ハーレムエンド系ラブコメ主人公の子供たちの日常
マウンテンゴリラのマオ(MTGのマオ)
第1話
僕には四人の母親がいる。一人は言うまでもなく実母であり、後の三人は義母である。どうしてそんなことになっているのかと言えば、それは僕の親たちの青春が原因だ。
僕の親たちは、長編ラブコメもかくやといった壮大な青春を過ごしたらしい。その結果として、父は四人の女性を娶り、全員と結ばれたのだ。要するに、四人の女性と重婚をかましたのだ、我が父は。……日本の法律では重婚は出来ないことになっているので、籍を入れているのは一人だけで、残りは事実婚という形になっているのだが、まあそこは大した問題ではないだろう。
そうやってハーレムエンドを達成した父は、四人の妻との間にそれぞれ子供を作った。その一人が僕というわけだ。僕ら子供たちにとって、四人の母は血の繋がりとは関係なく母だったし、母たちにとっても僕らは皆平等に我が子と思って接してくれている。だからこそ、母親が四人もいるという一見奇妙な現象が起こっているのだ。
これは、そんなハーレムエンド系ラブコメ主人公たちの元に産まれた、僕の日常のお話。
◇◇◇
「いってきます」
「いってらっしゃ~い」
家を出る僕の挨拶に、母のおっとりとした声が返って来る。僕―――滝村洋平の実母、滝村千歳だ。もう四十代だというのに、未だに二十代に間違われることもあるくらい若々しい。柔和な雰囲気を纏うこの母親は、兄弟の間では甘やかし担当と呼ばれていたりする。
「あ、お兄ちゃん。おはよー」
「留美。おはよう」
玄関を出たところで、妹の滝村留美と出会った。……僕たち兄弟は、普段は別々に暮らしている。といっても、それは単に住居の都合だった。ここは父がオーナーを務める賃貸マンションであり、その二階にある四部屋が僕らの家である。何故こんなことになっているのかと言えば、それは僕らが産まれる直前にまで遡る。
親たちが住居を用意することになったときのことだ。そのとき既に第一子が誕生予定だったので、当然子供のことも考えて住居を用意しなければならなかった。だが、このままいけば親と子供含めて最低九人、子供の数によっては更にそれ以上の大家族となってしまい、全員が不自由なく暮らせる家を用意しようとするのは困難だった。なので、マンションを四部屋纏めて確保して、それぞれの部屋に分かれて暮らすことになったのだ。基本的には母たちがそれぞれ一部屋、その実の子供が同じ部屋に暮らすことになっている。実際には、夕食はどこかの部屋に集まって出来るだけ一緒に取るようにしてるし、他の兄弟の部屋に泊まったりは日常茶飯事なので、あくまで原則ではあるが。
ちなみに、父はそのためだけにこのマンションのオーナーになったらしい。四人の嫁と子供たちを養うためとはいえ、行動力が凄い。
「飛鳥姉と園子姉は?」
「園子姉は部活の朝練だって。飛鳥姉は生徒会の用事で先に行ってる」
「そっか」
飛鳥姉と園子姉というのは、残りの兄弟―――女子ばかりだから、姉妹と呼ぶのが適切だろうか―――である。飛鳥姉は僕と留美の二つ年上で、僕らと同じ学校で生徒会長をしている。園子姉は僕らの一つ年上で、こちらも同じ学校でバスケ部に所属している。
「だから、今朝はお兄ちゃんと二人っきりだね」
「そうだね」
留美は僕と同い年で同級生。誕生日は僕のほうが先なので、僕が兄ということになっている。留美は昔から僕にとても懐いていて、何かと一緒にいたがる。僕も、そんな彼女のことを可愛がっていた。
「留美~? お弁当忘れてるわよ~?」
すると、隣の部屋から母―――千歳母さんではなく、留美の実母の滝村麗奈母さんが出てきた。
「あ、ごめん」
「全くもう……せっかく作ったんだから、忘れないでよね」
麗奈母さんが、留美に弁当箱を手渡している。その光景を見ると、二人が確かに親子であると実感できた。……留美は麗奈母さんと瓜二つだ。腰まで伸びた長くて綺麗な黒髪も、幼さが残る顔立ちも、小柄な体格も、そっくりだ。勿論、麗奈母さんだってさすがに十代に見えるほど若くはないので、見間違えるほどではないのだけど。
「あら、洋平じゃない。おはよう」
「おはよう、麗奈母さん」
「今日も留美と一緒? 相変わらず仲が良いわね」
若い頃を思い出すわね~、なんて呟く麗奈母さんに見送られて、僕と留美は学校へと向かうのだった。
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