転生したら悪役の王様だった
若葉結実(わかば ゆいみ)
第1話
40歳後半になったある日のこと、俺は突然、現実世界で病気になり死んでしまった。でも気が付いた時には、異世界となるヴァンドールと呼ばれる小さな国の王様となっていた。
ここにきて1年ちょっとになるのだけど、周りの人達にヴァンドールではなく『ドール王』と愛称で呼ばれるぐらい親しくなれていた。本当の王様がどういう人だったのかは知らないけど、別人の様に優しくなったと言われるぐらいだから、あまり良い王様ではなかったのかもしれない。
「ドール王、謁見時間は過ぎています。そろそろお休みになられてはいかがでしょうか?」
王室に入ると、妻であるアーシャは出掛けているのか居なかった。俺はとりあえずベッドに横になろうと奥に進んだ。
すると誰も居ないはずなのに、「アヴァリス……」と、ゾクッとするような低音の声が聞こえてきた。
アヴァリス? 誰だ? それに何処から聞こえてきたんだ? そう疑問に思いながら、俺はキョロキョロと辺りを見渡す。
「アヴァリス……いるか?」と、もう一度、声が聞こえてきて、ようやく鏡の中からだと気付く。俺は鏡の前へと移動し、椅子に座ると、試しに「……はい」と返事をしてみた。
「長らく計画の報告が無かったが、順調に進んでいるか?」
これって……よくゲームにある魔法による通信? じゃあ相手は魔族? それに計画ってなんだ? 本当の王様が魔族? で、何か企んでいたのか? 分からない事ばかりだ。
「返事が無いという事は順調ではないのか?」
「あ、いえ……順調です」
「そいつは良かった。我が百獣の軍団に加わるために城内を手薄にするから、侵略しろと私利私欲のために話を持ち込んで来たのは貴様だ。失敗があったら、その場で八つ裂きにしてやるから覚悟しておけよ」
「……はい」
「では一ヶ月後に会おう。その頃には貴様が飲んだ薬は効き始め、魔族の仲間入りになっているだろう。楽しみにしていると良いぞ」
そこで通信が途絶えた様で、魔族の声は聞こえなくなる。俺は今の出来事が信じられなくて、まだ鏡を見つめていた。
なんて事だ……俺はゲームに出て来る悪役の王様に転生していたのか……そうなると流れは決まってしまっていて、最後は魔族と共に勇者に殺されるに違いない。せっかく異世界とはいえ生き返ったのに……。
──とにかく! 嘆いていても仕方ない! 計画は大体、分かった。幸いの事にまだ一ヶ月あることも分かったし、だったらその計画、利用させて貰うとしよう!
★★★★★
次の日の朝。朝食を食べ終わった俺は、直ぐに娘のセーラの部屋へと向かった──部屋の前に着くと、ノックをして返事を待つ。
「はい、どうぞ」
「邪魔するよ」
俺は部屋の中に入り、窓の前にある椅子に座っているセーラに近づく。
「お父様。どうされました?」
「ちょっと大事な話をしようと来たんだ」
俺はそう言って、セーラと向かい合う様に座る。
「大事な話?」
「……お前の結婚相手の話だ」と、俺が切り出すとセーラは暗い表情を浮かべ視線を逸らす。
セーラは金髪でサラサラのロングヘアをしていて、エメラルドグリーンの様に綺麗な瞳をしている。まるでお人形の様に整った顔をしているので、縁談の話は良くある。だからきっと、この後の話が良い話ではないと思っているのだろう。
「大丈夫、分かってます……お父様、お母様。そして民の為には、大国の王子と結婚した方が良い事は……」
「そんなの関係ない」
「え……?」
「そんなの関係ないよ。お前が話していた、お転婆王女を救ってくれた青年とは、どんな感じなんだ?」
「どんなって……」
恥ずかしそうに頬を染めるセーラをみて、少なくとも、その青年に恋心を抱いているのは分かる。だから俺は「二人でやっていけそうなら、この城を出て行っても良いんだぞ?」
「! それは本当ですか!?」
「うん、本当だ」
「……でも、臣下が許さないじゃ……」
「そんなのどうにでもなるさ、俺はこの国で一番エライ、王様だぞ!」
「お父様……ありがとうございます。ちょっと考えてみます」
「あぁ……でも出来るだけ早くしてくれ。そうだな、半月以内に決めて欲しい」
「そんなに急に!? どうしてですか?」
「えっと…………嫌な話が入っているんだ」
「あぁ……だから話をしに来てくださったのですね」
「あ、あぁ。そういう事だ」
「分かりました。なるべく早く決断します」
「そうしてくれ」
俺は椅子から立つと、セーラの部屋を後にして「ふー……」と溜め息をつく。咄嗟に嫌な話があると言ってしまったが、その後の事は何も考えていなかった。上手く他国との縁談があると勘違いをしてくれて、助かった。
★★★★★
自由な時間はまだある。俺は一旦、自分の部屋へと戻った──部屋に入ると、アーシャが椅子に座りながら本を読んでいるのが目に入る。
アーシャは俺に気付いた様で、顔をこちらに向けてきた。丁度いい、アーシャとも話をしておくか。そう思った俺はアーシャに近づく。
「アーシャ、ちょっと話があるのだけど、良いかな?」
「はい、良いですよ」
「……いまセーラの部屋に行って、政略結婚の話は気にするな。好きな人が居るなら、この城を出て行って良いと伝えてきた」
アーシャは驚くと思いきや、眉一つ動かさず本をパタンと閉じて「そうですか」と返事をする。
「考えておくと言っていたから、まだ先の話になるが、半月以内で決めてくれと言ってある」
「分かりました」
「…………これから先の話だが、半月以内にドンドンと色々な事を決めていこうと思っている。もし……もし気に入らない事があれば、その……城から出て行っても構わないから」
「分かりました」
……アーシャは前からあまり感情を出さない人だとは思っていたけど、流石にこの話をしたら、もっと疑問に思われたり、怒られるかと思っていたのだが……アーシャは今、何を考えているのだろうか?
本物の王様と何かあったのか? とか、逆に色々と知りたくなってしまったけど、俺は余計な事は話さずに自室を後にした──。
謁見時間が過ぎると俺は、大広間に大臣たちを集める。そこで今後の事を切り出した。当然の様に大臣たちは顔を歪めて、不快な表情を浮かべる。
「政略結婚の話を取りやめる? では大国や魔物からどうやってお城を守るおつもりですか!?」
「民から税金を取るのをやめる? では様々な費用をどのように支払うおつもりですか!?」
「兵士をすべて解雇する? 正気ですか?」
「使用人をすべて解雇する? そのようにして、どうやって生活するおつもりですか!?」
「えぇいッ、うるさい! 黙れ!! 我の言うことが不満だと言うなら、今すぐにでも出て行くと良い! 止めはせぬッ!!」
俺がそう一喝すると、大臣たちは黙り込む……一人がその場を離れると、次々と他の大臣たちも無言で去っていった。そうだ……それで良い。
★★★★★
それから半月後。愛想を尽かした臣下たちは皆、城から出て行き、残ろうとした使用人たちも解雇した。その間、魔物や他国に城を襲撃されない様に、傭兵団だけは雇っていて、それ以外に残っているのは俺と妻。そして娘だけとなる。
娘のセーラから城を出て行くかどうかの話はまだされていない。焦ることは無いのだけど、今日あたりしてくれるだろうか?
仮にセーラが慕う青年との仲がダメだったとしてもセーラはもう16歳。城から無理矢理、追い出しても妻のアーシャと二人でやっていけるだろう。
──不安な気持ちを抱えながら王室にある椅子に一人で座っていると、コンコンと優しいノックの音が聞こえてくる。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
入って来たのはセーラの方だった。返事をしに来てくれたのだろうか、セーラは感情が入り混じっている様な複雑な表情を浮かべていて、その先の話が読めなかった。
「どうしたんだい?」
「ブライア様との話をしに来ました」
「君が慕っている青年かい?」
「はい。二人で話し合って、明日から一緒に旅をする事を決めました」
「そうか、そうか。それはめでたい!」
「でも…………本当に良いんですか?」
「構わないよ。さて……そう決まったのなら、お前に渡したい物がある」
「渡したい物、ですか……?」
俺は椅子から立ち上がり──鍵付きの机にしまっておいた鍵を取り出す。そしてセーラに近づくと、その鍵を手渡した。
「これって……」
「そう、凄く大事なものをしまってある宝物庫の鍵だよ」
「良いんですか!? これを持っていったらお父様達は……」
「子供が親の心配なんてしなくて良いんだよ。上手く使いなさい」
「……ありがとうございます、お父様!」
「うんうん」
俺は嬉しそうに出て行くセーラを黙って見送る。すると入れ違いにアーシャが部屋へと入ってくる。
「アーシャ。セーラは明日、出て行くって」
「はい、聞きました」
「…………アーシャは? ……アーシャはどうするんだ?」
「私は残りますよ」
「どうして? 残っているのは俺だけ。金だってほとんどないし、何もかも自分でやらなきゃいけないんだぞ? ここに居るメリットが何処にある?」
「別に……私は贅沢したくてここに居る訳ではありませんから」
アーシャはそれだけ言うと、もうこれ以上話したくないのか、またスッと部屋を出て行った。
娘が可愛いのだからアーシャも当然、可愛い。というか、絶世の美女と呼ばれる程、美しい。だからきっと、俺なんかと居なくてもやっていけるに違いないのに意地っ張りなのか、真面目なのか……良く分からないが困ったものだ。
まぁいずれにしろ、まだ時間はある。それまでに根を上げるかもしれないし、様子を見るとしよう。
★★★★★
妻が自ら城を出て行かないかと様子を見ていたら、魔物が来る前日となってしまう。俺は魔物から通信があるかもしれないと、一人で朝から鏡の前にある椅子に座って様子を見ている状況だ。
「アヴァリス……いるか?」
「はい、ここにいます」
「明日は約束の日だ。順調に人間どもを追い払えたか?」
「……はい」
「では夜に到着する。楽しみに待っていると良い」
「はい」
そこで通信が途絶え、俺は「ふー……」と溜め息をつく。するとガチャっとドアが開く音が聞こえ、俺は慌ててドアの方に視線を向けた。
「アーシャ、どうしたんだ?」
「貴方……いま誰と話していたのですか?」
「え? ……誰とも話してないよ」
「でも声が……」
「あぁ。ちょっと独り言を言っていたんだ」
「……そうですか」
アーシャは返事をして部屋の中に入ってくると、俺の近くの椅子に座る。そしてテーブルの上にあった本を手に取り読み始めた。
「…………ところでアーシャ」
「なんですか?」
「君はその……この城を出て行くつもりはないのかい?」
俺が思い切って聞いてみると、アーシャはパタンっと力強く本を閉じ、テーブルに置くと、珍しくキッと睨んできた。
「逆に聞きますけど、貴方は何でそこまでして私を追い出したいのですか? 私、貴方に嫌わるような事しましたか!?」
「いやぁ……してない」
「じゃあ、何故です!?」
「それは……」
「それは?」
「…………ごめん、言えない。あのさ、君は贅沢したくてここに居る訳ではないって言ってたよね? じゃあここに残りたい理由って何なの? 聞かせてくれないか?」
俺がアーシャに聞くと、アーシャは困ったように眉をしかめる。今日のアーシャはいつもと違って表情が豊かだ。
「それを……私に聞くんですか?」
「うん、分からないから聞きたい」
アーシャはスゥー……と鼻で息を吸い込み、飽きられ様な表情で「一緒にいたい。ただ少しでも長く一緒に居たいからですよ。その気持ちに理由なんて必要ですか?」
「い、一緒に居たいから!? そんな……そう思って貰える様なことを俺は……」
「してないとでも?」
アーシャはクスッと微笑み、首に付けているペンダントを持ち上げ俺に見せてくる。
「これを覚えていますか?」
「あぁ、もちろん」
「私は幼い頃から感情を出すのが苦手で、両親でさえ私に興味を持ってはくれませんでした。だから貴方のところに嫁ぐことになっても、悲しむどころか喜んでいたぐらいです」
「……」
「貴方も私に無関心な時がありましたよね? セーラが産まれても、まったく喜んでいる素振りは見せてくれませんでした。それが去年の私の誕生日の時、突然、人が変わった様に、『誕生日だったの!? だったらお祝いに何か買ってあげるよ』なんて言い出すからビックリしました」
そう……俺がまだ転生したばかりの時、ふとしたキッカケでアーシャが誕生日だと知って、そう言ったんだ。そして、ペンダントを買ってあげた。
「単純な女と思われるかもしれませんが、その時、祝って貰えたことがただただ嬉しくて……この一年で何があっても、貴方と一緒に居ようと思えるようになりました」
「そうだったのか……」
そうだとすると、アーシャが自ら城を出て行くことはあり得ない。だったら──。
「分かった。出て行けなんて言わない。それじゃ……隣国まで旅に出るのはどうだ?」
「旅に? もちろん、貴方も一緒ですよね?」
「……うん、一緒だ。だけど俺は明日、やる事があるから、先に行っていて欲しい」
「…………分かりました。準備を済ませて先に行ってます」
「ありがとう」
アーシャはスッと立ち上がると「あ……」と声を漏らす。
「どうした?」
「これを渡しておきます。大切のものなので、絶対に返してくださいね」
何かを感じ取っているのか、アーシャは何故かそう言って、俺に近づくと首に掛けていたペンダントを外して俺につける。俺は……愛しさと切なさが込み上げてきて、スッと立ち上がり、アーシャの腰にソッと腕を回してギュッと抱きしめた。
「……あぁ、きっと返すよ」
俺はそれが叶わないと思っていても……アーシャの気持ちを考えると、そう返事をするしかなかった。
★★★★★
次の日の朝……アーシャは旅支度をして城から出て行った。傭兵団達とは既に契約を打ち切ってある。これで城に居るのは俺だけ、後は魔物……いや、きっと手下も連れてくるだろうから、魔物達を迎えるだけだ。
──薄暗くなってくると、俺は城の外で魔物達を待っていた。ドクン……ドクン……と、体が波打っていて、感じた事のない程の巨大な力が、みなぎってくるのが分かる。魔物化が始まっているに違いない。
「……これで人間の姿でいるのは終わりか」
──魔物になった事による能力なのか、暗くなってきているのに見渡す限りの草原が昼間の様にハッキリと見えてきて、動物の姿をした魔物達が、ゾロゾロと歩いてくるのが見えた。
真ん中にライオンの姿をした魔物が威風堂々と歩いている。おそらくあれが、この魔物達のボスで俺に通信してきた奴だろう。
「──待たせたな」と、ライオンの姿をした魔物は手下たちの一歩前を進み俺に近づく。そして「ほぅ……これが我の城か」と、城を眺め始めた。俺は黙って様子を見る。
「ライオ様。早速、中に入りましょう」
「そうだな」
ライオと呼ばれたライオンの姿をしたボスは城に入ろうと歩き始め……俺はライオの手首を掴んで阻止をする。当然のように、ライオは俺を睨んできた。
「貴様、どういうつもりだ!?」
「どうもこうもねぇよッ! 俺の城に入ろうとするなッ!!」
俺が思いっ切り手首を握ると、ライオは痛そうに顔を歪める。俺は少しでも城から離そうと、ライオを手下たちの方へと、ぶん投げた。ライオは……手下たちに支えられ、態勢を立て直す。
「貴様ぁ……裏切りやがったなッ!!」
「裏切る? ハッ! 最初からお前らの仲間になろうだなんて、思ってねぇよ!! 俺は大切な人達が、傷つかない様に全員を逃がしただけだッ!!」と、俺は叫びながら、魔物達に向かっていく。
そう……俺はライオから通信を受けた時から、こうするつもりだった。現実世界の俺は、子供どころか結婚も出来ず、友達と言える人はいなかった。でも……異世界に来てから俺は全てを手に入れた! 俺はそれを守りたかったんだ!!
「だから! 大切な人達が安心して戻って来られるように、すべてを捧げてこの城を守り切ってやるッ!! うぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
──思った以上に俺は強い魔物になった様で、俺の攻撃で面白いぐらいに魔物達がバッタバッタと倒れていく。
「おのれぇ……調子に乗りおってッ!!」と、手下の後ろに隠れているライオが叫ぶ。右手を俺の方へと突き出し、「内なる悪を目覚めさせ、我に従う奴隷とする……」と、何やら唱え始めた。
何か来ることは分かるけど、対処の方法が分からない。俺は手下たちを倒しながら様子を見る事しか出来なかった。
「いずれはお前も支配するつもりだったんだ! 何も手を打ってないとでも思ったかっ!! ダーク・マインドッ!!」
「……グッ!!」
ライオの右手から黒い光が放たれたかと思うと、急に頭が痛くなって膝をつく。これはヤバい……意識を失う。
「……し……しなさい」
遠のく意識の中で微かに聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「……し……かりしなさい」
この声は……まさか、そんなはずは……。
「しっかりしなさい! ドールッ!!」
目を開けると、俺はアーシャに体を支えられ、立っていた。
「アーシャ……なぜここに?」
「貴方の様子がおかしかったから、兵士たちを呼び戻し帰って来たのです」
「ドール王! 後の事は我々に任せて休んでいてください!」と、兵士達が優しい表情で声を掛けてくれ、真剣な表情で魔物達に向かっていく。
「ライオは!? ライオンの姿をした魔物は何処にいる!?」
「大丈夫ですよ、お父様」
後ろから娘の声が聞こえ、俺はビックリしながらも後ろを振り向く。セーラは本当に安心しきった表情で微笑んでいた。
「どうしてだい?」
「だって、ほら。ブライア様が、お父様がくれた剣で戦ってくださっているのですから」
セーラが指差す方向をみると、ゲームの勇者のような恰好をした青年がライオと戦ってくれていた。
「……互角。いや、それ以上か。凄いな」
「当たり前です! なんてたってブライア様は、勇者を目指しているお方ですから!」
娘の惚気る姿を見て、戦いの最中だというのに「ふ……」と笑ってしまう。
「それにしても姿が違う俺の事が良く分かったな」
「分かりますよ。だって、ペンダントを身に付けてくださっているのですから」
「あぁ、そうか……」
アーシャにペンダントを返そうと首に手をやると、アーシャは俺の手を止め、首を横に振る。
「後にして下さい」
「……そうだな。じゃあ……十分やすめたし俺も行く!」
「貴方……気を付けて」
「うん」
目指すはライオ一択! 奴を倒せば手下たちは逃げていくだろう。俺はそう思って、真っすぐライオに向かう。途中は兵士達がサポートしてくれたから、すんなりと近づくことが出来た。
ブライア君は俺が近づいてくるのが分かったのか、道を開けるかのように避ける。そして「ヴァンドール国王、これをッ!」と、剣を差し出してきた。
「サンキュー」
俺は止まることなくそれを受け取ると、そのままの勢いで突進してライオの土手っ腹に風穴を開けた。
「グォォォォォォ!!」と、ライオは汚ねぇ叫び声をあげ……地面へと倒れこんだ。それを見た手下の魔物達は、慌てて逃げていく。
「やったぁ!」
「やったぞぉ!」
兵士達が喜びの声を上げる中、俺はブライア君に近づき剣を返した。
「ありがとう」
「良いんですか?」
「あぁ、娘が君に渡したんだ。これは君のもだよ」
「ありがとうございます」
「娘を頼んだよ」
「はい!」
続いて俺はペンダントを返すため、アーシャの元へと向かった──。
「アーシャ。これ、返すよ」と、俺が外したペンダントを差し出すと、アーシャはムッとした表情を浮かべて何故か受け取ろうとしなかった。
「どうしたんだ?」
「後にして下さいって言いましたよね?」
「? だから戦いの後にしたじゃないか?」
「貴方、私と一緒に隣国まで旅をする。そこでそのペンダントを返すって約束しましたよね?」
「あ、あぁ……そうだな」
「じゃあ何で直ぐに返そうとするんですか? まさか貴方、魔物の姿になってしまったからといって、城から出て行こうとしているんじゃないでしょうね?」
「! それは……」
図星を突かれて返す言葉が見つからない。どうせここで嘘をついたところで、直ぐにバレてしまいそうなぐらい、アーシャは真剣な目で俺を見つめていた。
「ごめん。正直に話すとそうしようとしていた」
アーシャは呆れたように両手を腰にやり、溜め息をつく。
「やはりそうでしたか……貴方は貴方! 姿形が変わろうとも、私が愛した人には変わりはありません! もし貴方が、城に戻るのが気まずいなら、私も付いて行きます!」
アーシャはそう言って、俺に近づくと腰に手を回す。そして優しく抱きしめながら「だから……だから置いていくなんて悲しいことしないでください」と言ってくれた。だから俺も、アーシャを優しく抱きしめる。
「分かったよ」
俺が返事をしたところで、拍手が聞こえてくる。どうやら皆で俺達の方を見ていたようだ。俺は照れ臭くなり、アーシャから離れる。
その時、アーシャの顔を見ると、アーシャは珍しく頬を赤く染めていた。それだけお互いに周りが見えないぐらい夢中だったのかもしれない。
「大丈夫ですよ、ドール王! 私達もどんな姿であろうともお仕えします」
「そうですよ!」
「お父様。心配なさらずとも私達がきっと、お父様を治す方法を見つけますわ! だから、二人とも安心して末永く、お暮しください」
「みんな……ありがとう」
泣きたくなるぐらい皆の気持ちが心に響き、温かくする……俺は本当にこの世界に来て、幸せ者になれた。そう思える様な瞬間だった。
こんな姿になってしまったのだから、この先、困難が待ち受けているのは間違いないだろう。だけど……これから先もずっと、ここにいる大切な人達を守り抜いて行こう。俺はそう心に誓った。
転生したら悪役の王様だった 若葉結実(わかば ゆいみ) @nizyuuzinkaku
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