邂逅編3話 いつの時代も間が悪い



「とりあえず移動の準備だ。話の続きはリグリットに向かう道中でだな。すまないが、水と食料を分けてもらえないか?」


もっと話を聞きたいが、現実がそれを許さない。胃を空にしてコールドスリープに入ったオレ達は、当たり前だが腹ペコなのだ。消費カロリーが生身と桁違いのバイオメタル兵は、茶菓子のクッキーぐらいじゃ全然足りない。


「俺らは捕虜だぜ。頼むよりも奪う方が早えだろうに。」


トニーはボンバーヘッドをボリボリ掻きながら不思議そうな顔をした。


「分からず屋と交渉する気はないが、おまえらはそうじゃない。話が通じるなら、言葉で解決するさ。」


「お腹が空いてるかもと思ってお茶菓子と一緒に携帯食料も持ってきたの。はい、どうぞ。」


ノエルが目覚めたばかりの兵士達に携帯食料を渡してくれたので、欠食児童のようにがっつく。空腹という最高のバフがかかってるってのに、あまり旨くない。正直に言えば、腹が減ってなきゃ絶対に食わないってマズさだ。たぶん、みんなオレと同じ感想だろうな。


「もらっておいてなんだけど、酷い味ねえ。これを商品化した奴、舌が腐ってるんじゃない? そうじゃなければ、美食家に親を殺されたんだわ。」


リリスは呼吸するように毒を吐いた。オレらは慣れてるが4人組は面食らったようだな。


「貰い物にケチをつけない!……味はともかく、量が足りないわ。あ、もっと寄越せって言ってる訳じゃないのよ。私は重量級バイオメタルだから必要カロリーが軽、中量級より多いの。」


大柄で重量級のシオンは、並の兵士の5倍は食うからな。


「JJ、食料の予備はどのぐらいある? ギリギリの食料しか用意してないって事はないだろ。」


「7日分。リグリットまでの所要時間は、全速移動で20時間ってとこかな。つまり、余裕ありって事さ。」


JJは食料のストックだけではなく、街への所要時間まで答えてくれた。なかなか飲み込みが早いな。アクシデントに備えて食料の予備を多目に準備しておいたあたりも評価出来る。


「シオン、ステルス車両を整備しよう。」


戦闘員は豊富だが、オレらの中にメカニックはいない。本職じゃなければ、その分時間を食う。


「俺も手を貸すよ。逸失技術と言っても原理は同じはずだ。トニー、手伝ってくれ。」


「あいよ。一度でいいから大戦時代のメカを触ってみたかったんだよな。少尉さん、潤滑油は取っ替えた方が早え。通路が広えから、俺らのバギーを取ってくらぁ。誰か見張りをつけとくかい?」


「隊長、どうしますか?」


「手を借りよう。そっちにかけてはJJとトニーが上手うわてだろうからな。見張りは必要ない。仲間を置いて逃げるような輩じゃない事はもうわかった。」


5分もしないうちにトニーは砂埃まみれのバギーに乗って戻って来た。オープンバギーに飛び乗った4人で眼旗魚の格納庫に乗り入れ、整備作業を開始する。思った通り、リガーのJJとメカニックのトニーは手際良く整備を進めていく。手出ししない方がいいと判断したオレとシオンは見学に回った。


……三枚目っぽいセムリカ人は、見た目に反して頭がいいらしい。あっという間に整備マニュアルを読破して、手を動かしながらJJにレクチャーを開始。速読もかなりのスピードだが、一目で整備要綱を理解し、大事なポイントをわかりやすく教えられるとは驚きだ。


……もっと驚くべきはJJなのかもしれない。トニーにレクチャーされる前から、要点をほとんど把握していた。つまり、現物を見ただけでおおよそを理解したって事だ。自分達のバギーからパーツやオイルを抜いて応急整備を終えた2人は、油まみれの手でハイタッチする。


「JJ、炎素エンジンを点火してくれ。見るからに馬力がありそうで、たっのしみだなぁ!」


「オーケー。……ヒュウ♪ この駆動音、ナイス過ぎるぜ!スペクトロンの最新型でもこうはいかねえ!」


2人とも目をキラキラさせやがって。オレも初めて陸上戦艦を見た時はワクワクが止まらなかった。コイツらも同じなんだな。しかし、スペクトロンねえ……


「スペクトロン……スペック社とトロン社が合併でもしたのか?」


「らしいぜ。爺ちゃんからそんな話を聞いた事がある。ま、大昔の話……あ!でも少尉さんにとっては昨日の話なんだっけ。」


「そういう事さ。世界は新たな発見に満ちているな。JJ、トニー、修理の為におまえらのバギーからオイルやパーツを抜いちまったんだろ。」


機構軍側の軍需産業の双璧、スペック社とトロン社が合併。で、リグリットでも商売してやがるとはな。


「ああ。だから足がなくなった。」 「まさか置き去りにはしねえよな?」


「コイツに乗りたいみたいだから、乗っけてってやるよ。シオン、みんなを呼んできてくれ。オレはAI姉妹に命令を出しておく。アルマ、アンナ、ステルス車両にいる。すぐに来てくれ。」


ベーネはい。」 「ウチを呼んだ?」


「静止モードで警戒態勢、オレ達かアスラの仲間以外が格納庫に入ってきたら、主砲で吹っ飛ばせ。」


「了解です。侵入者を倒した後は自動航行でリグリットに向かう、ですね。」 「せやな。誰も来ないのが一番やけど。」


人間用の出入り口の反対側に、大型の格納扉がある。アレを破壊すれば、外に出られる筈だ。ここを基地にする可能性もあるから、出来る限り壊したくないんだが。


「ああ。だが眼旗魚は潜伏可能な場所を探して待機。リグリットに向かうのは、速くて小回りの利く撞木鮫だけだ。アンナ、発見されないように警戒しながら航行しろよ。街の近くまで来たら視認限界線ギリギリで夜を待ち、信号弾を上げろ。打ち上げコードは08DFだ。すぐに応答がなければアルマの元へ戻れ。必ず迎えに行く。」


命令を理解したAI姉妹は敬礼した。施設の入口も隠蔽しておきたいが、それは外に出てからだな。


眼旗魚から発進したステルス車両にJJ達は荷物を移し替え、格納庫の外に出る。


「ちょっと待ってくれ。トニー、入口の溶接を頼む。」


JJは本当に気が利く奴だな。で、トニーは溶接も出来るらしい。メカニックなら当たり前か。


「オーライ。ついでにブービートラップも仕掛けておくか。ちょっと待っててくんな。」


トニーは工具箱を持って車から降りた。


「古ぼけた鳥の巣……いえ、使い古しのモップみたいにダサい髪型の割りに器用じゃない。もっと腕のいい理容師を探せば?」


JJがホウキなら、トニーはモップか。まあ、二人の髪型はそう見えなくもない。だが、リリスの吐いた毒には、思いもかけぬ答えが返ってきた。


「うるせえ!JJは趣味でトンガリ頭にしてっけど、俺はこれが地毛なんだよ!天パだ、天パ!」


マジかよ!そんなモジャモジャ頭が天然パーマとかありえねえだろ!どんなクセ毛だよ!


「あのねえ。そんな理容師見習いの友達が酔っ払ってかけたみたいなバチクソパーマが、天然な訳ないでしょ!冗談は子供の落書きみたいな顔だけにしときなさいよ。」


「このメスガキ、口が悪すぎだろ!扉より先におまえの口を溶接すんぞ!」


メスガキじゃなくてマセガキなんだが。いや、もう13歳なんだよなぁ。出逢った時はちびっ子だったのに、ずいぶん背が伸びたもんだぜ。オツムの中身はハナから完敗だったけど、このままじゃ背丈まで抜かれちまいそうだ。


「はん!先にアンタの口を縫い合わせてあげるわ!」


長い銀髪の毛先でカモンカモンと手招き……毛招きするリリス。念真髪の存在を知らなかったJJ達は、触手みたいに動く髪にあんぐりしてるな。


「喧嘩は後でやれ。トニー、溶接とトラップ設置にどのぐらいかかる?」


「5分もあれば。どうせ仮止めだ。」


予告通り5分でトラップ設置と溶接を終えたトニーを車に乗せ、広い通路を走るとすぐに出口が見えてきた。巨大格納庫の他はいくつか小部屋があるだけの施設だったらしい。


施設から出てすぐの急斜面を下り、平坦な場所でステルス車両を停車。車外に出て周囲を見渡す。切り立った断崖に四方を囲まれた窪地か。夕陽が断崖に隠れちまうまで1時間もなさそうだな。


……地面がかなり濡れてる。ゲリラ豪雨が地滑りを誘発、隠されていた入口が露出した。で、そこを遺跡荒らしが発見したってとこか。


「トニー、おまえは発破も得意だな?」


斜面に剥き出しになった扉には、直径70センチほどの穴が空いていた。おそらく指向性爆薬を使ったんだろう。ブービートラップを仕掛けた時の手際の良さから見て、これはトニーの仕事だ。


「おうとも!俺の通り名は"爆弾屋ボマー"なんだぜ!火薬の事ならなんでも来いさ!」


「手早く頼む。あと1時間もしないうちに太陽が断崖に隠れるだろう。地面が濡れてるから、足元には注意しろよ?」


リュックを背負ってえっちらおっちら崖を登り、溶接に負けず劣らずの見事な手技で爆弾を設置するトニー。


「隊長、土砂崩れがここまで来るかもしれません。車両を退避させ…」


「来ねえよ。時限爆弾の解除からビルの爆破解体、果てはトンネル工事の発破まで、爆弾の事なら一通りやってる。ま、見てなよ。」


嘯きながら戻って来たトニーが起爆スイッチを押すと、爆音と同時に崩落した土砂が綺麗に入り口を覆い隠し、押し寄せる土の波はステルス車両の数メートル手前で止まった。


「いい腕だ。アスラの工作兵でもここまでやれる奴は片手の指で留まる。」


一芸特化の4人組らしいな。……いや、ノエルだけはこれといった特技がなさそうだが。


─────────────────


ぐねぐねした山道を抜けて平地に出たのはいいが、広がっていたのは変わり映えしない赤茶けた荒野。百年近く経ってんのにこれかよ。ま、今の時代のレベルを計る為にもだ、うずうずしているJJにハンドルを預けてみるか。


「シオン、JJに運転を代わってやれ。」


「彼に扱えますか?」


「それを見ておきたい。」


「任せてくれ!爆弾はトニーの十八番おはこ、ハンドルがついてりゃ俺の十八番だ!」


待ってましたとばかりに運転席に座るJJ。お手並み拝見といこうか。助手席に座って発見の経緯を訊いてみる。


「あの施設をどうやって見つけた? 地滑りで入口が露出したんだろうとは思うが、偶然通りかかるような場所じゃない。」


「地図屋のバイトさ。僻地を空中から偵察して、地形の変化や新しい集落なんかがあったら依頼主に報告する。で、天掛少尉の言う通り、交易路から外れてる山の中なんて普通は誰も来ない。だけど滅多に人が来ないからこそ都合がいいって連中もいてね。」


「……ロードギャングか。」


「ビンゴ。ヒャッハーの隠れ家は大抵、交易路から外れた山の中にある。」


この時代でも荒野の無法者はヒャッハーって呼ばれてるらしい。


「で、ヒャッハーのねぐらを見つけたら、地図屋のバイトから賞金稼ぎバウンティハンターに転職するって訳か。」


「……いや、傭兵ギルドに報告するだけだ。駆け出し傭兵の俺らじゃヒャッハー狩りはリスクが高い。規模の小さいグループでも20人はいるからな。いくら何でも1対5じゃ分が悪すぎるんでね。チクリ屋で手堅く稼いで、頭数と装備を整えるのが先決さ。」


傭兵ギルドねえ。大戦時代にもトレーダーギルドって護衛ビジネスがあったが、市場が拡大したらしい。


「JJ、傭兵ギルドについて詳しく教えてくれ。ギルドはいくつある。おまえ達も所属しているのか?」


遺跡帰りって言葉があるぐらいだ。オレ達よりも先に目覚めた兵士がいるに違いない。その中にはアスラの仲間が混じってるかもしれないからな。


「俺達はまだどのギルドにも所属してない。いろんなギルドの仕事をこなしながら、値踏みしてる最中さ。ちっこいギルドは結構あるが、デカいギルドは5つかな。……いや、ディーパーを傭兵ギルドって呼ぶのはなぁ……」


「ディーパー? 何かの略称か?」


「そうさ。正式名称はディープパープル。傭兵というより、ヒャッハーに近い連中でね。ストリートにはストリートの、傭兵には傭兵の仁義ルールってもんがあるんだが、ディーパーはそんなのおかまいなしさ。正直、関わり合いにはなりたくない連中だよ。特にエース傭兵の"狂犬"とか、絶対に願い下げだね。」


狂犬だと!?


「狂犬ってのは、マッドドッグ・マードックの事か!」


「モヒカンゴリラを知ってんのかよ!……そういや狂犬も遺跡帰りらしいし、あの強さならそりゃ大戦時代も有名人に決まってるか。」


「よりによってあの野郎が生きてやがったか。まあ奴の事は後回しだ。有名な傭兵を知ってるだけ教え…」


会話は副官の報告で遮られる。


「隊長!レーダーに熱源反応が!」


「数と距離は?」


「距離は約10キロ。大型カーゴとおぼしき車両が2台。カーゴを取り巻くように小型車両が数台と無数のバイク。……バイクの群れはカーゴを襲撃していると思われます。」


「ナツメ、偵察機インセクターを飛ばせ。バイクは十中八九、ヒャッハーだ。まったく、交易路から外れてるってのに何で出会でくわすんだか。」


レーダー席に移動して、スクリーンに浮かぶ光点を覗き込む。


「……はぁ。時代が変わっても少尉の間の悪さは健在ね。」


リリスは嘆息したが、反論出来ない。行く先々でトラブルに見舞われる。大戦時代も今もだ。


「交易路から外れた僻地にも小さな集落があるの。襲われてるのはきっと行商人のキャラバンだよ!」


ノエルちゃんがツイてない連中の解説をしてくれる。いわゆる隙間産業ってヤツだな。


「隊長、向こうが進路を変えないのなら、先回り出来ます。」


「よし。待ち伏せするぞ。」


レーダーに映る光点を指差しながら、トニーが素っ頓狂な声をあげる。


「正気かよ!このちっこい光点がバイクだってんなら40台以上いる!2ケツしてるヤツもいるだろうし、サイドカーだって付いてるはずだ!少なく見ても50人は…」


「黙ってろ。おまえ達に戦えなんて言ってない。オレ達はな……1対10じゃ物足りないのさ。」


肩慣らしの相手としては手頃だろう。略奪が生業の無法者にやり場のない怒りをぶつけてやるか。



「みんな準備しろ。作戦はシンプル、見敵必殺サーチ&デストロイだ。」

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