第13話

奏多は、ダンジョンの最深部で過ごし続けていた。かつての仲間、ユウキのことを思いながら、孤独の中で自分自身を見つめ直していた。日々、力を鍛え、心を鍛え、そして一歩一歩、次第に近づいていく破滅の運命を感じながら、彼は戦い続けていた。


彼の周囲には、依然として闇が漂っていた。それは単なる物理的な闇ではない。彼が操る「シャドーウォーカー」の力が生み出す、深淵のような漠然とした恐怖や破壊の力。その力に飲み込まれないよう、奏多は必死に踏みとどまっていた。


ダンジョンの中で響く音は、唯一無二の孤独を感じさせるものだった。壁のひび割れた音、落ちた石が転がる音、そして時折聞こえる遠くからの呻き声。その全てが奏多を見守っているかのように感じられ、彼の心を深く締めつけていった。


「ユウキ…」


その名前が、ふと奏多の口から漏れた。彼は、あの日ユウキに背を向けてダンジョンへと追放されてから、何度もそのことを思い出していた。ユウキが今どうしているのか、その姿を見てみたいと思いながらも、彼の心の中には「シャドーウォーカー」としての使命が大きくのしかかっていた。


「俺は…俺が消えれば、みんなが救われるんだろうか…」


奏多は一度深く息を吐き、その場に腰を下ろした。彼の手のひらに、シャドーウォーカーの力が宿っていることを感じ取る。その力は、今もなお強力で、しかし同時に彼を蝕むような感覚もあった。それは、あまりにも強すぎる力だったからだ。


「これが…俺の宿命なのか?」


奏多は目を閉じ、静かに呟いた。彼の心の中には、暗い霧のようなものが立ち込めていた。それは、彼が振り切れない感情、つまりユウキに対する信頼や、仲間たちへの思い、そしてどこかで望んでいた救いへの欲望が絡み合ったものだった。


だが、どれだけ迷っても、結局彼にはその力を使うしかないのだ。シャドーウォーカーとしての力を使って、すべてを破壊し、その先にある新たな世界を切り開くために。


「どんなに孤独でも、俺はこの力を使いこなすしかない。誰かのためじゃなくても、自分のために…」


奏多は再び立ち上がり、周囲を見渡した。その目に映るのは、無限に続く暗闇、そして自分自身と向き合うための試練だった。


そのとき、ふと彼の耳に音が響いた。遠くから、低く、震えるような声が聞こえた。それはユウキの声のように感じられた。


「奏多…!」


その声が、奏多の胸に直接響く。彼は驚き、立ち尽くした。まさか、ユウキが――今ここに現れるわけがない。


だが、その声は確かに彼の耳に届いた。今度は、ユウキの顔が浮かんだ。ユウキがどこかで自分を探している。その姿を、奏多は今も見守っている気がした。


「ユウキ…」


奏多はゆっくりとその名を呟いた。心の中で、彼に対する感謝の気持ちとともに、何かが湧き上がってきた。だが、それと同時に、彼が持つ「シャドーウォーカー」の力がそれに反応するように、強く、鋭く、彼の体を貫いていく。


「俺は…」


奏多はもう一度、目を閉じた。彼が今求めているのは、ただ一つのこと。自分を解放すること。すべてを終わらせること。そのためには、彼が持つ力を完全に理解し、コントロールしなければならなかった。


その瞬間、ふと気づく。彼の中に、何か新しい感覚が芽生えてきている。それは、単なる破壊の力ではない。「シャドーウォーカー」の力は、深い場所から湧き上がるようにして、彼を支えている。だが、それは同時に彼の心を試す力でもあった。


「ユウキ…」


奏多はその名を心の中で呼び続けた。彼がどんな力を持ち、どんな試練を乗り越えようとも、奏多は一人で戦うことを決して選ばない。


その時、奏多の目が一瞬、青く光った。彼が感じていた闇の中に、わずかな光が差し込んだような気がした。


「ユウキ、ありがとう…」


奏多は心の中で小さく呟き、深く息を吸った。今、彼が感じた光は、ただの幻影ではない。ユウキが彼に与えた何か、確かな力が今、彼の内側で目を覚ましつつあった。


「まだ、間に合うかもしれない。」


彼はその瞬間、決意を新たにした。

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