第6話「発電所襲撃の報せ」
ビルの地下へ引きこもること数日。具体的には二日目から三日目あたりだろうか。時計で確認はできるが、世間一般の感覚はすっかり狂っている。日の光をまともに浴びることもなく、俺たちは生存戦略を練っていた。
この間、何度か地上へ出ては物資を探索することを繰り返す。その過程で、**“ほかの生存者”**にも何度か遭遇した。とはいえ、協力的な人ばかりとは限らない。中には「食糧をよこせ」と脅してくる連中もいたし、怯え切ってコミュニケーションを拒否する人たちもいた。
ビル周辺には犬型や虫型のモンスターが絶えず徘徊しているし、夜になると暗闇が深くなる一方だ。都心の電力は徐々に落ちているらしく、街頭や信号機はほとんど機能していない。建物の非常用電源だけでなんとか灯りを保っているところもあるが、それもいつまで続くか分からない。
そんな中で、地下駐車場には相変わらずわずかに電気が通っており、薄暗い照明が残っている。おそらくビル内部の一部回路が別系統の予備電源を使っているのだろう。非常事態になる前は考えもしなかったが、これが意外と助かる。
「ところで、どうやら全国各地の発電所が中ボス級モンスターに襲われているという噂が広まってるんだと。さっき路上で会ったおじさんが言ってた」
ヒロキが事務スペース(司令室)でそう報告してきた。
「日本中……つまり、関東だけじゃないのか?」
柿沼が目を見開く。もし事実なら、関西や東北、北海道、九州まですべてが同じ地獄に包まれているのかもしれない。海外はどうなっているかさっぱり分からないが、とにかく日本は壊滅的状況が近い。
「中ボス……つまり人間の数倍〜十数倍はあるような怪物が、各地の発電所を破壊して回ってるんだろうな。電力が完全に止まるのも時間の問題だ」
俺は厳しい表情でつぶやく。停電すれば、地下の照明も消えるだろう。さらに通信が完全に遮断されれば、外部との情報交換もできない。俺たちはまだ都内に留まっているが、動くにもリスクは高い。
「ハジメ、どうする? このままここで粘るのか? それとも発電所がまだ無事な地域に移動するとか……」
ヒロキの問いに、俺は首を振る。「残念だけど、移動先の安全が保証されてるわけでもないし、どの発電所が無事かも分からない。今は下手に動いて襲われるリスクのほうが大きいと思う。少なくとも、チュートリアル期間が終わるまでは、ここを拠点に戦力を整えるしかないだろう」
この世界は**“レベル”や“スキル”**によって確実に強化される。俺たちがレベルを上げれば、より強いモンスターに対抗する術が得られる可能性がある。中ボス級には手も足も出ないだろうが、チュートリアル中にどれだけ成長できるかがカギだ。
「7日後にはもっと強いモンスターが出る。つまり、その前にできるだけ戦力を上げておかないと詰む」
そう結論づけ、俺たちは昼間のうちに手分けしてモンスターを狩るという行動を取り始めた。ただし無茶はしない。弱そうな犬型や虫型を複数で狩って、手早く経験値を稼ぐという具合だ。
浅海さんも足がある程度回復し、ヒロキの回復術でサポートしながら、1〜2匹倒してレベル2にすることに成功していた。リナや橘も同様に、パイプ椅子や棒などを使って何とか一匹だけトドメを刺す形を取り、経験値を得た。
「うわ……あんまりいい気分じゃないね。なんか私がトドメ刺すタイミングを待ってるのも……」
リナが気まずそうに言う。確かに、通常なら俺やヒロキが相手を弱らせ、最後はリナが止めを刺す形にして、リナに経験値が入るようにしていたからだ。
「でも、あなたが育てば戦力が上がる。今はそれしかないんだ」
こうして、短期間で拠点内のメンバーは平均Lv2〜3程度まで上がり、必要なジョブやスキルを最低限は取得した。戦士、回復士、盗賊、魔術師、いろいろあるが、まだ魔法系スキルを深く習得した人はいない。ヒロキの基本回復術が唯一の魔法らしい魔法だが、それでもかなり助かっているのは確かだ。
他方、街のパニックは日に日に深刻さを増している。モンスターはいつまで経っても減らず、むしろ増えているのではと思えるほどだ。一部の人間同士で物資を巡る争いも起きており、銃を手に入れた暴徒がいるという噂も耳にした。
もし銃を所持する人間が俺たちの拠点を襲ってきたらどうしよう……そんな恐怖もぬぐえない。ゲーム要素が導入されたといっても、人間が互いに銃撃し合ったらどうなる? ステータスやスキルを持ってしても、簡単にやられてしまう可能性は高い。
「このままじゃ、人間同士の殺し合いも始まるかもしれないな……」
せっかくモンスターに対抗するための力を得たのに、同じ人間同士で争うのは空しい限りだ。それでも、そういう事態が起こりうるのが、この混乱した世界の現実なのだ。
どこかで発電所が破壊されるたびに、少しずつ電気が止まり、都心も闇へ沈む。まだ完全停止こそしていないが、日を追うごとに停電エリアが広がっているようだ。
そして、チュートリアル期間の折り返しを迎えるころ、俺たちは決定的な“通信の途絶”を体感することになる。
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