まなざし

第31話

その人は静かにページを捲っていた。

部屋には紙を捲る音だけが、響いている。



私はぼんやりその音を聞きながら、彼のその穏やかなまなざしに魅かれていた。

軽く曲げた人差し指で、そっと耳たぶを弄んでいる。



時々足を組み替えて、溜め息をついたりもする。


涼風が彼の前髪を揺らし、睡魔を誘う。

短いあくびと、静かな瞬きの後、ゆっくりと眠りに沈む人。


午後の日差しに包まれて、穏やかなまなざしは、密かに夢の世界へすべって行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る