第3話 密談は蜜の味ではない
「よし来た」
ファミルの手にキラキラと輝く物体が現れてアレクシスは目を丸くしたが、侍従はすました顔でそれを受け取った。
「なんだそれは?」
「保管の魔道具です。主に博物館などで使われております。王城では戴冠式用の王杖や冠などが入れられていますね」
「……そんなすごい物をなぜ?」
「カマかけるんですよ」
疑問しか抱かないアレクシスを置いて、侍従は理解し、ファミルはさっさと作業を進めていく。
「入れ方はこのような形で?」
「うん、いいね。さすがは王城の侍従はセンスあるわ」
戸惑うアレクシスをよそに、保管の魔道具に真っ赤なバラの花束が収められ、満足そうにファミルが眺めていた。
「じゃあ、封をするから指出して」
言われるままに人差し指を差し出すと、ファミルが手首を掴んで自分の指と並べて保管の魔道具にある金属に押し付けた。すると小さな電子音がして鍵のかかった様な音がした。
「これで良し」
満足そうにファミルが言うと、侍従が部屋の一番目立つ場所に恭しく飾った。
「ご確認ください」
侍従がそう言ってガラスの部分に触れると、何やら文字が浮かび上がった。
「アレクシス・ファミル二人の愛の記念……」
当然今日の日付も入っている。
「お前、嫌がっていた割にはノリが良すぎないか?」
「だから、カマかけるって言ったでしょ?これは保管の魔道具。俺たち二人が揃わないと開けられないわけ。俺たちの結婚に反対する人物がこの花束に絶対に何かするでしょ?だから侍女たちを下がらせてほしかったの」
「なるほど。鍵の掛け方を見られたくなかったということか」
「それと、これが国宝級の代物専用の保管の魔道具ってばれないためだよ」
「……国宝級」
「まあ、その辺のご令嬢上がりの侍女じゃ見てもわからないとは思うけど」
「軽くディスっているように聞こえるが?」
「否定はしない」
そんな話をしているうちに侍女たちがワゴンを押してやってきた。
「昼食をお持ちいたしました」
テーブルにきれいに並べられた食事を侍従が確認する。
「ファミル様は苦手なものなどございませんか?」
「好き嫌いなく食べるよう躾られてきたのでご心配なく」
ファミルがそう答えると、アレクシスが立ち上がった。
「さあ、食べようか」
さりげなくファミルを気遣い食事の席にエスコートをするアレクシス。侍女たちが一瞬険しい顔をした。
「食器が銀じゃないけど?」
「それはいけませんね」
ファミルが指摘すれば、すぐさま侍従が動いた。
「こちらを」
侍従がすぐさま銀のカラトリーセットを取り出すと、アレクシスがフォークを手に取り皿に突き立てた。フォークの先端が見る間に変色していくのを見て、顔色が変わったのは侍女たちだった。
「この女たちを牢に放り込め」
アレクシスの命令ですぐさま侍従が拘束用の魔道具を取り出した。
「なぜです」
「わたくしはなにも知りません」
「違います。わたくしはっ」
侍女たちは口々に叫んだが、拘束の魔道具が手にかけられると途端に大人しくなった。
「自害もできない仕組みだからね。自分で歩いて地下牢に行きな」
ファミルがそう告げると、拘束された侍女たちは顔を引きつらせながら勝手に地下牢へと歩いていくのだった。
「すごいな」
アレクシスが驚く様子をファミルは満足げに眺めていた。
「さすがは陛下が見込んだだけのことはございますね」
侍従がファミルを褒め称えつつ新しいワゴンを押してきた。
「陛下が俺の腕を見込んで、というのなら致し方がないね。謹んでお受けするよ」
そう返事をしながらファミルはおいしい昼食を食べたのであった。
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