パンが出来上がる迄の、その間だけ
花恋亡
チーズミニ食パンが出来るまで
この女の名前は藤代茜。
茜は今キッチンに立っていた。
電子スケールの上に置いた銀色のステンレスボウルへ強力粉と砂糖を量りながら入れる。更にそこに小さじ3分の1の塩、大さじ1の米油、事前に予備発酵させておいたドライイースト液を入れた。
ドライイーストの予備発酵とは、砂糖を溶かしたぬるま湯にドライイーストを入れて良く混ぜ10分程度置く事を言った。
最後にぬるく温めてある豆乳を注ぎ入れた。茜は基本的にパン作りには豆乳を使う。レシピによりきりだが水や牛乳と記載されている水分を豆乳に置き換えるのだ。その理由は「何となく体に良さそう」だった。何より豆乳は未開封だと常温保存が可能で、なおかつ賞味期限も数ヶ月単位と長い。飲みきれない牛乳を買うより扱い易いからだった。
シリコン製のスケッパーを持ち、粉に水分が行き渡るよう切るように混ぜていく。
あらかた混ざるとそれを打ち粉をした台の上へと落とす。茜はボウルにへばり付いた生地を出来る限りスケッパーでこそげるようにすくい取っている。
これは往来の几帳面な性格と、少しも無駄にしたくないとの思い、最後に洗う時が楽になるからという実に茜らしい行動だった。
綺麗に集められた生地を次は右手で捏ねていく。固まりを押し付けるように右斜上方へ伸ばしてから戻す。次は左斜上方へ伸ばしてから戻す。はじめのうちはベタベタと手に纏わり付くが、しばらく続けていくと弾力を帯びはじめ纏まりを持つようになった。
これを根気良く続ける。
目安は生地の表面が滑らかになり、一部を手で薄く伸ばし広げた時に薄い膜が張るようになるまでだ。
それを目指して茜は一心不乱に生地を捏ねるのであった。
茜はストレスが溜まると良くパンを捏ねた。元よりお菓子作りや料理は得意だったのでパン作りに興味を持つのも自然な流れだった。何よりパンを食べるのが大好きだった茜には実益しかなかった。
パン作りは難しく、計量を間違えたり、発酵が足りなくても、逆にし過ぎても失敗の原因になったりする。その中で特に重要なのが捏ねだった。小麦粉のグルテンが捏ねる事により強化され、強いグルテン膜を生成する。その膜が発酵によるガスをしっかりと溜め込めるか否かで仕上がりに影響を及ぼすからだ。
何度も作っていくうちに捏ねの重要さに気付いた茜は美味しいパンを作る為に必死で捏ねた。そしてある時に気付いたのだ。捏ねている間は無心で何も考えていない事に。例え嫌な事があった日でもパンを捏ねてる時間はそれを考えなくて済む。この事に気付いた茜は嫌な事があった時程パンを作るようになったのだ。
今回はどのような嫌な事があったのだろうか。
仕事のストレスだろうか。
上司に仕事のミスでも責められたのだろうか。
同僚に嫌な奴でもいるのだろうか。
残業や休日出勤が重なっているのかもしれない。
ただ、その事を言葉にしない代わりに、茜は無表情で目の前の生地を一生懸命に捏ねるのであった。
「……うるっさいわっ!」
「そのナレーションみたいに実況するのやてくれる? お父さん」
茜にそう言われてしまった目の前の父親は動揺するのであった。
「はぁ……死んだ筈のお父さんが幽霊になって現れたと思ったら、ナレーションみたいにしか話せなくなったってどうゆうことよ?」
茜の父親はそのような契約で一時的に現世に戻って来たようであった。これを制約と誓約と言った。
「いやどんな契約よ。まぁでも何かしら縛りがないとそんな事も出来なそうではあるけどさ。だったら制約が弱くない? そんな制約で良いんだったら世の中幽霊だらけになってると思うわ」
閻魔大王の気まぐれなのであった。
「気まぐれて。閻魔大王は暇なんか?」
閻魔大王は多忙で参っていたのであった。だからだろうか、冷静な判断が出来なかったのかもしれないのであった。
「なんか急に雑になってない? ってかはじめの方はもっと流暢にナレーション調に話せてたじゃん、何で今は『であった』縛りなのさ」
父親は娘に何故か責められるのであった。そしてそれは「であった」を使えばそれっぽくなる事に気付いてしまったからなのであった。
「まぁ別に何でも良いけどさ。そろそろ捏ね具合も良さそうだから一次発酵入りまーす」
そう言うと茜は捏ねていた生地の表面に艶が出るよう丸く成形してから銀色のボウルへ入れた。ラップの箱を持つとビィーと音を立てながら箱の中身を引き出しその上に掛ける。箱を持つ手を捻るように動かすと気持ちの良い音で切れた。
茜はこの瞬間が好きだった。切れ味の良い少し値の張るラップでなければ駄目だ。安いラップではこのように気持ち良くは切れない。茜はラップを切るこの瞬間の為に料理をしてるまであった。幼少の頃などはラップを切りたくていつもラップの箱を持ち歩き「ねぇこれラップかける?」と両親に訊いては何にでもラップを掛けたがった。そんな茜を両親はラップ担当大臣に任命した程だった。
「絶妙に恥ずかしい過去を放り込むの止めてよ。確かに安いラップだと綺麗に切れないから最終的に引きちぎる事になるけども」
そう言いながら茜はラップを張ったボウルをオーブンレンジへ入れると、ダイアルを回して発酵モードにする。35℃と40℃が選べるが茜はいつも40℃だった。だがその事に特に理由はなかった。
「だって何となく温度高い方が良く発酵しそうじゃない?」
茜は雑な頭で雑な発想をしているようだった。
「おいこら娘になんて事を言うんだあんたは」
実の親の事を「あんた」などと呼ぶ娘に育てた覚えはないと父親は思うのであった。
「お父さんも最初『女』呼ばわりしてたからね?」
それは構成上必要だったのであった。
「いや、ナレーションみたいにしか喋れないのがちょっと楽しくなってたんでしょ。自分からナレーションに寄せていったクセに」
図星を突かれた父親は頬をポリポリと掻くのであった。
「まぁ、でもこうやってまた話せて嬉しいよ。困ると頬を掻く癖もまた見れたしね」
茜は電気ケトルでお湯を沸かすと、ルイボスティーのティーパックを入れたマグカップへと湯を注いだ。ティーパックを上下に揺らす。透明の湯の中に赤褐色が滲み出して来る。だが猫舌の茜は直ぐに飲む事は出来ない。
「お父さんの子供だからね。熱い物は苦手なの。タバコだってお父さんの影響だからね。だからか私がこっそり吸ってるのがバレた時もお父さんだけは何にも言わなかったよね。いや言えなかったの間違いか。ホタル族? だっけ? クッソ寒い冬でもベランダで吸ってるのを眺めてた頃は、何でなんだろうって思ってたけど今なら気持ち分かるよ。まぁ私は加熱式タバコだからホタルではないけど」
そう言って茜は小ぶりな箱から白いスティックを取り出すと、加熱式タバコ本体へ挿入して側面のボタンを押した。点滅していた光のゲージが点灯に変わると一度振動する。吸い始めの合図だ。
頭を出しているスティックのフィルターを口で挟み吸い込む。それは紙パックの飲料を吸ってるようにも見えた。ヒーターで熱せられたグリセリンが蒸気となって気管へと流れ肺を充たしていく。
茜は下唇を上唇より前に出すとそれを上方へと吐き出した。その顔はしゃくれたプロレスラーの顔真似に見えた。父親はそんな茜の姿を眺めながら、なんとか実体の無い自分も一口で良いから吸う方法はないだろうかと考えていた。
「おい、誰が『元気ですかーっ?』だ。『元気があれば何でも出来るっ行くぞっ』じゃないのよ。娘を友達の距離間でイジるな。この無邪気な父め。まぁ人が吸ってる所を見ると自分も吸いたくなっちゃうよねー。でも無理でしょうよ。それが出来るなら今作ってるパンだってお父さんに食べて欲しいもん。私が色々料理するのだってお母さんの影響ってゆーよりお父さんの影響だもん。私が生まれて土日が休みの仕事に転職したらしいけど、お父さん元々料理人だったでしょ? それで素とか使わずに色んな料理作ってくれたじゃんね、何だか子供心に自慢でさ、うちのお父さんの料理は凄いんだぞーってね。あっお母さんには内緒ね、まぁ薄々気付いてるだろうけどさ。うん、だからさ、もっと私の作った物、食べて欲しかったなって思ってるよ」
父親は少し困ったようにはにかむ。その理由はパンは作った事がなかったからだった。
「いやパンはたまたま今作ってるからでしょうよ。お父さんの料理してる所に憧れたけど、実際に教わったのはお母さんだからねっ。もう一度言うわ、お母さんだっかっらっねっ」
そんな事を話しているとオーブンレンジの電子音が鳴った。一次発酵が終わった合図だ。オーブンレンジの扉を開き発酵具合を確かめる。約二倍程に膨らんだ生地は頭上のラップへと届かんとしていた。
気持ち良く膨らんだそれをスケッパーを使ってボウルから剥がして作業台へと落とす。握った拳で潰しながらガスを抜くとぷすぅと間抜けな音がした。
父親は茜が放屁をしたと思った。思わず流し目で怪しむ。恐らくこれは生地のガス抜きの音だと弁明する事だろう。だが茜の事だ、ガスが抜けると同時に放屁をしてカモフラージュをしている可能性もある。俗にいう「重奏放屁」だ。
「いや聞いた事ねぇよ! してねぇし!」
ガスを抜いた生地を三等分にすると、台の上でころころと転がして丸める。それに固く絞った布巾を被せて10分寝かせる。いわゆるベンチタイムだ。茜はこの時に思い出したかのようにルイボスティーのマグカップへと口をつけた。完全に冷めきってしまっていたようだ。
「色々と直ぐ忘れる阿呆なもんでね。これもお父さん譲りだからね。一つの事に集中すると何かしら忘れるの。小さい頃に野球の試合を観に連れてってくれた時だって、私が途中で飽きて会場の外に遊びに行ったのに、試合が終わるまで気付かなかった事あったよね。懐かしいなぁ」
その節は大変申し訳なかったと父親は思うのであった。茜が父親を眺めながら加熱式タバコをまた1本吸った。
「発酵に掛かる時間が長いからベンチタイムってめっちゃ短く感じるよね。生地も馴染んだから成形をしますかね」
茜は丸めた生地の1つを布巾の下から取り出すと打ち粉をし、手のひらで押し潰してからめん棒を使って楕円形に伸ばしていく。時折手で修正しながら最終的に角の丸い長方形のように成形した。
そこへピザ用にカットされたナチュラルチーズとチェダーチーズのミックスを端は避け、ムラのないよう満遍なく掛ける。どうやらチーズ系のパンを作るようだ。伸ばした生地を手前からチーズを巻き込むように巻いていく。すると茜の拳程の大きさになった。残りの生地も同様にした。
次に取り出したのはクッキングシートとパンウドケーキ型だ。広げたクッキングシートの中央にパウンドケーキ型を乗せると、慣れた手付きで折り目を付けていった。型をどかして折り目通りにシートを折ると、型の中にスッポリ収まる箱型のクッキングシートの出来上がりだ。
父親は感心の声が漏れた。そんな父親を横目に茜は型からはみ出した部分をキッチンバサミで切っていく。
「動画見ながら真似してさ、回数こなすうちに慣れるよ」
器用な娘に育ったものだと父親は思った。
準備を終えたパウンドケーキ型に先ほど成形した生地を並べて入れるとその上にまた布巾を掛けた。
「はいっでは最終発酵です。これが一番長いからね。この間にお片しだ」
茜は銀のボウル、スケッパー、めん棒、計量スプーン、計量カップ、作業台の上に敷いていたシリコン製マットの順で洗う。このアパートのキッチンはカナダからの輸入品で日本のそれよりスケールが大きい。シンクも広々としており、大型の調理器具を洗うのにも苦労はなかった。
「いやなんでそんな事知ってんの? それ私がアパートの内見の時に受けた説明じゃんか」
引っ越し先が決まった時に嬉々として教えてくれたのだった。その事を忘れてる娘に父親は一抹の寂しさを覚えるのであった。
「あーそかそか。私が言ったのか。ごめんごめん」
やはり少し元気がない娘に父親は何か嫌な事でもあったのか訊きたかった。
「あーうん、まぁ何にもないよ」
茜は頬をポリポリと掻いた。
何にもなくても、何でも言っていいんだぞ。とそう父親は言いたくなったのであった。
「あはっまた語尾が雑になってるじゃん。『言いたくなった』で止めても良くない? ふふふっ」
茜は思い出したようにオーブンレンジへ駆け寄り予熱を始める。次にまた加熱式タバコをセットしながら換気扇の下へと移動した。父親に背を向けながら換気扇目掛けて蒸気を吐き出す。
「うーん、ねぇー、そうだなぁ。昔さっ、私が中学生の頃にわがまま言って服を買いに連れて行ってもらった事あったじゃんね。覚えてるかな? 大きいショッピングモールでさ。お父さん足が少し悪いじゃんね、庇って歩くからリズムが一定じゃなくてさ。で、お父さんも一緒にお店の中ついて来てくれたじゃん? まぁお金払ってくれるのお父さんだしさ、心細くないようにって私への気遣いもあったと思うの。そんなお父さんに私さ『もっとスムーズに歩けないの?』って言っちゃったじゃん。そしたらお父さん悲しそうな顔してから一生懸命速足で車に戻っちゃったんだよね。あれさ、本当は中学生にもなって親に買い物ついて来てもらってる自分が恥ずかしかったの。でもそれを直接言えなくて、思ってもない事を言ってお父さん傷付けちゃった。あの時は、ごめんね。お父さんの歩き方にそんな風に思った事ないよ。あの時は子供過ぎたね、ごめん」
はてそんな事があっただろうかと父親は考えたが、どうやら思い出せないようだった。
「そっかならいっか。へへへ」
すると予熱の完了を知らせる電子音が鳴った。
「はいはい今行きますよー。200℃で25分なんだけどさ、これ角食パンのレシピ参考にしてるんだよ。でも今作ってるの山型食パンなんだよね。しかも分量半分だし。だからちょっと焼成時間短くても良い気がするのさ。前の時は15分にした気もするんだけど覚えてないし、今回だとチーズもあるからちょっと心配なんだよね。間を取って20分で一度出してチェクするかな。後は様子見て上にアルミホイル被せて焦げ防止すれば良いからね」
そう言って茜は発酵した生地がめいいっぱい詰まったパウンドケーキ型を天板に乗せ、オーブンレンジの下段へと入れた。チーズパンなら上にチーズを掛けても良かったのではないかと父親は思ったのだった。
「あーね。そーなんだけどさー、違うチーズパンも作った事あるけど最初っから上にチーズ掛けといたら焦げちゃったんだよねぇ。それで途中で入れてみたりもしたけど逆にタイミング遅くて理想の溶け方しなかったりするし、あれって意外と難しいのさ。いや私が下手くそなだけか? やっぱり上に被せ物でもして焼き加減コントロールするのかなぁ?」
父親はそれはトライアンドエラーを重ねるしかないと思ったのであった。
「まーそーだよねぇ。私さ、このパンを焼いてる所を眺めてるの好きなんだよね。モコモコ膨らんでさ、だんだん焼き色が付いてってどんどん知ってるパンみたいになってくのが楽しいんだ」
なら一緒に眺めようと父親は娘の横に並ぶのであった。
「出た『のであった』の連用。下手くそか」
辛辣な娘に父親はしょんぼりしたのであった。
「ふふふっ。ごめんごめん……」
「んー」
「ふぅー」
「うんっ」
「お父さんあのね、お父さんが癌になって闘病して沢山苦しかったよね」
「それで……うぅ……それでね、いよいよヤバイぞってなって、お母さんと私が交代で病院に泊まってたじゃんね。それでお父さんせん妄が結構出始めて、歩けもしないのにしきりに何処かへ行きたがったりしてね、それで私と一緒の時にお父さん立ち上がって本当に何処かへ行こうとしちゃったの。私、止めに入ったんだけどさ、本当にびっくりするくらいお父さん力が強くて、ガリガリでほとんど皮しかなくて歩けもしなかったお父さんなのに、私の力じゃ制止できなくてさ、駆けつけた2人の看護師さんと3人掛かりで止めたの。けどそれでもあの時のお父さんの力に敵わなくて……」
「それで……それで……ね、看護師さんの一人が先生に連絡して『セレネースを使う許可を得ましたから静注して良いですか』って私に訊いたの。私、思わずお願いしますって言ったんだ。目の前の事に呆気に取られててちゃんと考えてなかったのに。そうしたら、そうしたらね、お父さん、そこから……喋れなくなっちゃって、目は開いてるのに意識があるのかないのかも分かんなくなっちゃって」
「うぅ……本当ならせん妄でちゃんとした会話にならなくったって、お父さんの言葉で最後まで話せてたんだよなって。私がお願いなんてしなければ、せん妄もきちんと抑えますから止めて下さいって言えてたらって……」
「だってお父さんそのまま二日後に死んじゃうんだもんっ」
「うぅ……それでね、お父さん喋れなくなって、こっちからの問い掛けも届いてるか分かんない状態だったんだけどね。もう今しかない、今を逃したら一生言葉にする事なんてないと思ってね、私さ、お父さんに言ったんだよ」
「耳元でね『お父さんの子供で幸せだったよ。生んでくれて、育ててくれてありがとう。お父さん大好きだよ』って、そう言ったんだけど……」
「今思うとあれは届いてなかった気がするんだ。あの状態のお父さんは目を開けたまま昏睡してたと思うんだよ。だから、あれは私のただの自己満足で、結局私はお父さんから貰うばかりで、何ひとつ返せなかった。本当に何ひとつも、感謝の言葉すら返せなかった」
何だ、そんな事を悔やんで元気がなかったのか。元より父さんはお母さんにも茜にも何も伝える事はなかったよ。だって感謝も愛してるもそれまでに沢山たーっくさん伝えて来たからな。確かに残して逝くのは心配だし辛いさ。でもお母さんには茜が居る。茜にはお母さんが居る。お母さんは強い人だし、茜は器用で何でも出来る。だからもし、父さんが最後まで話せる状態だったとしても、最後に掛ける言葉なんてなかったと思うよ。何も言う事がないくらい、二人はとても素敵な人だからだ。だからそうだな、ただ一言「ありがとう」だったよ。
それに父さんは茜から沢山たーっくさん貰ってたんだよ。茜が言葉を覚えて、立ち上がって、歩き出して、元気に走り回って、あんなに嬉しい日々はなかった。少しずつ大人になっていく茜を支えさせてくれてありがとう。
最後に素敵な言葉を掛けてくれてありがとう。
茜、貴方の成長が父さんの財産です。そんな父さんの財産をどうか、どうかこの先もずっとずっと大切にして下さい。守って下さい。粗末にする事は父さんが許しません。だって父さんの財産だからね。
茜の父親にしてくれて本当に、本当にありがとう。
と父親は言っているのであった。
「はははっ何それ締まらないじゃんっ」
父親と娘は泣きじゃくりながら笑い合うのであった。
「わっお父さんなんかどんどん浮いてるよー」
あっマジじゃんと父親は気付いた。どうやら刻限になってしまったらしい。
「ありがとうね。元気づける為に来てくれたんでしょ。元気になったよ、もう大丈夫」
茜は満面の笑みを見せてくれた。何に躓いても良い、立ち止まったって良い、ただ元気でその笑顔だけは忘れないで欲しいと父親は願った。
「はい、了解です」
父親は何だか頭が引っ張られてる気がするのだった。
茜、健康で元気にやっれんっっっ
「わっお父さんが釣り糸で引っ張られたみたいにぶっ飛んでった。閻魔大王に宜しくねー!」
「いやーでも頭の三角のやつがビョーンってなってたなー。あそこって引っ張る用に付いてるのかな? おっちょうどパンが焼けたよ。チーズミニ食パンの完成だっ」
えーミニ食パンとかめっちゃかわちぃんですけどー。まっ手作り? パないじゃん。てか切って見せてよー。うわっ断面ウケる。チーズが渦巻きしてるんですけど。てかこれ萌え断じゃん。ワンチャン映えじゃね? 万バズ狙える系?
「……何でギャル語を話す見知らぬおばあさんの幽霊が居るのよっ!!」
おわり
パンが出来上がる迄の、その間だけ 花恋亡 @hanakona
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