第14話
ダンジョンの最深部、広大な空間が静まり返っていた。冷たい空気が漂い、床には無数の割れた石と、かつての戦いの痕跡が残る。
そこに立つ奏多の目には、冷徹な光が宿っていた。彼の体を覆う影が、まるで生き物のようにうねり、周囲の空間を飲み込んでいく。その力は、もはや彼の手に負えないほどの規模となり、闇そのものと化していた。シャドーウォーカーとしての宿命が、彼をただひたすらに破滅へと導こうとしていた。
「ユウキ…」
奏多はその名を、深く呟いた。彼の胸の奥には、まだあの日の記憶が残っている。ユウキの顔、彼の言葉、そして彼との絆。しかし、その絆も今や、シャドーウォーカーの力に圧倒されるかのように消えかけていた。
一方、ダンジョンの入口から現れたユウキは、息を切らしながらもその足を止めることはなかった。彼の目は決意に満ち、手にした光の剣が眩しく輝いていた。その光の剣は、奏多の闇を打ち破るために作られたものだ。だが、ユウキの心の中には一つの問いがあった。
「奏多、どうしてこんなことになってしまったんだ…」
ユウキはその答えを、どこにも見つけられないまま、ただ前へ進むしかなかった。彼は、奏多を救いたい、そう心から願っていた。しかし、彼がどれほど努力しても、シャドーウォーカーの力はあまりにも強力で、そしてその宿命は余りにも重い。
「奏多…」
ユウキは呼びかけるが、奏多は答えなかった。その目はすでに、ユウキを通り越して、破滅へと向かっていた。
「お前が来るのを待っていた、ユウキ。」
奏多はゆっくりと振り返り、冷ややかな笑みを浮かべた。その姿には、もはやあの日の優しさや温かさは見受けられない。ただ、ただひたすらに力を求め、力に支配された悲しい笑顔があった。
「これが…俺の選んだ道だ。」
ユウキはその言葉に、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼は剣を構え、決して引き下がるつもりはなかった。たとえ、どんなに強力な力を持つ相手でも、奏多を救うために戦わなければならない。
「俺はお前を救うためにここに来た!」
ユウキが叫ぶと、光の剣がその手から一閃し、空気を切り裂いた。彼の剣から放たれた光は、まるで天の力のように輝き、奏多の周囲の闇を一瞬で焼き払う。しかし、その光も、奏多の影に飲み込まれることなく、完全には届かない。
「無駄だよ、ユウキ。」
奏多の声は、まるで遠くから聞こえてくるように響く。その体から放たれる影が、瞬く間にユウキを包み込んだ。
「俺はお前を救いたいんだ!」
ユウキはさらに剣を振り下ろすが、その力は奏多の影に押し返され、次第に無力さを感じ始めていた。彼の周りを包み込む闇が、まるでその存在を消し去ろうとしているようだった。
「それが無駄だと言っているんだ!」
奏多の手が振り上げられ、そこから無数の影の槍が放たれる。それは光の剣に向かって突き刺さり、ユウキの体を貫こうとする。ユウキは必死に剣を振るい、影の槍を防ごうとするが、その数と力には限界があった。
そのとき、ユウキの中にひらめいたものがあった。それは、かつて古竜から授かった力――「光と影」の力だった。彼はその力を解放することを決意した。
「ライティス・ダークネス――光と影の交錯!」
ユウキの剣から放たれた光と影が交錯し、奏多の影を打ち破る。闇が裂け、光がその中に差し込んでいく。奏多の顔に一瞬、驚きと混乱が浮かぶが、すぐにそれは消え、再び冷徹な表情が戻る。
「こんな力で、俺を倒せると思っているのか?」
奏多はその言葉とともに、再び影を操り、ユウキに向かって影の大波を放つ。しかし、ユウキはその波を受け止めるために、もう一度力を込めた。
「俺はお前を救う!」
ユウキの剣が空を裂き、最強の一撃が奏多に向かって放たれる。それは、ただの力ではない。ユウキの心、思い、そして彼の決意そのものが込められた一撃だった。
その光の刃が奏多を貫いた瞬間、全ての音が消え、空間が一瞬静止する。影と光が交錯し、闇が光に飲み込まれる。
奏多の体が揺らぎ、その目に一瞬の戸惑いが浮かぶ。
「ユウキ…」
その声が、最後に奏多の口から漏れた。その瞬間、シャドーウォーカーの力が解放され、奏多は自らの運命を背負いながらも、ついにその闇を乗り越えた。
ユウキは立ち尽くし、息を呑んだ。その目の前には、かつての親友の姿があった。だが、もうそこに宿る闇はなかった。奏多は、ようやくその宿命から解放されたのだ。
「お前は…もう、迷わない。」
ユウキは静かに呟き、剣を納めた。その手に残る温もりは、二人が戦い抜いた証だった。彼らの戦いは終わったが、その先に待つ未来はまだ見えない。しかし、ユウキは確信していた。二人は、どんな運命にも立ち向かえる力を持っていると。
そして、彼は奏多の側に歩み寄り、静かに肩を叩いた。
「行こう、奏多。」
奏多の目に、再び光が宿ることを信じて。
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