紀古さつき

閑話

 午後六時という時刻、一年の中で昼であり大禍時であり夜である。一秒が一分が長く重くのしかかり私の心に穴を空ける。そんな時海流が碧い海へ行く。砂浜から岩場へ、岩場から松の林へと繋がる合間の原っぱでは私の他に海鳥が数羽のみ。あれはカモメかウミネコか、今は暗い頃の午後六時で輪郭すら定まらぬ。私は岩場への方へ潜り、海風が耳の先を切って行くがぼやけた輪郭は間隔までもぼかしてしまうらしい。波打ち際も足元へ迫って居るだろうがどろりとした藍色に混ぜられどこかへ行ってしまった。なぜ岩場まで降りてきたのか暗さの中正気を持ってしまった。「なあ、どうしてこんな。」海鳥も居なくなった原っぱへ問うてしまう。手の冷えて鈍くなった感覚が心地よかった。藍色の波が掴めた気がした。溶けた蝋のような雲は垂れ冷気を吐くのみであった。砂浜へも行ってみよう輪郭の奪われた暗さで海がどんなものか感じたい、と脳まで鈍くなったことを自覚し歩く。皮膚の強ばりと上着の受ける風圧で重くなった身体はもう藍色の海に飲まれたか。砂浜へ着く頃には身体はあおくなって消えた。

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紀古さつき @kikosatsuki

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