第6話
その日、奏多は深い森の中にひとり立っていた。目の前に広がる世界は、もうかつてのものとは違って見えた。影を使いこなす力、そしてその力を制御する覚悟。それを得た今、彼は自分の進むべき道をはっきりと見据えていた。
「行くんだ……」
彼は静かに呟いた。その言葉は、これまでの自分の弱さを背負いながらも、決して引き返さない覚悟の表れだった。
「俺は、この力を使って、あの醜い王国を滅ぼす」
その王国――奏多がかつて暮らしていた、数多の命を犠牲にして支配された場所。そこには、心の中で永遠に忘れられない痛みと憎しみが渦巻いていた。王国の王、そして彼を追い詰めた全ての者たちが、奏多を無力化し、追放した。そして、彼が持っていた可能性を奪い取った。
だが今、彼は変わった。古竜から教わった影を使いこなす力、そしてその危険性を理解した上で、彼は力を行使する覚悟を決めた。その力が世界を変えるものであれば、彼はその変革を自分の手で引き起こすと決めたのだ。
「俺の力は、もはやただの力じゃない。概念を操る力――その力で、この王国を滅ぼす」
奏多はその一歩を踏み出すと、闇に包まれた影の中に身を沈めるようにして移動を始めた。影を通じて一瞬にしてその場から消え、地上の王国へと向かう。その姿は、まるで世界そのものに溶け込んでいるかのようだった。
影の世界を駆け抜ける奏多の心には、決して消えることのない怒りと憎しみが燃え盛っていた。しかし、それと同時に、冷徹な覚悟も芽生えていた。彼は、影の力をただ破壊的に使うのではない。それを使うことで、王国の腐敗を、そしてその支配を根底から崩すつもりだった。
「すべてを変えるために……」
王国の城が視界に入る。かつて、自分が追放されたその場所。高さ数百メートルの城壁が、冷徹にそびえ立っている。その一角には、今もあの王が座っているのだろう。その王が、この世界を支配し、無数の命を犠牲にしてきた。その姿を見たとき、奏多は心の中で再び決意を固めた。
「俺は、あの王を倒し、この国を変える」
だが、彼の中にはただの怒りだけでなく、より深い覚悟があった。それは、破壊だけでなく、新たな秩序をもたらすという使命感でもあった。影の力を行使して、王国の根本から腐敗を暴き、王が支配する世界を終わらせる。そして、次はその世界を再構築するのだ。
王国の門に立つと、奏多は深く息を吸い込み、影を使ってその周囲の空間をゆっくりと歪ませた。彼の手から、黒い霧が立ち上り、王国の空を覆うように広がっていく。
「これが、俺の影……!」
瞬間、王国の城壁にひびが入り、周囲の空間が歪んだ。影は一瞬にして物理的な法則を超越し、城壁の中に侵入していった。奏多の力によって、城壁そのものが崩れ、周囲の守備兵たちは次々と姿を消していく。
王の部屋に到達すると、そこで奏多は目を見開いた。王は、窓の向こうの外界の景色を眺めていた。王の目に、奏多が現れることを予感した様子はなかった。その顔には、悠然とした表情が浮かび、まるですべてを支配しているかのように見えた。
「奏多……お前が戻ってきたか」
王は淡々とそう言った。彼の目には、恐れはなかった。だが、奏多はその無表情な顔を見つめながら、内心で決して許さないという思いを強くした。
「俺が戻ってきたのは、お前を倒すためだ」
奏多は一歩踏み出すと、その手を広げ、影を呼び寄せた。王が支配するこの王国の中に、奏多の影はすでに深く浸透していた。影は王を包み込み、無数の闇が彼を囲い込んでいく。
王はその暗闇の中で苦しむ様子を見せたが、やがて冷徹に声を絞り出す。
「お前……本当に……その力で……」
「力を、恐れていたのか?」
奏多は一歩踏み出し、無数の影を王に向けて放った。その影は、王の身体を包み込み、彼の存在そのものを歪ませ、消し去ろうとした。
王はその恐怖に支配され、絶叫する暇もなく、影の力に飲み込まれていった。その姿が完全に消失するまで、奏多は力を解き放ち続けた。
王国の支配者が倒れたとき、その王国は急速に崩れ始めた。影を通じて、その王国の支配構造は根本から崩壊し、そこに存在していたすべての権力者たちもまた、影の力によって飲み込まれていった。
「終わった……」
奏多は、静かに呟いた。だが、その声には勝利の喜びもあれば、深い虚無感も混じっていた。王国を滅ぼし、過去を清算したはずなのに、心の中にはまだ、満たされない思いが残っていた。
「でも……これで、すべてが変わる」
そう言って、奏多は再びその足を進めた。滅びた王国の上に新たな世界を築くために――それが彼の次なる目標だった。
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