんか?」


 このあと依頼人のKさんは、意外な事に調査の打ち切りを申し出た。

 しばらく交渉を続けたが、彼女の決意は変わらなかった。結局、引き出しの中身も確認できなかった。

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