第2話
大きな竜の姿が目の前に現れた瞬間、奏多の心臓は跳ね上がり、息が詰まるような感覚に包まれた。目の前の竜は、ただの巨大な生物ではなかった。漆黒の鱗に覆われ、燃えるような赤い瞳が彼をじっと見下ろしている。
「ほう……久しいな、人の子よ」
竜の声は、地響きのように響き渡り、奏多は恐怖と共にその声を聞き取った。
その目は、ただの威圧感からくるものではなかった。何か、計り知れない知識と経験が凝縮された目線が、奏多を見つめている。まるで、何かを試すような、そんな気配が感じられた。
「お前が、シャドーウォーカーの力を持つ者か……」
古竜の言葉に、奏多は思わず体を強ばらせた。
「シャドーウォーカー……それは、かつて混沌の核『アザトース』が全てをかけて創り出した力だ。あの存在がどれほどの力を込めたか、そしてその力を操る者がどれほど危険な存在であるか、私にはわかる」
「アザトース?」
奏多の声は震えた。まさか、あの混沌の存在と関わりがあるとは……。だが、古竜の瞳に浮かんだ一瞬の鋭い光が、何かを物語っているように感じた。
「お前はまだ、その力を使いこなせていないだろう。だが、私が教えよう。お前がその力を覚醒させる手助けをする」
その言葉に、奏多は驚きと共に戸惑いを隠せなかった。
「お前がその力を完全に理解することができれば……神さえも殺す力になる。そのためには、まず、心を落ち着け、力の源泉を理解しなければならない」
古竜はじっと奏多を見つめると、静かに言った。
「お前の『シャドーウォーカー』の力は、ただ影に溶け込むことだけではない。影は、お前の身体と心が一体化することで、世界の隙間に入り込むことができる。そして、他の者が持つ力を、影を通じて吸収することも可能だ」
奏多は、その言葉を理解しきれなかった。だが、古竜の言葉には重みがあった。彼の存在が、何千年もの時を生きてきたことが、その一言一言ににじみ出ている。
「では、どうすればいい?」
奏多は、必死にその使い方を覚えようと、古竜に尋ねた。
「まず、お前が影の中に入り込むためには、強い意志が必要だ。その意志が、影と一体化することを許す。だが、ただ力を振るうだけでは無意味だ。その力をどう使うか、それを考えることが重要だ」
古竜は少し黙り込むと、続けて言った。
「そして、その力は無限ではない。使いすぎれば、心が崩れる。お前の心がどれほど強いか、それが影の力を制御する鍵となるだろう」
奏多は深く息を吸い、目の前の古竜の言葉を噛みしめるようにして聞いた。すでに彼の中で、シャドーウォーカーの力が湧き上がる感覚を感じていた。しかし、それをうまく制御できるのか、まだ確信が持てなかった。
「まずは、影を使ってみろ」
古竜が手を一振りすると、周囲の空間が歪むように感じられた。その瞬間、奏多の体はふわりと浮き上がる感覚に包まれ、再び影と一体化した。
「この感覚だ……」
影の中で、自分が消えたかのように感じる。だが、心の中に浮かんだのは、ただの影ではない。影は、奏多が自らの意識を放ち、心の深層へと踏み込む道を提供する。
「今、私は影と一体化している……」
そして、意識を集中させると、周囲の世界がゆっくりと変化していった。影が、奏多の意思に従うように動き始める。古竜の言葉通り、影はただの物理的な存在ではなく、世界の深層にアクセスするための媒介となった。
「よくやった、今のお前には少しばかりだが、力が宿った」
古竜の声が響き、奏多はその言葉に驚きと共に自信を得た。まだ始まりに過ぎないが、この力がどれほど強力なものか、少しずつ理解し始めていた。
「だが、この力を完全に使いこなすためには、お前の精神力もまた試されるだろう。それに、シャドーウォーカーは決して簡単に使いこなせる力ではない」
古竜はその言葉の意味を深く思わせるように言い放った。
「その力に飲み込まれぬよう、心を保て。さすれば、お前はその力を手に入れ、やがて……」
古竜の言葉が響き渡る中、奏多は決意を固め、心を引き締めた。
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