復活祭りと番犬
13話
トワイライト様とのデートからあっという間に三日が過ぎた。そして、今日は待ちに待った復活祭の日なのだが……キツい!
周りを見れば、人、人、人。けれどソレも仕方無い。なぜなら本来な黒鴉寮とレオン寮のみ全員参加。カスタは例年通り数人が参加の予定だった。なのに、急にカスタ寮の寮長も全員参加を言い出した。
結果、校下街の中央広場はギチギチになってしまった。
『ではこれで、開会の言葉を終らせていただきます』
ほぼ全生徒が並ぶ前に舞台を作り、その上で黒鴉寮の寮長、徳永(とくなが)玄(げん)徳(とく)さんが行った。
『では、続いてルールー説明を、紅獅子寮三年学年長、イビル・レク・ルクシオンさん。お願いします』
司会進行は奈央さん、と。念には念を入れて徹底的にトワイライト様を前に出さないようにしている。
奈央さんの言葉により舞台の上に一人の生徒が昇る。金髪を短く切り揃えグラサンをかけ制服は着崩している……チャラい。こんな人が学年長やってトワイライト様怒らないのかな?
『Yo! Yo! ジャァ! 初めての奴もいるからルールーを説明するぜ! つってもちょー簡単! 場所は学園の敷地内。そこに昨夜、復活祭の実行委員が隠した卵がある。オマエラは、その卵を見つけ、今いるここに設置された寮の色に染められたそカゴの中に入れるだけ! 卵にはそれぞれ数字が書かれてあってその数字が寮のポイントになるぅ! 因みに落として割るとゼロだ。ただしぃ! カゴの中に入ってる卵を割るのはNGダゼ! そんな奴は即刻デッド! 制限時間は日没まで。因みに一位を取った寮の生徒には学園から賞金が出る! ヒュー! 学園長太っ腹! と、ルールはこんな感じだ! 質問はねぇな?』
イビルさんは舞台から降りていく。
『イビルさん。ありがとうございます。では、これより復活祭、スタートですッ!』
奈央さんはスタートピストルを鳴らす。それとほぼ同時だった。学園の生徒は一斉に学園に向って走る。
分かってはいたけど、この学園の生徒は他寮の勝負ごとになると勝手に国の威信を背負うため本気で挑む。そのため多くの生徒の表情がお祭りとはかけ離れた鬼気迫る表情だった。
まぁ、僕もこれでヘマをこいて黒鴉寮が一位になれなかったら真央さんに殺されるので同じ表情なんだけど!
数分後、なんとか森を抜けて学園に辿りつく。
学園にはすでに多くの生徒が卵を探していた。
モタモタしていると一個も卵を見つけられずに終りそうだ。流石にそれはまずい。えーっと、まずは中庭に行ってみよう。
中庭にも既に生徒が数人いた……が、まだ誰も卵を見つけてはいないらしい。
僕はなんとなく中庭の噴水を覗き込む。
「あったあった」
予想通り噴水の中に一つ、桃色に塗られた卵が隠されていた。僕はそれを拾い上げる。点数は三十点かぁ。僕は、卵を予め用意していた袋にいれる。
後は……多分、木の上とかかな。
僕は近くの木を見る。予想通り、木の上の幹に緑色に塗られた卵が置かれていた。僕は懐から銃口に金属のついたフックのついたワイヤーガン『ヤミタカ』を取り出す。
『ヤミタカ』を木に向って射出する。すると銃口からフックが飛びし太い枝に巻き付く。僕は引き金を二回連続で引くとワイヤーがゆっくり巻き取られ僕の体が持ち上がる。前までは一定の早さでしかワイヤーを巻き取ることができなかったが、改良することによって引き金を引いた回数でワイヤーが巻き取る速さを調整することに成功した。
さて、えーっと卵の点数は……おっ五十点。
僕はさっと袋に入れて、下に降りる。
「ノー、先に取られてしまいした」
「あ、エヴァン先輩。もしかして狙ってました?」
「はい。しかし、仕方ありませんね。それにしてもラクは捜し物が上手デスネ。この短時間ですでに二つも見つけるなんて」
「まぁ、昔から色々な物を探していたので」
あまり良い記憶じゃないけど。
「隠した人の心理を考えながら探すと見つけやすいですよ」
「おぉなるほど。それが探しものをするコツですか。ありがとうございマス。私もやってみマス!」
そう言い残すとエヴァン先輩は僕の元を去っていった。
さて、後はやっぱり校舎の中かな。
♢♢♢
僕の予想は当っており校舎の中は多くの卵が隠されていた。ただし量は多い分、点数は少ない。どうやら卵を隠した人達はけっこうゲームバランスを考えているらしい。
多分、隠した卵が少ない場所は点数が高く、多く隠している場所には点数の低い卵を隠している。
そう考えると一番探すべき場所はソコソコ広い場所か……となると食堂とかかな。
僕は早速食堂に向う。普段なら食堂には僕達のために料理を作るおばちゃん達がいるが今はいない。恐らく、夜のパーティーのために違うところで作業をしているのだろう。そして他に生徒もいない。つまり、今ここは探し放題だ。
といっても無闇やたらに探しても意味がない。
考えろ~僕。倭国には木を隠すなら森の中という言葉がある。その言葉を頼るなら。
僕は食堂の裏手に回る。食堂の裏には食材を保管する食料保管庫があるからだ。木を隠すなら森の中。なら卵を隠すなら卵の中だ。
食料庫は薄暗くなかには野菜や小麦粉、米など様々な食材がところ狭しと置いてある。そして、数ある食材の中には予想通り卵を入れた木箱も存在していた。
僕は木箱の蓋を開けると中には真っ白な卵がギッシリと入っている。この中から点数の書かれた卵を見つけるのは骨が折れそうだ。
「いや、弱音を吐くべきじゃない。なんたって僕の命がかかってるからな。えっと──……」
僕は一つ一つ卵を掴み確認していく。
数十分後
「ダメだ! 見つからない!」
僕はその場にへたり混む。宛てが外れたかな~。
他を当った方が……いや、でもここまで来て諦めるのもなぁ。
「チュ」
何だろう。手に何か当ってるような? 僕は右手に視線を移す。そこには普通よりも一回りほど大きな鼠がいた!
「うわっ!」
僕は思わず右手を引っ込める。その拍子に右手が卵の入っている木箱に当たり傾く。僕はとっさに木箱を掴み元に戻す。
しかし、その反動で木箱から数個の卵が出ていく。卵は僕の頭上を越えて放物線を描く。僕は自然と卵を目で追い、気づく。卵に何か書かれていることに。
その瞬間、僕は体を地面と平行にしながら低く跳ぶ。そして目一杯手を伸ばす。
「とどぉけ!」
僕の願いは天に通じたのか卵は奇跡的に僕の手の中にすっぽりと収まった。僕は、小さく安堵から小さく息を吐く。
僕は卵をクルリと回転して点数を確認する。卵には、なんと百の数字が書かれていた。僕は小さくガッツポーズをする。
これでまだ僕はまだこの世にいられそうだ。
僕はたいして警戒することなく食料庫を出る。その結果
「ト、ウ、ド、ウ、ラクーーー!!」
食料庫を出た瞬間、怒号の声と共に凄まじい殺気を纏った人物がコチラに近づいてきた。僕は自然とその場から一歩離れる。それと、ほぼ同時だった。僕の目の前で銀色の光が横一文字に流れる。
「いきなりなにするんですか! チャックさん!」
そう斬りかかってきたのは、トワイライト様の執事チャック・チャールズだった。
チャックさんはサーベルを構えたまま鋭く僕を見る。
「その卵をよこせ。もしくは割れ。それは、俺が隠し、俺が見つけるはずだった卵だ」
「俺が隠しって、隠したのは実行委員のはずですよ?」
「馬鹿か貴様は! 俺は学年長だ! 卵の一つや二つ自分で探すのは簡単なんだよ!」
チャックさんは対して悪びれる様子もなくそう叫ぶ。そして僕に向って切りかかる。僕はチャックさんの猛攻を紙一重で交わす。
「なんで! そこまで!」
「決まっている! 全てはお嬢様のため! この祭りは元々紅獅子寮のもの。つまり寮長であるお嬢様のもの! それなのに、一位では無いなんてあってたまるか!」
チャックさんは右斜めから振り上げながら僕を切る。僕はギリギリで転がるようにして左に避ける。
僕は手早く卵を袋に入れる。続けざまにチャックさんはサーベルを上段から振り下ろす。今度は逃げ切れないと思った僕はポケットから『ヤミタカ』を取り出すとフックの部分でサーベルを受け止めた。
金属がぶつかる甲高い音と衝撃による痺れが僕を襲う。
「後! 最近、なぜかお嬢様が気にしているオマエへの八つ当たりもあるッ!」
「九割九分それが本音でしょう!」
「馬鹿をいえ! 七割だ!」
「訂正しても私怨のほうが勝ってるじゃないですか!」
僕はチャックさんの脇腹めがけて蹴りを放つ。しかし、僕の遅い蹴りなんて簡単に看破され避けられる。
しかし避けくれたおかげで隙間ができた。僕はすかさず『ヤミタカ』のフックを食料庫の屋根に引っかける。そしてすぐに引き金を引く。すると、僕の体は勢いよく引っぱられ食料庫の屋根に辿りつく。
「貴様! 卑怯な! 降りてこい!」
そんなチャックさんの声を聞き流す。そして僕は昇ってきた方向と反対側の方向に下りる。
危なかったぁ……って言ってられないよな。すぐ移動しないと今度こそ卵を奪われる、というか切られる。どうしよう……えっと、木を隠すなら森の中。なら人を隠すのは……人混みの中ッ!
僕は学食から急いで離れ本校舎に向った。といってもまだ安心は出来ない。ただの予感だけど、チャックさんすぐ僕の居場所……突き止めそうなんだよなぁ。そうだッ!
僕は自分の教室がある三階の突き当たりを右に曲がる。
えっと……確か……ここら辺に……。
僕は壁を触る。ここは前、千草先生が地下の会議室に連れていくときに使った隠し扉がある場所だ。
僕の作戦はこうだ。まず、ここの隠し扉から隠し通路に入る。そしてそのまま通路を使い、いつも朝練に使う扉からでる。後は、森を抜けて校下街に到着。
まぁ……いつも朝練に使う扉までの道、どこにあるのか分からないんだけど。そこは、まぁ探せば見つかる……はず。
それより今はこの壁に隠されている隠し扉を起動させる方法を見つけるのが先だ。千草先生は……もっと上のほうを押していたっけ? ん? なんか、右手に柔らかいものが…… もしかしてこれがッ!
「……おい」
触り方が違うのかな?
「おい」
もっと強く押せば!
「おい、いつまで触ってる!」
「えっ?」
声につられて顔を上げる。そこには陶磁器のような白い肌と見知った整った顔立ち、奈央さんがいた。
「えっ?」
僕は目線を下にする。僕の右手は奈央さんの胸を鷲づかみしている。
「え、え、え、えぇーーー!!!」
瞬間、僕の体が、血液が、沸騰したように熱くなる。
「すいません! 奈央さん! そんなつもりじゃなくて!」
「別に構わん。この胸もただの飾りだしな」
奈央さんはすぐに真央さんに変わる。まぁ、はい……ですよね。分かってます。
僕の体にあった熱は急速に冷めていく。僕は奈央さんの胸から手を離す。
「それで、どうしてお前がここにいる?」
「いやぁ……そのぉ……隠し扉と隠し通路を使いたくてぇ……」
その瞬間、僕は真央さんの蹴りを顔面に食らう。やっぱこうなるよね!
「お前は本当に馬鹿なようだな! 学園には大量の生徒がいるというのに! そんな状況で隠し扉を使うとは何を考えているんだ! 何を!」
真央さんはそう言いゲシゲシと僕を踏んづける。
「マジですいません。でも、これには訳がッ!」
「やっと見つけたぞ!」
来たぁ! しかも最悪な状況で!
「コソコソと逃げよって! 貴様に騎士道精神……は、あ、あ、あな、な、なな何をしているんだ!」
チャックさんは地面に倒れて蹴られる僕と、僕を虐げる奈央さん見て顔を赤くさせる。しかも明らかに動揺している。これは絶対に勘違いしてるな。
「き、ききき貴様らのような不埒な輩は! お嬢様の害になる! そっこく……斬る!」
チャックさんは勢いよく地面を蹴り上げると弾丸のように真っ直ぐ僕達に近づいてくる。そして僕達の眼前に来ると、サーベルを上段から勢いよく振り下ろす。
真央さんは振り下ろされるサーベルを両手で挟むうように受け止める。俗に言う真剣白刃取りだ。
真央さんは掴んだサーベルを下にずらす。そして、がら空きになったチャックさんの顔面に上段蹴りを喰らわす。チャックさんは白目になり後ろに倒れその場に蹲る。
「直情的ですね。少しは頭を冷やしたらどうですか? それと、私と楽さんはそういう関係ではないので、勘違いしないで下さいね?」
奈央さんは底冷えするような笑みを浮べる。途端にチャックさんの顔は青くなる。まぁ妥当だろうな。遠くから見てる僕も少しサブイボがたった。
真央さんは僕の腕を引きその場を後にする。
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