第11話
暗闇の中で、ユウキは立ち尽くしていた。王国を離れ、奏多の元へ向かうために自分がやるべきことを考え、そしてその方法を探していた。だが、何も見つからないまま、時間だけが無情に過ぎていく。しかし、そんな彼の前に、突如として異世界の空気が変わった。
風が止まり、空気が重く、冷たいものがユウキの背筋に触れる。胸元に押し寄せる圧力。まるで何か巨大な存在が彼の前に現れようとしているかのような感覚。ユウキはその異様な気配に驚き、立ち止まった。
「これは……一体?」
ユウキが目を凝らすと、闇の中から一筋の光が差し込み、次第にその光が形を取っていった。そこに現れたのは、物理的な存在ではなく、概念そのもののようなものだった。それは、無数の目が集まったような存在で、渦を巻くようにしてユウキの前に現れる。
その存在は、どこか冷徹で、どこか無感情だった。しかし、その声は、ユウキの心の奥深くに響き渡る。
「――私はアザトース。混沌の核。お前が求める力を与えよう」
その言葉にユウキは一瞬凍りつく。アザトースとは、彼が以前に聞いたことがある名前だった。それは、この世界を創造した最古の神、混沌そのものを象徴する存在。だが、その名前を耳にした瞬間、ユウキはただならぬ事態が起こる予感を感じ取った。
「私が授ける力は、シャドーウォーカーに対なるものだ。お前が持つ力、シャドーウォーカーを持つ者を救うための力。」
アザトースの声は、まるで宇宙の真理を語るように響く。ユウキはその言葉を反芻しながら、目の前で現れた存在の意味を必死に理解しようとした。シャドーウォーカー――それは奏多が持つ力だ。その力を操ることで、奏多は破滅の運命を避けられないと感じていた。しかし、アザトースはその力を打破するための手段を与えると言っている。
「俺が……奏多を救える?」
ユウキの問いに、アザトースは答えなかった。ただ、無数の目が彼をじっと見つめ、その視線がユウキの心に深く入り込んでくる。その視線は無限の時を感じさせ、ユウキの中に潜む不安や疑念をすべて暴き出すようだった。
「お前は選ばれた。シャドーウォーカーを使う者を救うために、私はお前に対となる力を与える。」
その瞬間、ユウキの体が震え、意識が遠くなりそうになった。だが、彼は必死に踏みとどまり、目を閉じてその言葉をかみしめた。彼が得るべき力、それはどれほどの力で、どれほどの影響を与えるのだろうか。
「与える力、それは『ライティス・ウィスパー』――光の囁き。」
ユウキはその名前に耳を疑った。光の囁き、それはあまりにも美しく、力強く、また破壊的でもある力だった。シャドーウォーカーが影を操る力なら、ライティス・ウィスパーは光を操る力だ。だが、ただの光ではない。それは、影を打ち消す光、あらゆる闇を消し去り、世界を新たに創造する力。その力は、奏多の力に対抗するために、そして彼を救うために必要なものだった。
「お前の力は、シャドーウォーカーの持つ宿命を覆すことができる。だが、その力を使うことでお前もまた、何かを失うだろう。それでもお前は、この道を選ぶのか?」
ユウキはしばらく黙っていた。奏多のために、あの力を打ち破るために、彼はこの道を選ばなければならない。どれほどの犠牲が伴おうとも。
「俺は……選ぶ。奏多を救うために。」
ユウキの言葉に、アザトースは静かに頷き、彼に向かって手を差し伸べた。その手のひらから放たれる光の粒子がユウキの体を包み込むと、彼の体中に温かさが広がり、その温もりが次第に力へと変わっていった。
「ライティス・ウィスパー、光の囁き……」
その瞬間、ユウキの中に新たな力が宿った。それはシャドーウォーカーの力に対抗し、奏多を救うための力。光そのものが彼の手の中に凝縮され、彼の心の奥から湧き上がる使命感が、その力をさらに強く引き出していった。
「俺は、奏多を守るために戦う。どんな代償が待っていても、必ず守ってみせる。」
その決意を胸に、ユウキは再び歩み始める。彼はただ一つ、守るべきものがある。それは、もはや過去の仲間ではない。今は、運命を背負い、闇の力に飲み込まれた友を救うための戦いだ。
「俺は、君を救う。」
ユウキはそう誓い、再びその足を進めた。その背後で、アザトースは静かに微笑んでいた。彼が与えた力は、果たして奏多の破滅を避けることができるのか。それは、まだ誰にも分からない。しかし、ユウキには、少なくともその答えを出すために戦う資格が与えられたのだ。
――その時、ユウキの目の前に現れたのは、かつての仲間であり、今や彼の運命を共にする者の姿だった。
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