猫又テン

二人だけの教室



今日で卒業かぁ。三年間、意外と早かったね。なんかあっという間に終わった気がする。

“みさきと一緒で楽しかった”って、嬉しいこと言ってくれるじゃん。……私もだよ、ひかり。あんたと三年間過ごせて、本当に良かった。


あっという間だったって、さっき言ったけど、でも、懐かしいね。入学式の日、覚えてる?あんたが迷子になってたやつ。


あれ、今でも笑えるわ。新入生が迷わないように、ちゃんと案内図があったのに、それでもあんたは迷ってて、たまたまトイレに行った時にあんたを見付けて……


ははっ。三年間あったけど、方向音痴は治らなかったね。痛っ。ごめんごめん、馬鹿にしてないから、叩かないでよ。

それにしても懐かしい。あそこからだったよね、おろおろしてるあんたに声をかけたのが。

あの時は思わなかったな。こんなにあんたが大切になるなんて。


何、顔赤くしてんの?別に変な意味じゃないって。…………あんたは私の、大切な親友だよ。


本当にあんたはすぐ顔が赤くなるんだから。授業で先生に当てられる度に真っ赤になって。せめて、かっこよく答えるんだ~って言って、予習頑張ってたよね。なかなか成績は上がらなかったけど、でも、真面目に頑張ってたよね。

あんたと二人で勉強会してる時、思ったわ。私が声かけても気付かないんだもん。凄い集中力だった。


“卒業出来ないかと思った”?あ~あんた、運動も苦手だったもんね。

でも、あんたが頑張ってるところは分かってたと思うから、私はそこは心配してなかったよ。


って、抱き付くな!まったくあんたは……“大好き”って……そういうのは……自分の彼氏に言いなよ。


…………健太とは、どう?もう、半年だっけ、確か。二人で同じ県外の大学に進学するんでしょ?

凄い心配。あんた家事出来る?新しい土地で、迷子にならない?

何よそのふてくされた顔。だって、あんた目を離すと、すぐ何かやらかしてるんだもん。

ドジで、おっちょこちょいで。私が居ないと、駄目なんだから。そりゃ、心配の一つや二つはするよ。


“健太が居るから大丈夫”?はぁ……あんたも頑張りなさいよ!恋人って支え合いなんだからね!片方に依存してちゃ駄目なの。まったくもう……

まぁ、でも、あんたも踏ん張る時は踏ん張るから、意外となんとかなるかもね。


……あのさ、改めて、ありがとう。

何のこと?なんて顔してる。ほら、あれ、一年生の時のこと。


私、思ったことすぐ言っちゃう性格でさ。それに加えて、委員長もやってたから。クラスの不真面目なやつとか、一軍の女子とかにめっちゃ嫌われてて、無視されたり物を隠された時、あったじゃん。


普段なら言葉がすぐに出てくるの。なのにそういう時に限って言葉が詰まって、私はあいつらに何も言えなかった。


泣き寝入りしそうだった時さ、あんたが、本人達に怒ってくれたよね。

やっぱり顔真っ赤にして、何でこんな酷いことを!ってさ。ぷるぷる震えて。

あの時の、あんたの後ろ姿。泣きながら見てたけど、身長ちっちゃいのに、凄くかっこよくて。


相当勇気がいるはずなのに、あんたは私を助けてくれた。あんたのお陰で、私は楽しく学校に来れた。あんたのお陰で……幸せだった。

だから、ありがとう。全部、あんたのお陰なの。


……しんみりしちゃったね。笑って卒業しようって約束したのに。

そろそろ帰ろっか、もう夕方だ。

一緒に帰る?それとも、健太が待ってる?

そっか、じゃあ、ここで解散だね。


大学行っても頑張ってね。風邪引かないようにね。あれ、あんた、寝る時すぐ布団蹴飛ばすから、気を付けなよ。……健太のことも、蹴り飛ばさないようにね。何笑ってるの。私は真剣なんだから。


……それじゃあ、バイバイ。

幸せになってね、ひかり。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫又テン @tenneko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ