第12話

 ユウキは、深い決意を胸にダンジョンへ足を踏み入れた。周囲にはひんやりとした空気が漂い、地面は湿っていて不安を煽るような気配が漂っている。だが、それでもユウキは歩みを止めなかった。今、彼が向かう先には、奏多が追放され、そして力を学んだ場所――あのダンジョンの深層がある。


 「この場所で、俺は何を学べるのか?」


 ユウキは無言で進みながらも、心の中ではその問いを繰り返していた。ダンジョンの奥に進むにつれて、次第に暗闇が深くなり、足元の石が冷たく感じられる。しかし、ユウキの目は輝きを失わない。彼には守るべきものがある。奏多を救うために、どんな危険にも立ち向かう覚悟を決めていた。


 やがて、ダンジョンの最深部にたどり着くと、そこでユウキは目の前に現れる存在を目にした。それは、彼が予想していた通り、あの古竜だった。


 「お前か…?」


 古竜は静かにユウキを見つめ、その目の中には無数の歴史と知識が宿っていた。その目線だけでユウキは圧倒され、背筋が凍るような感覚を覚えたが、それでも彼は言葉を続けた。


 「俺は、奏多を救うためにここに来た。」


 その言葉に、古竜は微動だにせず、ただユウキを観察するように目を細めた。


 「奏多を救うため、か…」


 古竜の声は低く、深い響きがあった。その言葉には、長い時を生きてきた者の余裕と、それに伴う冷徹な視線が宿っている。


 「お前はシャドーウォーカーの力に対抗できるのか?」


 ユウキはその質問に一瞬戸惑ったが、すぐに決意を固めた。


 「俺には、力が必要だ。奏多を救うための、どんな代償を払っても。」


 古竜はしばらく黙っていたが、やがてその大きな翼を羽ばたかせ、ユウキの前に現れると、低い声で言った。


 「ならば、お前にも力を授けよう。だが、それは簡単に得られるものではない。」


 そう言って、古竜はユウキを見つめる。その視線の奥に、計り知れない力を感じた。ユウキはその目を見返し、言葉を発した。


 「どんな試練でも、俺は乗り越えてみせる。」


 古竜は微笑んだように見えた。実際にはその表情が変わったわけではないが、ユウキにはそのように感じられた。


 「それならば、試練を与えよう。お前がどれほどの覚悟を持っているのか、見極めてやる。」


 その言葉と共に、周囲の空気が一変した。突然、ダンジョンの壁が揺れ、暗闇の中から何ものかが現れる。それは、無数の影のような姿をした、巨大な怪物たちだった。ユウキは瞬時にその姿を確認し、体を構えた。


 「これが試練か?」


 古竜の低い声が響いた。


 「これらの影を倒せ。お前が得た力を使いこなすには、まずその力を試す必要がある。全ての影を打ち破れ。」


 ユウキはその言葉に従い、剣を構えた。彼の体に宿る光の力――ライティス・ウィスパーが、少しずつその力を増していく。光が彼の体を包み、手のひらからは純粋な光の剣が現れる。


 「ライティス・ウィスパー――光の剣!」


 その剣を握りしめ、ユウキは突如現れた影の怪物たちに向かって突進した。光の剣が空気を切り裂くようにして振るわれ、怪物たちの影を貫いていく。その一撃ごとに、影は光に飲み込まれ、消えていく。しかし、次々に新たな怪物が現れ、ユウキの前に立ち塞がる。


 「光だけでは……」


 ユウキは思わず呟いた。だが、その時、古竜の声が再び響いた。


 「お前が使うべきは、ただの光ではない。影と光、その両方を理解し、使いこなすことができる者だけが、真の力を手にするのだ。」


 その言葉にユウキはハッとした。シャドーウォーカーが持つ影の力を、光だけで打ち破ろうとしていた自分に気づいたのだ。


 「影と光――両方を使いこなす。」


 ユウキはその意味を理解し、光の剣を再び構えた。そして、今度はその光の剣を握りしめたまま、影をも意識的に操るようにした。自分の手のひらから、光と影が交錯し、共鳴するようにして力が広がる。


 「ライティス・ダークネス――光と影の交錯!」


 その一撃が放たれると、周囲の影が一瞬にして消え去り、怪物たちも跡形もなく消失した。ユウキはその光景を見守りながら、確信を持った。


 「これが……両方の力を使いこなすということか。」


 古竜は静かにうなずいた。


 「お前は試練を乗り越えた。その力を使いこなせる者として、我が力を授けよう。だが、それを使うことで得られるものもあれば、失うものもあることを忘れるな。」


 ユウキはその言葉に頷き、目を閉じて深呼吸をした。そして、彼の体内に新たな力が宿ったことを感じ取った。


 「これで、奏多を救うための力が手に入った。」


 そうして、ユウキは古竜に向かって言った。


 「ありがとうございます。この力で、俺は必ず彼を救い出す。」


 古竜は再び、何も言わずに頷くだけだったが、その眼差しには確かな賛同が込められていた。ユウキは力強く歩みを進め、ダンジョンの出口に向かってその足を進める。彼の背中には、新たに得た力が光り輝き、奏多を救うという使命を背負っていた。

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