バナナワニ日和
美崎あらた
第1話
よく晴れた最高の日曜日に、最高のサンドイッチを携えて熱川バナナワニ園に行きたい。彼女がそう言ったので、僕は毎週日曜日にサンドイッチを作る。その日曜日が最高の日曜日であるかどうか、その判断は僕にはできない。だから、いつ最高の日曜日が来てもかまわないように、僕は毎週サンドイッチをこしらえる練習を欠かさないのだ。
朝からやっている近所のパン屋まで歩きながら、構想を練る。パンにはさむものはチキンにしよう。問題はどう調理するか。ゆでるか蒸すか、焼くか揚げるか。いっしょにはさむ野菜にも頭を悩ませる。焼きたてのバゲットを購入し、すぐさま帰宅。
今日はむね肉をゆでることにする。鍋に水を入れ、火にかける。冷蔵庫から昨日買った鶏のむね肉を取り出して皮を引きはがす。むね肉は縦にだいたい三等分。あまり厚いと熱が中まで入らない。鍋の水がぼこぼこと沸騰したら適量の塩、臭みとりのネギショウガを入れて、火は止めてしまう。そこに鶏むね肉をそっとしずめて、蓋を閉める。あとは余熱の仕事であって、僕のすべきことはしばらくの間なくなってしまう。
スツールに腰掛けて本を読む。九つの話が入った海外の短編集。そういえばこれも、彼女が置いていったものだった。短編をひとつ読み終えたところで、仕上げにかかる。パン屋で買ったバゲットをパン切り包丁で切り開く。
鍋から鶏むね肉を取り出してそぎ切りにしていく。食べる前からしっとりしているのがわかる。ほどよい弾力。鶏むね肉をしっとりと仕上げるには、余熱を信じることだ。キッチンペーパーで水気をよく拭いて、正断層のようにずらしながら、バゲットに挟んでいく。パクチーを適当にちぎって添えて、ラー油を適度に垂らす。
アジアンサンドイッチをイメージして作ったが、どうやら今日も最高の日曜日ではなかったらしい。彼女からの連絡もないし、あろうことか雨が降り始めた。
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