第7話 街への道のり

研吾は決心した。この世界がどんな世界なのかを知りたい。そして、そのためには唯一の知り合いである宮田源治のいる街に向かうしかない。

翌朝、簡単な荷物をまとめ、村を出発した。宮田源治が帰っていった方角を頼りに歩き続ける。

道のりは想像以上に険しかった。舗装された道路などなく、獣道のような細い山道を進んでいく。途中で道に迷いそうになったが、なんとか方向感覚を保ちながら歩き続けた。

夕方になって、研吾は山の中で洞窟を発見した。

「今夜はここで過ごそう」

洞窟の中は思ったより広く、風雨をしのぐには十分だった。焚き火を起こし、持参した食料で簡単な夕食をとる。

火の明かりに照らされた洞窟の壁を見つめながら、研吾は考えた。

「洞窟は、家の元だよな」

人間が最初に住んだのは、こうした自然の洞窟だったはずだ。風雨をしのぎ、猛獣から身を守る。それが住まいの原点だった。

「最初の家は、風雨をしのげればよかった」

しかし人間は、そこに快適さを求めるようになった。より暖かく、より明るく、より便利に。そうして家は進化していった。

「快適さとは何か?」

研吾は火を見つめながら自問した。現実世界では、快適さといえばエアコン、給湯器、電気、ガス。様々な設備によって実現される。しかし、それだけが快適さなのだろうか?

この洞窟も、決して不快ではない。火の暖かさ、静寂、自然の音。むしろ、現代の設備に囲まれた家よりも、心の平安を感じられるかもしれない。

「快適さの定義も、時代によって変わるんだな」

一夜を洞窟で過ごし、翌朝再び歩き始めた。2日目の午後、ようやく遠くに街らしき景色が見えてきた。

煙突から立ち上る煙、瓦屋根の家々、人の気配。確実に人が住んでいる街だった。

街に入ると、想像していた通りの光景が広がっていた。木造の建物が立ち並び、馬車が行き交っている。人々の服装も、どこか一昔前の日本を思わせる。宮田源治の話から想像していた世界そのものだった。

研吾は宮田源治を探した。大工の仕事をしているなら、建築現場にいるはずだ。

街を歩き回ること1時間、ついに宮田源治を発見した。新しい家の建築現場で、他の職人たちと一緒に作業をしている。

「宮田さん!」

研吾が声をかけると、宮田源治は振り返った。

「研吾じゃないか!どうしたんだ?」

宮田源治は驚いた様子で手を止めた。

「ちょっと街を見に来たんです」

「直した家をほっぽりだして街に逃げてきたかと思った」宮田源治は少し厳しい表情をした。「あやうく殴りそうになったぞ」

「バカを言わないでください」研吾は慌てて否定した。「あの廃村は復活させたいんです!」

「そうか」宮田源治の表情が和らいだ。「建築家っていうのは変な奴らばっかりだな」

「変って...」

「昔の建築家で、何もないところに住みだして学園都市を作ったという話もあるしな」宮田源治は苦笑いした。「お前もそのクチか」

「学園都市?」研吾は興味を持った。

「ああ、随分前の話だが、ある建築家が人里離れたところに一人で住み始めて、そこに素晴らしい街を作ったんだ」宮田源治は手を止めて語った。「最初はみんなバカにしていたが、気がついたら多くの人が集まる学問の街になっていた」

「その建築家は?」

「さあ、名前は忘れたな。でも、お前みたいに風変わりな人だったらしい」

研吾は胸が高鳴った。この世界の学園都市とはどんなところなんだろうか?

「俺も、いつかそんな街を作ってみたいな」

「ハハハ、大きく出たな」宮田源治は笑った。「まずは廃村の復活からだろう?」

「そうですね」

研吾は街を見回した。確かに活気がある。しかし、建物は画一的で、環境への配慮は感じられない。

「宮田さん、その学園都市はどこにあるんですか?」

「さあ、遠いところだと聞いているが...」宮田源治は首を振った。「詳しいことは知らないんだ」

研吾は少し残念に思ったが、希望も感じた。この世界にも、建築で理想を追求する人がいる。そして、それが実現可能だということが証明されている。

「いつか、その学園都市も見てみたいですね」

「その前に、廃村だろ?」宮田源治は笑った。「一歩一歩だよ、研吾」

「はい」

研吾は頷いた。確かに、まずは廃村から始めよう。そして、いつかは...

街の向こうに夕日が沈んでいく。研吾の心には、新しい目標が芽生えていた。



登場人物

安藤研吾:主人公。40代半ば。2級建築士。現実世界から異世界の廃村に迷い込む

宮田源治:60代の大工。


研吾のパソコン

風の流れを青い線で可視化

他人には見えない

現実世界とのメール通信が可能

印刷すると手書きの設計図が足元に現れる

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