第9話
ユウキは書庫から出て、夜の王宮の広間を歩いていた。城内の灯りはほとんど消え失せ、外の闇がそのすべてを包み込んでいる。頭の中には、書庫で見たすべての情報がぐるぐると回っていた。奏多が持っていた「シャドーウォーカー」の力、そしてその力が引き起こす破滅の宿命。
だが、それだけではなかった。ユウキはあの時、書庫の隅で見つけた一冊の古文書を強く思い出していた。それは、異世界に召喚される前に奏多が聞かされていた話だった。その内容を深く読み込むうちに、ユウキは衝撃的な真実を知った。
「奏多……あいつ、あの王国の策略であんな目に遭っていたのか」
ユウキは苦々しく呟く。奏多がダンジョンに追放された理由、それは王国の支配者たちが、彼の持つ力を恐れたからだった。王国の王は、召喚された者たちを利用して異世界を支配しようと考えていた。しかし、奏多が持っていた「シャドーウォーカー」の力が、その計画を崩しかねないことを恐れた王は、奏多を無駄に力を持たせないように、ダンジョンに追放したのだった。
王は奏多が「シャドーウォーカー」の力を使いこなす前に、その力を封じ込めようとした。しかし、それは失敗に終わった。奏多はその力を完全に覚醒させ、ダンジョンでの修行を経て恐るべき存在となった。しかし、その代償として、彼は破滅の宿命を背負うことになったのだ。
ユウキはその事実を知り、胸の中に怒りが込み上げてきた。あんなにも優しかった奏多が、どうしてあんな目に遭わなければならなかったのか。彼を守るべき立場にあった王国の人間たちが、結局は自分の利益のために奏多を犠牲にしたのだ。
「俺は、あいつを守らないと……!」
ユウキは、強く心に誓った。奏多を破滅の運命から救う。彼が持っている力がどれほど危険であろうとも、その力を操るために正しい道を歩ませなければならない。
そのためには、まず「シャドーウォーカー」の力を完全に理解し、奏多がその力に飲み込まれることを防がなければならない。だが、それは簡単なことではない。ユウキはすぐにその道が険しいことを理解した。奏多の力はすでに、ただの力を超えている。それは、概念を操る力、すべての存在を飲み込み、歪めてしまうほどの力なのだ。
ユウキは歩みを進めながら、ふと立ち止まり、夜空を見上げた。その闇の中で、彼は今の自分にできることがあるのかどうかを考えていた。奏多を守るためには、ただ力を持っているだけでは足りない。彼を説得し、彼の心を理解し、何よりも「シャドーウォーカー」の力をどうにかして封じ込める方法を見つける必要がある。
その時、背後から足音が聞こえた。ユウキは振り返り、そこに立っている人物を見た。
「ユウキ……」
それは、ユウキがかつての仲間、ミサキだった。彼女は少し遠くからユウキを見つめている。
「どうしたんだ? こんなところで」
ユウキはミサキの目を見つめた。その目には、何か深い思いが込められているように見えた。
「奏多のことだな」
ユウキは少し驚いたが、すぐに答えた。
「うん、あいつがどうしてあんなことになったのかを調べてる。王国があんなことをしたせいで、あいつは今、あの力に飲み込まれそうになっているんだ。俺、あいつを救いたい」
ミサキは静かにうなずき、しばらく沈黙していた。彼女の表情は硬く、何かを決意したように見えた。
「ユウキ、あたしも手伝う」
その言葉に、ユウキは驚き、そして心強さを感じた。
「本当に?」
「ええ、あたしも、あいつを助けたい。あたしだって、奏多をあんな風にした王国のことを許せないし、もしできるなら、あたしも力を貸すよ」
ユウキは深く息を吸い込むと、ミサキに向き直った。
「ありがとう、ミサキ。でも、あいつが持っている力はただの力じゃない。『シャドーウォーカー』は、世界の概念に干渉できる力だ。もしあいつがその力を暴走させれば、何もかもが壊れてしまう。だからこそ、あいつを守るために、どうにかしてその力を制御できる方法を見つけなければならないんだ」
ミサキは頷き、真剣な表情で言った。
「じゃあ、私たちができることを探しに行こう。あいつを救う方法を見つけ出すために」
ユウキはその言葉を胸に刻み込んだ。彼は決して一人ではなかった。奏多を救うために、仲間たちと共に戦う覚悟を決めたのだった。
「ありがとう、ミサキ。あいつを救う方法、必ず見つける」
ユウキはそう言うと、再び歩き出した。夜空に浮かぶ月が、彼の前方を照らしている。奏多を守るために、ユウキは進み続ける。そして、どんな試練が待っていようとも、彼は決してあきらめないと誓った。
「俺が、あいつを救うんだ」
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