『本当に気付いてないらしい』

「決して覗かないで下さい」


「分かってますよ」


「あまり気張らんようにな」


「決して、決して覗かないで下さい」


「ええ、もちろん」


「うむ」


戸を閉め、はたおり機の前に座る。

「……ん」

「……んぐぐぐぐ!」


頭を抱える鶴。何でっ?!何で覗かないのっ?!覗くなって言われたからって、馬鹿正直に覗かなんて事ってある?!


ギッコンギッコン!


『押すな押すな!』は『押せ!』じゃん?!『覗くな覗くな!』は『覗け!』でしょう!芸人魂忘れたのっ?!


ギッコンギッコン!


「…ふう、落ち着いた」

あの雪の日。罠から助けてもらってから一年経った。私は未だに帰れてない。


今朝凍った道を三人で散歩していた時、お爺さんから『"つる"っと滑って転ばないようにな』って言われたけど…本当に気付いてない?


怪しいが…しかし!ここまで来たら自分からはバラさないぞ!明日は絶対に覗かせてやる!


ギッコンギッコン!


「…織れた」

はたおりがどんどん上手くなってる。スピードも精度も。人の姿に戻り、二人に布を見せる。


「凄い布じゃ!」


「さすがワシらの鶴子じゃな」

「さぁ疲れたじゃろ、夜ご飯を食べよう」


ふ、ふん!褒められたって嬉しくないんだからね!


雪はまだまだ降り続きそう。

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