『あっしは元気でやす』

親父が死んだ。最後は病状も回復せず、ずっととこしてたから、もうそろそろだとは思ってた。悲しかったが、最期は涙も出なかった。


簡単な葬儀の後、遺産を兄弟で分け合う。上の兄貴から順番に。家やら畑やら。末っ子の俺に残されたのは猫一匹。ヤバいよね?実の兄弟だぜ?ちょっと笑っちゃったもん。


半ば追い出される形で家を出る。猫を抱き抱え考える。お金も食べる物も何も無い今。コイツには悪いけど…今日の晩ご飯は猫鍋に決定。腹が減っては何とやら。明日から頑張ろう!


そこは流石猫。野生の勘が働いたのか。身の危険を察知したようで、突然口を開いた。


「ヒョヒョヒョヒョ!」

「ダンナ様、お待ち下せぇ」

「あっしを食べてしまうよりも、もっと良い考えが有りますぜ?」


猫曰く、長靴が有れば今のこの状況を打開出来るらしい。ちょっと面白そうなので、俺の履いていた長靴を渡してみた。

「すぐに戻りやす!」


あれから数年。すっかり漁師としての仕事が板に付いた俺は、長靴を見るとこの事を思い出す。


晩ご飯。妻曰く『そもそも猫は喋らないし、猫の口調からして裏切る気満々』らしい。


そう言うもんなのか。まぁ、あの猫も幸せなら嬉しい事だ。食べようとしてごめんね。

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