第1話 柔軟運動はものすごく重要


「甲斐谷、お前本当に入らないのか?」


「ああ、入らねえよ。もうやめたっていうか、出来なくなったんだ」


「そうか……」


 すた 、 すた 、 すた


 足音だけで、どんだけガッカリしているのか分かる。でも、俺の気持ちは変わらねえ。


 俺はもうサッカーをすることは無い。


「あの人、サッカー颯太そうた君にめっちゃ誘われてたけど、入部しないんだ」


「らしいね、何か颯太君から聞いたんだけど、何か事故とか起きて、それがトラウマになったらしい」


「え〜? やだかわいそ〜。怪我で出来なくなるとか、かわいそ〜」


 うるせえぞ女子ども。てか怪我したんじゃねえ、!! 聞き間違えてんじゃねえ!! いや、颯太の奴が嘘教えた可能性もある。


 アイツ、いつも余計なお世話な所があるからなぁ。

 

 まあ、でもそんなもんなんだな、認知度なんて。まあ、学校のスポーツといえば野球部でサッカー部は、どこかチャラいみたいなイメージがあるからなのだろうか。


 それが中学時にどんなことをしてしまったのか知られていないのか。


 あの時、俺はボールを奪おうとする夢中だった。周りが見えなくなるほどだった。


 ボールを奪うことだけを考えていた。


 だからああいうことが起きたんだ。


 気づくと俺は、何かに引っかかって転んだ。それは、よく見るとさっきまでボールキープしていた選手が後ろにいた、それで分かった。俺の当たりがキツすぎた怪我をさせてしまったことに。


 勿論、俺はレッドカードを出されて、退場。そして怪我をした選手は、今はどうしているのだろうか。その後のことは何も知らない。


 もっと早く気づくべきだった。人間の身体は意外と脆いことに。


 中学のサッカー部の時、何人か何回も整骨院に行ってたり、途中で松葉杖をついて退部した奴がいた。そのことにもっと目を向けるべきだった。

 

 あの時は夢にも思わなかった。

 

 自分が誰かを怪我させる側の選手になるなんて。

 

 結局、それがきっかけで俺はマトモなプレーが出来ない選手になってしまった。


 ボールが蹴れないサッカー選手は要らない。そして俺が怪我をさせた選手がいる学校は、次の試合であっけなく敗退した。


 県・地区の間で優勝候補の学校だった。


 ある意味では、俺がそれを阻止したようなものだった。だけど、全然嬉しくない。


 選手と学校のサッカーを台無しにした男は、高校に進学したらサッカーを自ら辞めた。


 それで、あんまり知り合いとかいなさそうなこの高校に受験して入った。


 ここからはサッカーとは縁遠い人生を歩んでいくのが賢明だ。それに、俺別にそこまで上手くないし。


 ピッ!!


 ッオイ ッオイ ッオイ オーイ!!


 あ、この掛け声はブラジル体操か。


 懐かしい、俺もよくやってた。こういう体操は入念にやっとけよ。こういう体操とか身体の柔らかさを疎かにする奴が、何回も整骨院とか行く羽目になるんだ。


 俺も行ったことあるけど、案外、時間かかるし痛いし、あんまり身体触られるのそんな好きじゃないからキツかった。


 まあ、今はもうどうでも良いけどよ。


「甲斐谷!!」


 ガララッ!!


 あ? なんだ颯太そうたのやつ、もう話はおわったんじゃねえのか?


「今のお前にピッタリのポジションがあるぞ!!」


「は?」


 

 

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