第4話 舐めんじゃねえ



「なあ……」


「え……なんだよ」


 俺がまず初めにしたことは、とりあえず今の五軍のメンバーで同学年の奴らとは話しておこうと思った。


 だけど、スポーツ推薦でもそうじゃない奴でもいきなりサッカーのことを聞くのは、多分嫌だと思ったから、とりあえずクラスにいる奴から始めた。


「『さくら』、じゃないか? それ」


「あ、そうだ。それだそれだ!! さくら!! え? 甲斐谷お前知ってんの!?」


 別にクラス内だからと言ってサッカー部だけじゃなくても良い。他の男子がいても、話は出来る。むしろそいつが話を振ってくれたりする。


 幸い、俺はそこまでカーストが低い位置にはいない。そこはマジで俺のコミュ力に感謝だ。


「そういえばお前らサッカー部だよな?」


 やっぱり、団体でいればこうやって話を振ってくれる奴が出てくる。


「はは、甲斐谷とかどうなん?」


「ああ、俺は」


 こんな風に話が広がってくる。


 それで何となくそいつがどんなのにハマってるか探る。コミュ力が高くてよかった。 


 そして運が良いことに、このクラスは五軍の奴らが結構いる。だから話が出来る。


 FWの伊藤

 SBの原田

 そして、ボランチで攻撃はもちろん、守備の面も強い谷口がいる。

 

 だから話が出来る。唯一、谷口だけが机に座っているのが惜しい。


「甲斐谷ってポジションどこ?」


「ああ、俺は」


「いやコイツ、中学で選手ケガさせたから」


 一瞬、自分の心の声が聞こえたのかと思った。だけど、谷口が立っているのが見えた。


 あ……やべ、いきなり突いてくるとは思わなかったから、何喋って良いか分からない。


 谷口がどんどん近づいてきやがる。


「あ、え?」


「中学時代にケガさせたから、今はビビってGKやってんだよ。中途半端だよな」


 !!


 言葉は浮かばなかった。代わりに胸ぐらを掴んでた。俺が中学時代の時に、何度か会ったことがあるDFの谷口だった。


「何か文句あんのか? FW出来ないからって守備、しかもフィールドに入らねえGKやるなんて、舐めてるとしか思えねえだろ」


 そうだ、そりゃ正論だ。けど……。


「お前、そりゃ失礼だろ」


「は? お前自分を何様だと思ってんだ? お前には失礼なことなんて」


「違えよ。フィールドに入らねえだなんてGKに失礼だろうが。ゴールエリアもしっかりフィールドなんだ。GK馬鹿にすんじゃねえ」


「……ッチ」


 谷口は小さく舌打ちして、自分の席へ戻っていく。クソ、何でこうなった。

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