エピダの憂鬱

がらんどう

第1話

ー私は魔界で生まれ育った王族直属のスパイの1人。

「今日も濁った、いい天気ですね」

そう言いながら訓練場に向かっていた。

すると何故かそこには「主」が仁王立ちしていた。

すぐに私は膝をついた。

「…お前に重要な任務を与える」

「天界の大天使を皆殺しにして来い」

「…お言葉ですが、それは一体どのような任務なのでしょうか。」

「天界には大天使という天界を支える柱が複数いる。そいつらを殺せば…わかるな?」

「…承知いたしました」


「全ては主のままに」




という経緯から、私は天界に潜り込む事になった。

「主」から頂いたマジックアイテムを複数身につけ、私はすぐに検問場へ向かった。

検問場を潜り抜けられるのは、悪魔は王族のみ、天使でさえごく一部の者となっている。

それを知っていたので、私は王族の王子と称し、念の為通過記録書も私の名前を消しておいた。

そして無事検問場を潜り抜けたので、今度は天使に変身し、早速今回の獲物である大天使たちが住む天界の上の方へと目指した。




『…さて』

ここからどうしたものか。

大天使と接触するためには、まず間違いなく天使の中でも上位の位についているものでなければならない。

しかしいきなり無名からそのような天使に変身するのは、少々ーいや、だいぶ無理がり、怪しまれてしまう。

『今から上天使資格の試練を受けるか…?しかしそれではかなりの時間がかかってしまう。』

うーむ、と頭を抱えていた時。

ひらりと一枚の紙が私の足元に落ちてきた。

何気なく拾ったのち、私は大きく目を見開いた。


【大天使の執事募集中!!】

【高時給!タフな方限定!希望すれば休みもあり!!】

「ー興味がある方はぜひディザー邸まで、か」

私はこんな美味い話を飲まないわけにはいかなかった。

『…しかし、この【タフな方限定】とは一体どう言うことなのでしょうか…』

そう思いながらディザー邸に向かった。




「ええっ?!引き受けてくださるのですか?!」

門の前で掃除をしていた1人のメイドに話しかけると、いきなり驚かれた。

「…はい、ぜひとも私を採用していただけませんでしょうか。」

「〜〜もう是非是非!!ささっ、どうぞこちらへ…」


「ちなみに、応募されている方の人数はいかほどなのでしょうか?」

「実は今日まで誰もきてくれなかったのですよ〜」

「ほう…?それはまたどうしてでしょう?」

するとメイドは黙ってしまった。

「あっ…大変失礼しました。きっと何かご事情があるのでしょう」

「い、いいえ!ただ…」

「ディザー様は、少々変わった方でして…あ、あまり驚かれないでくださいね!」

「承知しました。」

私はニコリとした。

「そ、そういえばお名前伺っていませんでした!お名前を教えていただけますか?」

「あーー…えっと…」

しまった。私としたことが、名前を考えていませんでした。

「…名は名乗れるほどではありません」

「?そうなんですか…あっつきましたよ」

メイドの足が一つの大きな扉の前で止まった。

そして彼女は軽くノックをした。

「失礼致します、ディザー様に客人がいらっしゃいました」

すると扉が勝手にゆっくりと開いた。

「このあとはディザー様がご説明しますので、私はこれで失礼します!」

「はい、ありがとうございます。」

ペコリとお辞儀をしメイドが去った後、私は静かに部屋の中へと入った。

「…!」

…扉の向こうには、なんとも美しい少年の姿があった。

真っ白な短髪にアメジストと虹色のオッドアイ。

頭の上には金色の凝った天使の輪が。

そしてその小さな身体から大きく純白な翼が生えていた。

『なんとまあ清廉で忌々しい姿なんでしょう。』

悪魔の私から見たら悍ましくて仕方がないのですが…

「大天使ディザー様。なんという神々しきお姿なのでしょうか。」

「…君が次の僕のパートナー、なの?」

彼は純粋な目で私を見つめた。

「ディザー様が望めば今すぐに忠誠を誓いましょう」

「本当?!?!」

「?!」

えっ。今、さっきまでとは違う声が聞こえたのですが…気のせいでしょうか。

「ねえ!!聞いてる?!僕の執事になってくれるの?!」

『…気のせいではなかったようです。』

私は後退りをした。

しかし任務を達成するには、大天使に接触するしかなく、今まさに絶好のチャンスなのだ。絶対に逃すものですか…!

「…はいディザー様。私は今、この瞬間からあなた様と共に過ごしましょう」

私はディザーの手を取り、膝をついた。

すると彼はたちまち満面の笑顔になり、

「うん!!これからよろしくね!!」

と言った。

『…この方は本当に大天使なのでしょうか…』

疑心暗鬼になりながら笑顔を作った。

「あれ、そういえば、君、名前は?」

「あ…実は私、お恥ずかしいことに捨て子でして…名前がないのです」

「ふーん、そうなんだ」

「じゃあ僕がつけてあげる!」


「今日から君はエピダだ。」

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