邂逅編2話 悪夢の七日間



「いい加減な事言わないで!!」


ナツメがトンガリ頭の胸ぐらを掴んで締め上げる。信じられないというより、信じたくないのだろう。


「聞かれた事に正直に答えただけだろ!それよりノエルは無事なんだろうな!」


冷静なタイプに見えたが、背後で倒された紅一点が特に心配らしい。


「気を失ってるだけだ。命に別状はない。……ナツメ、落ち着け。」


震える肩に手を置き、トンガリ頭から引き離す。


「アンタらは一体、何モンなんだ?」


「質問するのはオレだ。スパーク、トニー、ノエル、気絶した仲間の名前はわかった。おまえの名は?」


「ジェイク。"ジェット"ジェイクだ。下町ストリートではJJで通ってる。」


"噴流ジェット"ジェイクねえ。小生意気にも異名を名乗ってやがんのか。そんな腕でもあるまいに。


……そう言えばコイツは、銃こそ奪われたが、辛うじて間合いは取れていたな。まだ未熟だが、筋は良さそうだ。


「オーケー、JJ。次の質問だ。なぜ施設に侵入した?」


「金になるからさ。遺跡にゃ逸失技術ロストテクノロジーが眠ってる、そんなの常識だろ。アンタらは先客じゃないのか?」


確かにオレ達は最新鋭の装備を持っているが、逸失技術ってのが解せん。……待てよ?……深刻な技術退行が起こっているとしたら……


「……うう……み、みんなは……」


ほう。ノエルちゃんはもうお目覚めか。ナツメが手加減し過ぎたのか、それとも見かけよりもタフなのか。


「おはよう、お姫様。尋問タイムの真っ最中なんだが、参加するかい?」


半身を起こした少女を見たJJは、安堵の笑みを浮かべる。


「ノエル、痛むところはないか?」


「私は大丈夫。ジェイク、この人に逆らっちゃダメ。……間違いなく、"遺跡帰りレリクスリターナー"だよ。」


遺跡帰りときたか。こりゃ本当に"百年後の世界"ってヤツらしいな。


「マジかよ!? 宝探しの先客じゃなくて、遺跡ん中で眠ってたってのか!」


JJの顔が強張った。どうやら遺跡帰りってのは、恐れられる存在らしい。


「で、おまえらが起こした。侵入者を検知したら、コールドスリープが解除される仕組みになっててね。」


「じゃあ、アンタらマジで"百年前の兵士"なんだな!」


「正確には98年前だな。JJさん御一行には訊きたい事が山ほどある。しばらく付き合ってもらうぞ。」


「少尉、ほうき頭の話を信じるの? 見るからに信用ならないんだけど。」


憎まれ口を叩いたものの、リリスもわかってる。JJもノエルも嘘を言っていない事ぐらいは。


「手の込んだお芝居だと思いたいが、残念ながら現実らしい。」


「あの……少尉さん……でいいんだよね? スパークとトニーに応急手当をさせて。」


名乗ってないからどう呼んでいいかわからなかったか。


「天掛カナタだ、ノエルちゃん。」


「お願い、天掛少尉。私、医療キットを持ってるから。」


「いいぜ。坊やは腕に軽度の打撲、モジャ毛は頭の天辺にタンコブがあるぐらいだが。」


加減してやったとはいえ、オレの回し蹴りや踵落としを喰らって前腕骨と頭蓋骨が無事なのは、なかなかだ。色黒の凸凹コンビは頑丈に出来てるようだな。


「よかった。とりあえず起こさないと。覚醒パッチを使うね。」


ノエル嬢ちゃんはベルトポーチから覚醒パッチを取り出し、気絶した2人の顔にあてた。


「……ハッ!オ、オイラは…」 「……イテテ。ヒデえ目に遭ったぜ……」


「スパーク、トニー、この人達には逆らうな。ノエルが言うにはリターナーらしい。」


JJの言葉に驚愕しながら頷く2人。やっぱりJJがリーダーらしいな。


「では御一行を遺跡巡りツアーにご案内だ。4人横並びでオレ達の前を歩け。」


「イテえと思ったら、クソデケえタンコブが出来てやがる。……ところでリターナーさん、俺らを拘束しなくていいのかい?」


「してもしなくてもおんなじだから、手間を省いてるだけだよ。トニー、この人達にとっては、オイラ達なんか目じゃないんだ。拘束どころか身体検査もしないのは、"何をしようが脅威じゃない"から。……だよね?」


拳法家のスパークが荒事担当、腰からレンチやスパナを提げてるトニーはメカニック、JJは通り名からして、おそらく走り屋リガーだな。で、ノエル嬢ちゃんは衛生係ってとこか。


「スパーク坊やは賢いな。そういう事だ。」


「坊やはやめてよ。童顔だけどオイラはもう19歳。みんなはスパークって呼んでるけど、本名はスパク・パチャナチャワリットだよ。」


名前からするとタイ出身ってとこか。もう3年近くいるけど、本当に地球そっくりの星だな。こっちではタイ人じゃなくサーム人って呼ぶんだっけか。敵だったら、"わかったよ、"とでも答えてやるところだが、敵とは言えず、それなりに修行を積んでる拳法家を揶揄するのはよそう。


「スパク・パチャナチャワリットね。響きのいい名だ。立ち話もなんだから、奥で話そう。」


名前を褒められたスパーク君は、ちょっと嬉しそうな顔で振り向き、左の掌に丸めた右拳を合わせて丁寧に一礼した。素直で礼儀正しい男みたいだな。


───────────────


「大戦時代の陸上戦艦に軽巡洋艦!!スゲえ、本当に宝の山だったんだな!!」


眼旗魚と撞木鮫を見たJJは興奮を抑えきれず、背中を取られてるってのに船に向かって駆け出した。乗り物大好きって事は、やっぱリガーだな。


「残念ながら、このお宝はあなた達の物ではないのだけれどね。隊長、この4人が侵入者ですね。」


起動作業中のシオンには、テレパス通信で彼らの事を伝えておいた。ストロークの長い足でタラップから降りて来た副官は、4人組を観察する。


「ああ。……シオン、どうやらオレ達は百年近く眠っていたらしい。」


「ええ。艦内の書類の劣化具合を見て薄々察していましたが、にわかには受け入れ難い現実ですね。……隊長、これからどうします?」


「アルマとアンナは起きたのか?」


シオンが答える前に、オレの真横にホログラム少女が現れる。


「起きとるっちゅーねん!なあ大将、どないなっとんねん!」


オレが聞きたいっつーの。


「アンナ、落ち着きなさい。AIの長所は人間よりも冷静な事よ。」


妹の真後ろに現れた姉が穏やかに諭す。よしよし、AI姉妹は健在のようだ。


「アルマ、アンナ、艦の状態をチェックしろ。」


「スキャンは既に完了しています。」 「ウチもやで!」


「動けそうか?」


アルマとアンナは渋い顔になった。


「はい。コアパーツは問題ありません。ですが…」


「万全とは言えへんっちゅー感じかなぁ。動くのは動くんやけど、不安が拭えへんわ。」


そりゃ百年近くも経ってるからな。この秘密施設は人里から離れた場所にあるはずだ。不完全な状態で航行するのはリスクが高い。


「だろうな。荒野のど真ん中で立ち往生は洒落にならない。動かすのはしっかりメンテナンスしてからの方がいいだろう。」


「な、なあ、天掛少尉。ひょっとしてこの2人は、船を管制するコンピューターなのかい?」


興味津々って感じでアルマとアンナを覗き込むJJ。


「そうだ。実在の人物を人格モデルにプログラムされた戦術AI、アルマ・イオンミとアンナ・イオンミさ。」


「……疑似人格が管制する船……そんなの見た事ねえ……これが逸失技術かぁ……」


そりゃ見た事ないだろうな。大戦末期でも戦術AIを搭載した船なんて眼旗魚ソードフィッシュ撞木鮫ハンマーシャークだけだった。リリスが至極当然な懸念を口にする。


「少尉、コイツらに眼旗魚と撞木鮫を見せちゃって良かったの?」


大戦時代でも超貴重品だった陸上戦艦と軽巡洋艦だ。オレの予想通り、技術退行が起こっているのなら、さらに価値が跳ね上がっている事だろう。


「口の軽さは命の軽さ、わかってるよな?」


軽く殺気を込めて4人組を睨むと、全員がコクコクと頷いた。


「理解出来たようだから、茶でも飲みながらじっくり話を聞かせてもらうとしようか。艦内の軍用食は消費期限切れだろうけどな。」


「バギーに戻れば、お茶もお菓子もあります。良ければ取って来ましょうか?」


ノエルちゃんの申し出を受けておこうか。カフェインを摂取して頭を冴えさせたい。


「そりゃ有難い。ナツメ、彼女に付いて行ってくれ。」


「カナタ、このコ達は偵察で、外に仲間がいるかもだよ?」


「いてもナツメの敵じゃない。それに十中八九、JJ様御一行は4人だけの少数グループだ。」


明らかに偵察向きじゃない3人が同行してるからな。もっと人数のいるグループなら、他に適任者がいる筈だ。


─────────────────────


「で、おまえらはどこから来たんだ?」


ノエルちゃんの淹れてくれたインスタントコーヒーを啜りながら、リーダー格のJJに質問をぶつける。大人しくしていれば、命を取られずに済みそうだと考えたのだろう。JJは素直に質問に応じた。


「リグリットだ。サウスベイエリアにアジトがあってね。」


首都は港町だが、サウスベイエリアなんて聞いた事がないな。だが、やっと好材料が見つかった。この秘密施設は、リグリットからそう遠くない位置にあるらしい。


「今でも同盟の首都なのか?」


「同盟? 首都?」


トボケてるんじゃなく、本当に知らないようだな。こりゃ相当に厄介な状況だぞ。


「JJ、百年前の大戦は、自由都市同盟と世界統一機構が世界を二分して戦ってたんだよ。天掛少尉が知りたいのは…」


言い淀む少女。答えがわかったようなもんだが、訊くしかないよな。


「気を使ってくれるのは嬉しいが、いずれわかってしまう事だ。自由都市同盟も世界統一機構も既に存在しない。そうなんだろ?」


「……うん。半世紀前に形骸化して、今はもう影も形も……ないよ。」


覚悟はしていたが、想像以上に気が滅入るな。


「……そうか。」


オレ達はうなだれ、言葉を失った。埃っぽい格納庫の中を沈黙が支配する。誰よりも早く立ち直ったのは、やっぱりリリスだった。


「……ふぅ。みんな、辛気臭い顔してたって、時間は巻き戻らないわ。目覚めてみたら、人類は滅亡してました、なんて結末オチよりはマシだと前向きに考えましょ!」


「リリスの言う通りなの!それに、姉さん達を探さなくちゃ!」


ナツメが拳を握り締めて力説し、シオンが優しく頷く。


「ええ。アスラ部隊の仲間も冷凍睡眠に入ったんだもの。私達はきっと…いいえ!絶対に同じ時代を生きる事が出来るわ。」


「バウバウ!(早く探そう!)」


そう。どこかで眠っている仲間達を探さなければ。だが、もう一つ確認しておかなければならない事がある。


「4人の中で一番歴史に詳しいのは誰だ?」


「そりゃあ…」 「…親父さんがトレジャーハンターだった…」 「…ノエルだと思うよ。」


JJ、トニー、スパークが言葉をリレーし、視線をノエルに向けた。


「ええっ!詳しいって程じゃないよ。パパから教えてもらった知識がちょっとあるだけで……」


「わかる範囲で構わない。98年前、大戦終了後に何が起こったか知ってるか?」


オレ達がなぜ、封印されたままだったのか。その理由だけは知っておきたい。行動するのはそれからだ。


「……それは誰でも知ってるよ。98年前にね……攻撃衛星群メビウスリングが暴走して……世界を焼き尽くしちゃったんだ……私達は"悪夢の七日間ナイトメア・ウィーク"って呼んでる。」


「なんだと!! メビウスリングが暴走!?……七日間で世界を……焼き尽くした……」


異名兵士ネームドソルジャーの封印場所を知っていたのは、講和条約の仲介人で立会人だったパーチ会長だけだ。記録を一切残さず、機密を脳内に秘匿していた会長が死んでしまったら……オレ達の居所は誰にもわからない。



……悪夢の七日間……アスラ元帥が無力化した筈のメビウスリングが暴走……偶然の悲劇なのか……それとも誰かが故意に引き起こした惨劇なのか……

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