第3話 休日に軽く酒を飲む29歳


「いやー、ほんとない。明里がストーリーにこんな画像流したせいで、うっとおしいことになってるんだけどー」


とりあえず、土曜日の夜。

女性の声が至近距離から聞こえてくるが、俺こと、松坂 透はいつものように自宅にいる。


そんな俺の目の前には、自分だけであれば確実に並ぶことはないであろうお洒落なツマミや缶チューハイが無造作に置かれるテーブル。


そして、その向かいには、とある女性が当たり前のように座っており、自らのスマホの画面を俺に見せるように向けてくる光景。


そう。その女性とは朝に一応は飲む約束を半ば強制的に結ばされた相手である


高崎 春華。


隣の部屋に住む同い年の隣人だ。

ただし、今ここにいるのは、朝のピシッとしたスーツ姿の彼女とは違い、一旦家に帰って風呂にでも入ってきたのだろう。まだ乾ききっていない濡れた髪にスッピン。そしてラフなスウェット姿の高崎の姿。


一応、俺も姉がいるからわかるけど、スッピンでこれって本当に末恐ろしいなと思わざるを得ない。


言うならば、彼女は昼は綺麗系のお姉さん系美人。そして、スッピン姿は優しい保育園の先生の様な可愛い系の美人。


どちらにしても美人とか。

ほんとこの女...神に愛されすぎだろ。と思ってしまう。


そして、スッピンで男の家に当たり前のように上がるって、本当に俺のことを男と、いや、人間と思ってないのだろう。やはり俺は彼女からすれば野良犬のようだ。


とりあえず、今は彼女が見せてくるスマホの画面をぼーっと確認する俺。


そこには見たことのある美女が3人。居酒屋の個室が背景になっている写真。

最近、集まって飲んだのだろうか。高校の頃の1軍女子たちがお酒を片手に笑顔を作っている様子。


そして、高崎の胸の前には『一年前に彼氏と別れてからずっと男日照りの春華ちゃん!アラサーになる前に誰かもらってあげてー!!!』と文字が浮かんでいる光景。


何だ。何がうっとおしいことになっているのだろうか。

俺は生まれてこのかたずっと女日照りだが..,。


そんなしょうもないことを考えていると、目の前の彼女が画面をトーク画面に切り替えてあらためて俺に見せてくる。


「....」


そして、そこにはそのストーリーを見てメッセージを送ってきたであろう数多の男たちからのline通知が上から下までびっしりと並んでいる。


凄いな...。


これが、いわゆる『どしたん。話聞こか?』系の人間性器な男たちか。

まさか実在していて、こんなにも存在していたとは。


中にはちらほらと知っている同級生の名前もあるし、こいつ既婚者じゃなかったっけ的な奴の名前もある。


正直、俺が新卒の頃の教育係の先輩がちょうどその頃に28歳ぐらいの女性で、そっち方面でかなり焦っており、仕事でもピリピリ。ただ、彼氏ができて結婚が決まった途端、鬼のように優しくなった記憶があることからも、そのぐらいの年齢の未婚の女性はやっぱり結婚に焦っている傾向にあるのではないかという勝手な偏見があったけども...


高崎からそういう焦りが全く見えなかったことにも納得だ。


全く焦る必要がない。未だに引く手数多。


結局これは何だ...。俺に対する自慢か?


「ねぇ、どう思う? 松坂」


そして今も目の前には、そろそろできあがってきたのだろうか、酒に頬を赤く染めている様子の相変わらず無防備な高崎が俺に向かって首をかしげる姿。


どう思う...か。


「まぁ、このlineを送ってきてる男の全員が参加のズーム会議でも開いたら、高崎の相談に対してかなり洗練された良い答えが返ってきそうだよな...」


実際、皆が皆、高崎にアピールするために至極の答えを考えだすだろうし。


「フフッ、ちょ、ぼそっと何よ。フッ、いや、そういうことじゃないんだけど。駄目だ。ちょっとツボに...」


そして、何だろう。別にそんな面白いことを言ったつもりもないのだが、酒が入っているからだろうか、目の前の高崎は口を抑えながら楽しそうに笑っている。


「.....」


まぁ、とりあえず。今、俺が思うことは一つだ。


一体、今日の彼女はいつまで俺の家で酒に入り浸るつもりなのだろう。

何かもう、自分の家みたいにくつろいでいらっしゃるが、そもそもいつからこの人の言う飲みが俺の家での飲みになったのだろうか...。確か半年ぐらい前?


初めの頃はちゃんと居酒屋に行っていた記憶があるが、気がつけば、めんどくさいとか言って、俺の家に上がり込んでくることが普通に。


でも、もう11時...。


まぁ、終電とかもないし、自宅は隣。危険とかもないから別に安全面の心配もない。それに、彼女の作るツマミは普通に美味いから、この時間が嫌いというわけでもないし、別に何なら酔いつぶれて朝までここで寝ていたこともあるから特段おかしなことでもないのかもしれないが...


どうしようか。


今日はあと1時間で聴きたいラジオが始ってしまう...


「それにしても、何で松坂ん家ってこんなに落ち着くんだろ。ねぇ?何でだろー?」


なんかさっきよりもさらに酔っぱらってるみたいで、まだまだ帰る気配もないし...。


ってか、あらためて思うけど、相変わらず酔った姿も絵になるよな.‥。


何か、またキッチンで作り出したし...

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