僕がラーメンを食べたいとき、君はパスタを食べたいという
木谷未彩
第1話
「お昼、なに食べる?」
僕がどうしてもパスタが食べたいとき君は
「ラーメンが食べたい!」
と言う。
「……そう。ちなみに僕はパスタの気分なんだけど」
「そっか。残念だったね。私はラーメンの気分だよ」
「……たまには彼氏の気分に合わせません?」
「合わせないですね。残念でしたね」
「合わせないですかぁ」
「ほら、早く行かないと伸びちゃうよ!」
彼女が僕の腕を引っ張る。
「伸びるもなにも、まだ頼んでないでしょ」
あー、ダメだ。聞いちゃいない。
今彼女の頭の中には、ラーメンしかないのだろう。
「あ、赤信号だ!うぅ。ラーメンがー。ラーメンが伸びる」
「だから、伸びないって」
「よし、曲がろう」
「……遠回りになるよ?」
「たくさん運動した後のラーメンの方が、美味しいからいいのー」
「……伸びるんじゃなかったの?」
「それとこれとは、別問題」
結局、10分くらい余分に時間がかかってしまった。
「うむ。いい腹具合だ」
「そう?僕は疲れて、ますますラーメンの気分じゃなくなってきたけど」
「大丈夫。食えば忘れる」
「そうかなぁ」
彼女の言う通りだった。
「うまい」
「ほらね」
君が作った訳でもないのに、君はとても誇らしそうだ。
僕がラーメンを食べていると君はいつも、僕の顔を凝視してくる。
なにか付いているのだろうか。
「スープまで全部飲んでるじゃん。喉乾くよ」
君が言った。
「ラーメンはスープが命だからね」
「いや、麺でしょ」
「いや、スープだよ」
「麺」「スープ」「麺」「スープ」「麺」「スープ」
「まあまあ、お二人さん。麺とスープ、二つ合わさったハーモニーが命なんだよ」
店主が乱入してきた。
「そういう話はしてないの」
彼女が言った。
「右に同じ」
僕が言った。
「まぁ、どっちも美味しいもんね。命は麺だけど」
「たしかに、どっちも美味しいもんね。命はスープだけど」
「お前たちは、仲が良いのか、悪いのか、よくわからないな」
「よくなかったら、とっくに別れてるよ」
「……たしかに」
「そろそろ帰ろうか」
「……うん」
「最初はグー、じゃんけんぽん」
君がチョキをだし、僕はパーを出した。
「やった!勝った!」
「よかったな。彼氏の奢りか」
「ううん。払うのは私」
「男気じゃんけんか。そんなことしなくても、ラーメンくらい彼氏が奢ってやれよ」
「奢られるってわかって食べても、美味しくないでしょ」
そう言いながら彼女は、僕の分もお代を支払う。
「そういうもんかねぇ」
「そういうものなの!帰ろう」
彼女の手を掴み、店を出た。
「ごちそうさまでした」
「うん。美味しかったでしょ」
「そりゃ、味は美味しいよ」
「だよね。よかった。映画でも見ようか」
「アクション映画が観たいな」
「そっか。じゃあ、ミステリー観ようか」
「……話聞いてた?」
「うん。聞いてたよ。ミステリーを観よう!」
「聞いてないよね?」
「出発ー」
君が僕の手を引き、歩き出したから僕は黙った。
毎日毎日、振り回されて大変なのに君の笑顔を見ると許せてしまうのだから、これが世に言う惚れた弱みというやつなのかもしれない。
僕がラーメンを食べたいとき、君はパスタを食べたいという 木谷未彩 @misar
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