第5話 僕の妻はのっぺらぼう
顔喪失症は過去に強烈なトラウマを受けた女性がなりやすいということだ。
これは麻里子の担当医である
麻里子は中学生のときにひどいいじめを受けたという。原因は彼女の垂れ目がちな大きな瞳と厚いセクシーな唇が気持ち悪いといわれたことだという。二つとも僕にとっては大好きなチャームポイントだけどね。
どうやらサッカー部のエースが麻里子に告白したことも大きな原因らしい。いじめた側のグループからしたら、麻里子が色目をつかったからだという身勝手な理屈だ。絵にしか興味がなかった麻里子はその告白をことわったという。そうして麻里子はただただいじめらるだけにいたったということだ。
自分の顔が原因で酷い目にあった麻里子はもう誰にも見られたくないと心底思った。そうして顔喪失症を発症し、現在にいたる。
「それにしても驚きです。水樹さんがそばにいると野平さんはよほど落ち着くのでしょう。顔喪失症が出なくなっています」
まじまじと麻里子の顔を見ながら、佐渡綾乃先生はそう診断した。
依然として僕がいないと顔喪失症を発症してしまうようであのクレヨンでぐちゃぐちゃに塗りつぶしたようになるようだ。診察室を僕だけでて、佐渡先生が観察してそう結論づけた。
それでも僕がいるときは顔をみることができるので、おおきな進歩だ。
「冬彦のことが手放せなくなったわね」
と微笑みながら麻里子は言った。
顔が見えるようになって、麻里子の生活に劇的な変化が訪れた。
それは漫画家として本格的にデビューすることがきまったのだ。
得意のホラー漫画をとある出版社の公募におくったところ、見事大賞を受賞した。
もちろん編集者との打ち合わせは僕も同席した。
僕がいないとあの顔喪失症を発症してしまい、打ち合わせどころではなくなるからだ。
麻里子のデビュー作である「空の森」はホラーマニアの間でかなりの評判となった。麻里子の描くエロとグロテスクが融合した独特の世界観は万人受けしないもののネットで話題となったのは間違いない。
続く「仮面の騎士セリーヌ」で麻里子の人気は盤石となった。あの独特の世界観はそのままにグロテスクを抑えめに、エロは全年齢ぎりぎりを攻めた。ストーリーは万人うけする勧善懲悪ものでそれも受ける要因の一つになった。
漫画家として忙しくなる麻里子を支えるため、僕は仕事を辞めて彼女のサポートにまわることにした。麻里子の日常生活を支えるのは実にやりがいがあった。
麻里子の漫画家としての成功で僕の生活もかわったのは間違いない。
麻里子は漫画のストーリー展開に悩むと、僕を呼び出して心いくまでエッチをするのであった。それは時間を考えないので困ったものだったが、麻里子のエロい体を堪能できるので嫌ではなかった。ただ、ねこそぎ搾り取られるのでことが終わったときには僕は足腰がたたなくなるのが悩みではあった。
そうして一年がたち、僕と麻里子は結婚することになった。
プロポーズは麻里子からだ。
ストレス発散にいつものように麻里子にすべてを搾り取られて、茫然としている僕に彼女は告げた。
「冬彦がいないと私だめだから、ずっと一緒にいよう。結婚してほしいの」
もう離したくないとばかりに麻里子は自分の大きな胸に僕の顔を押し付ける。
心地よい息苦しさだ。
「いいよ、麻里子。僕はずっと君といるよ」
こうして僕たちは結婚した。
麻里子の漫画制作の打ち合わせに結婚式の準備にと忙しい七月初めのある日の夕方のことであった。
テレビがあるニュースを流していた。
神戸市在住のコンサルタント経営の男がインサイダー取引と投資詐欺の容疑で逮捕されたという。男の名前は田村史郎と言い、あの瑞樹を奪った男であった。
そして瑞樹も共犯として逮捕されていた。
テレビ画面に映し出された瑞樹の顔からはあの可愛らしさは消えて、まるで別人のようになっていた。
僕はそのニュースを見て、涙した。
だって初恋の人が男に騙されて、逮捕されたのだ。涙が止まらなかった。
そんな僕を麻里子は激しく抱いて、癒してくれた。
あまりに激しく抱かれたものだから、瑞樹のことは忘れてしまった。
八月になり、僕と麻里子は結婚式をあげた。
式には僕の家族と麻里子の家族、それに友人の田城雄太を招いた。
田城の隣には小柄で黒髪の美人がいた。
その女性は
田城は田城でいろいろあったということだ。
これは彼のプライバシーなのであまり多くはふれまい。
「麻里子、可愛いよ」
僕は麻里子の顔をみつめて、そう言った。
「ええ、知っているわ」
うふふっとあの僕の好きな微笑みをする。
僕と麻里子はキスをして、ずっと一緒にいることを誓いあった。
終わり
初恋の彼女をNTRされた僕はマッチングアプリで知り合ったのっぺらぼうと付き合うことになりました 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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