第7話
ユウキは目を覚ました。目の前には、見慣れたはずの教室の光景がまったく違った世界に変わり果てていた。クラスメートたちの中には、どこか戸惑った様子の者も多く、彼らは異世界に転移させられたことにまだ整理がついていないようだった。王国からの召喚だと言われても、どうしてこんなことになったのか、その理由は誰にもわからない。
「……あれ?」
ユウキが辺りを見回すと、クラスメートの一人、奏多の姿が見当たらないことに気づいた。先程まで一緒にいたはずなのに、彼だけが消えていた。ユウキの心の中で何かが引っかかった。
「奏多……?」
彼は心の中で名前を呼ぶが、当然ながら返事はなかった。代わりに、すぐに王国の騎士たちが現れ、異世界での仕事の割り当てが始まった。
だが、その後、ユウキが目にした光景は、彼の予想をはるかに超えるものだった。
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数日後、ユウキと他のクラスメートたちは、王国で与えられた任務をこなす日々を送っていた。ユウキは王国の騎士団に加わり、戦闘訓練や日々の雑務をこなしていた。しかし、心の中で、どこか落ち着かない感情が芽生えていた。それは、奏多に対する不安だ。
彼はその姿を最後に見たとき、あまりにも冷徹で無感情だった。あの日の、異世界への転移直後の不安げな表情はもうどこにもなかった。奏多はあれから一度も姿を見せなかったが、ユウキは感じていた。何かが違っていたと。
そして、その違和感が現実となる瞬間が訪れた。
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その日、王国の城の門が崩れ落ちる音が響いた。ユウキは訓練場で仲間たちと共に昼食を取っていたが、その音を聞いて全員が硬直した。音は徐々に近づき、やがて城の一角が崩れ落ちると、すぐに騎士たちが駆けつけた。
「何が起きたんだ!?」
ユウキは駆け寄り、騎士団の指揮官に尋ねたが、その答えは返ってこなかった。代わりに、遠くから見える崩れた城壁の中から、一人の影が現れた。それはユウキには信じられない光景だった。見覚えのある、奏多の姿がそこにあった。
「奏多……?」
ユウキは呆然とその場に立ち尽くしていた。奏多の周りには、暗い影が渦巻いており、その姿はまるで全てを飲み込む闇のようだった。彼が一歩踏み出す度に、その足元にあった大地が歪み、周囲の空間が崩れ落ちていく。
その姿に、ユウキは目を見開いた。奏多の目は、以前のような優しさや迷いを全く感じさせない。冷徹で、無慈悲な目をしていた。その視線に触れたとき、ユウキは何か恐ろしいものを感じ取った。
「お前が……」
ユウキは何かを言おうとしたが、その言葉は空気に消えた。奏多の目が、ほんの一瞬、ユウキの方を向いた。彼の視線が合った瞬間、ユウキの体は一瞬で凍りついた。
「奏多……、お前、何を……?」
その時、奏多がゆっくりと口を開いた。
「僕がやるべきことをやるだけだよ」
その言葉は冷徹で、感情を感じさせない。彼の手が一振りで城壁を打ち砕き、周囲の騎士たちが次々と影に呑まれて消えていった。
「お前、何をしてるんだ!?」
ユウキが声を上げたが、奏多はそのまま無言で動き続けた。影が次々と現れ、王国の防衛が完全に崩壊していく。ユウキはその光景に言葉を失い、目の前で奏多が何をしているのか理解できなかった。
「こんな……」
彼は思わず足を踏み出し、奏多に駆け寄ろうとした。しかし、足元に広がる黒い霧に足が取られ、その場に倒れ込んだ。
「無駄だ」
奏多が無表情で言い放つ。その言葉に、ユウキは胸の中に冷たいものを感じた。彼の周囲に広がる影は、まるで世界そのものを歪めるように広がっていき、王国を飲み込み、崩壊させていく。
「奏多……お前、本当に……」
ユウキは呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。これが、彼がかつて知っていた奏多の姿ではない。今や、奏多は誰もが恐れる存在となり、王国の滅亡を引き起こしている。その力は、もはや制御が効かないほどに膨れ上がっていた。
その瞬間、ユウキは感じた。もはや彼は、ただのクラスメートではない。影を操る者――シャドーウォーカーとして、世界を変える力を持つ存在となったのだと。
「どうして……」
ユウキはその問いを、もう一度、心の中で繰り返した。
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奏多の影がすべてを包み込み、王国は崩れ去った。その後、ユウキはただ静かに、その異変を見つめていた。目の前の王国は完全に消失し、奏多が何を成し遂げたのかを理解することなく、ただ立ち尽くしていた。彼は、もう二度と、あの優しげだった奏多を見ることはないのだろう。
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