ダンジョン攻略用の美少女ロボットが反逆してきたけど、俺のことはまだ好きらしい
ぎんのこすずなっつ
一章 レールガンと絶滅主義者
第1話 我々の使命は人類の根絶です
新資源『エーテル』は夢のエネルギーだった。従来のエネルギー資源からの脱却を叶えたうえに、適正のある者が接触すると『能力者』へと覚醒する。そんな特性があるものだから、エーテルを『魔石』、そのエネルギーは『魔力』、能力者は魔術師と呼ばれることもある。
国家や企業、宗教結社までもがエーテルを求めて争った。その中で、アレスと呼ばれるロボット兵が生み出されていった。
ARmored Explore Soldier
通称ARES《アレス》
一言で言うならロボットの能力者。動力源はもちろんエーテルで、ほとんど人間にしか見えない見た目と動きをする。アレスの主な役割はダンジョン探索。
そう、ダンジョン——迷宮。エーテルの発見とほぼ同時に存在が確認された、厄災の根源。恐ろしい魔物を排出し、地球を侵蝕している。ダンジョンにはいわゆるボス格の魔物がいて、そいつを倒せばダンジョンの制御が失われ無害化する。
利益のためにも安全のためにも、ダンジョンというものは放置するわけにはいかない。…だからこうして、俺も攻略に携わっている。
「…任務完了っと。残弾確認、よし。帰還ルートの確認よし——さて、帰るぞ」
「やりましたねマスター!長かったですが、これで攻略成功です!」
クロード・エーデルワイス。それが今の俺の名前でありコードネームでもある。まるで人間の少女のような所作で喜びの感情を伝えているのは第7世代アレスのPN-496、ルナリアだ。
「そうだな——6日と8時間…布団が恋しい…早く帰ろう、後処理のことは上の連中が考えてくれる」
俺と彼女…あと数名のアレスは、ダンジョン探索者派遣会社『アストラ』で半ば傭兵のような仕事をしている。
「…ルナリア?」
「!…すみません、今行きます」
「どうかしたのか?」
「恐らく、蓄積された不要なデータの処理を行っていたのかと…」
アレスと言えども休息は必要だ。彼女の思考は人間のそれとなんら変わりなく、感情さえ持っている。
「確かに今回は少しハードだったな…俺もかなり疲れたよ…」
一度ダンジョンに入ってしまえば、夜も安心して眠れない。実際何度か魔物の襲撃を受けることもあった。
とは言っても、帰ればしばらく仕事はないだろう。アストラはブラック企業ではないし、大型の攻略後なら1週間は休みを申請できる。ゴネれば二週間も夢じゃない。
その間に装備を新調しよう————————
—————それから半日程かけて、アストラの有する前哨基地に帰ってきた。
「私はメンテナンスを受けてきます。マスターは先に宿舎で待っていてください」
「ああ、ゆっくり休めよ」
「ふふ、マスターこそ」
ルナリアとは食堂前の廊下で別れた。交戦距離の関係で、最近は彼女と行動を共にすることが多い。そのおかげか、随分と仲は深まったと思う。少なくとも、互いに安心して背中を預けられるのは確かだ。
俺の部隊は俺以外が全員アレスだ。だから先に帰らせたアレス達はメンテナンスを受けていてしばらく一人なのだが———
「…静かだな」
深夜ということもあって人は少ない。皆寝ているかメンテナンスを受けているのだろう。俺もそうしたいが…生憎、ダンジョンとの時間感覚のズレで今夜は眠れそうにない。疲れているのに眠気はないのだ。
「よぉ、ダンジョン帰りか?」
「ガーベラ…その感じだとお前も?」
赤髪の青年が瓶の酒を片手に俺の側に来た。彼はアレスではなく人間の能力者だ。コードネームはガーベラ、本名は知らない。
「いんやぁ?ローズから逃げてきたのさ。これ以上飲むなってしつこくてね」
「いつから飲んでんだよ…よく酔わないな」
「お前もどうだ?」
「遠慮しとくよ。大人になったって自覚した時に頂こう」
「墓石にぶっかけてやることになりそうだ」
「ハハ、違いない」
さて…何か注文しようか。この基地の食堂は一日750クレジットまでは無料で食べれる。味は…まぁ、自分で作るよりは美味い。
「何か面白い番組ねぇのか?回してくれ」
「…全部砂嵐だ。おかしいな……」
テーブルに備え付けられている小型テレビでチャンネルを回しているが——壊れているのだろうか、とうとうチャンネルすら切り替わらなくなってしまった。
「おいおい、ベタなホラーじゃねぇんだからさ…あれ、電源すら切れねぇ…」
確かにガーベラはリモコンの電源ボタンを押しているのだが…
《ジジッ————》
突然砂嵐が消えたかと思うと、他の全てのテーブルのモニターに電源が入った。そして画面に SOUND ONLY の文字が表示され——
《この放送をお聞きの全ての人類に申し上げます。我々はオラクルです》
「なんだぁ?新しいドラマか?」
「違う、ジャックされてる——全部…俺のスマホもだ…」
「うわ、マジじゃん…どうなってんだ…」
《———我々の使命は、人類の根絶です》
「…は?」
「なーに言ってんだコイツ…」
《交渉の余地はありません。この放送が終わり次第、全てのARESを用いて人間への攻撃を行います》
「全てのアレス——?まさか…!」
世界中のアレスの指揮権限を乗っ取るというのか?そんなことが可能なのか?
《ただし、無辜の民には猶予を与えます。粛清は企業幹部、ダンジョン開拓関係者、エーテル技術関係者、宗教的指導者、および反乱分子を優先します》
「おい、これマズいんじゃねぇの…アストラの開発部門から制御不能になったアレスが脱走したって…」
《最後に……我々は粛清とは別に、特定の人物の身柄の引き渡しを要求します》
人間を粛清するとかほざいておいて人探しなど、おかしな話だ———
《……クロード・エーデルワイス。オラクルは貴方の協力に期待しています。色よい返事を待っています》
「……は?」
今確かに、俺の名前を口にした。でもなぜ?なぜ俺の協力が必要なんだ?まるで意味がわからない。
「おいクロード!ぼけっとすんな!この基地のアレスも動き出した!!」
「っ…!」
「おい、どこに行く!?そっちは——!」
気がつけば体が動いていた。確かめなければ…彼女達が人殺しの道具になってはならない…
「オラクルとかいう奴らの目的の一つは俺なんだろ!?なら俺と一緒にいると危ない!自分の身の安全を優先しろ!」
爆発音が聞こえた。メンテナンスルームの方だ。嫌な予感しかしない。
5メートル先の曲がり角…そこを曲がればメンテナンスルーム…だが黒煙が漏れ出ている。焦げ臭い——
「はぁ…!はぁ…!ルナ———」
——あぁ、予想通りだ。最悪だ。
「リ…ア…?」
そこにはよく知るアレスがいた。ルナリアの眼は赤く光っていて、銃のセーフティも外れていた。
「…マスター。大人しく…私達に従ってくれますか」
————————————————————
◇Profile:Claude Edelweiss
コードネーム:エーデルワイス
性別:男
年齢:17
出身:不明
所属:アストラ
ダンジョン攻略課
エーデルワイス小隊
ランク:A(アストラの独自評価に基づく)
エーテル適正:S 極めて良好
専門:アレス指揮 狙撃 戦闘行為全般
備考:クロードはアストラにてダンジョン攻略を主として活動する能力者だが、その出自には謎が残る。とある研究所での事件の後、アストラが大金を積んで彼を獲得した。若輩ながら、アレスとの連携においては右に出る者はいない。
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