第5話 この話続くんだったの?

翌朝


「いや、なんと言えばいいのか」


 魔道具を止めて天蓋を開けてみると、ファミルとアレクシスの寝ていた寝台の周りに女たちが数名倒れていた。手にナイフを持っているものもいれば、拘束の魔道具を持っている者もいる。


「雷の魔法に打たれたのか」

「まぁ、そうなるよね」


 そんな女たちに拘束の魔道具をつけながら、ファミルは呑気についたての向こうへ歩いていった。もちろん着替えていないから(侍女が居なくなったので)寝巻きのままだ。


「すごいことになってるな」


 ついたての向こうを見て、ファミルが半笑いの顔で言ってきた。


「何が、だ……」


 アレクシスも寝巻きのままそちらに行けば、とんでもない光景が目に飛び込んできた。

 国で一番の職人が作り上げたもはやアンティークの域に達している調度品が無惨姿になっていたのだ。テーブルの足は折れ、ソファーの背もたれがもがれ、調度品が砕かれている。ついでに言えば窓も割れていた。


「こんな派手なことをされたのにまるで聞こえなかったのか?いや、誰が一体?」


 あまりの惨状にアレクシスは驚きすぎてその場に座り込んでしまった。一応は第二王子であるから、それ相応の警備体制であるはずなのに、自室がまるで嵐にあったかのように破壊されたとあっては不安しかないというものだ。


「それはまぁ、これを見れば分かるってことで」


 ファミルが、床に転がる真っ赤なバラの花束が収められた魔道具を手に取った。


「おサボり騎士たちも呼んで確認してみようか?」


 ファミルはおサボりと言ったが、騎士たちは扉の外で眠っていた。その様子を控えの間の扉の隙間から侍従が伺っている。


「気付けで起こせばいいかな?」


 ファミルは何かを取り出して騎士たちを起こすと、寝巻きのまま壊れたソファーに座り、真っ赤なバラの花束の収められた魔道具を操作した。


「ここに録画の魔道具が仕込んである訳。そいつに写っている人物が犯人ってわけ」

「ほう、そこに倒れている女たちでは無いのか?」

「そいつらがここまで部屋を壊す必要あるか?ないだろ?騎士たちを眠らせてまですることか、これ?」

「いや、無いな」


 寝室に忍び込んできた女たちの目的は恐らくファミルの殺害とアレクシスへの夜這いだろう。服装が間者というより娼婦にしか見えない。未だに目が覚めないあたり、雷の魔法はかなりの衝撃なのだろう。


「さて、犯人はぁ」


 ファミルが、楽しそうに映像を壁に映し出すと、そこには鬼のような形相の


「は、母上」


 アレクシスの母、正妃の顔がしっかりと映っていた。


「はい、確定」

「正妃を捕らえよ」


 ファミルの背後から厳格な声が響いた。


「はっ、直ちに」


 騎士たちが一斉に走り出す。ファミルが振り返るとそこには国王陛下が立っていた。


「父上、いつの間に」

「秘密の通路はいくらでもある」

「なるほど」

「正妃はそれを使ってこの部屋に侵入したのだ。後をつけさせたが、ファミルの作った魔道具のおかげで何も出来なかったようだがな」

「いや、部屋壊されてるし」

「それも罪状としようか」


 そんなことを呟きながら国王は部屋を後にした。

 そして、その日の朝は国中が第二王子の婚約者の話題で持ち切りだった。朝刊はもちろん売り切で、号外が出るほどの騒ぎとなった。その裏で正妃がひっそりと処分されたことなど誰も知るよしはなかった。



「なぁ、正妃の送り付ける女たちが居なくなればそれで良かったんじゃないのか?」

「何を言う。俺は国民に対してお前を幸せにする。と誓ったのだ」

「契約金貰ってねーし」

「婚約書は交わしただろう」

「いや、だから」

「こんなめでたい日に何を言うか。さぁ、一緒にテラスに出るぞ」

「いや、ちょっと待って」


 いやがるファミルをグイグイと引きずるようにアレクシスはテラスに出た。途端に歓声が上がる。


「ありがとう。必ず幸せにする」


 歓声に答えるアレクシスの手には真っ赤なバラの花束が握られていた。

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お前を愛することはないって本当ですか? ひよっと丸 / 久乃り @hiyottomaru

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