大人気vtuberの彼女が配信でイチャイチャしたいらしいので、百合(営業)を始めることにした

耳折

第1話 前編 初コラボ配信

「こんはご、こんはごー!みんな今日も配信見てくれてありがとー!」


:ここんちゃんの笑顔癒されるー

:今日ははごはごの苦手なホラゲ配信、大事か?

:いつものドジっ子スーパープレイよろしく!


「親狐さんたちにも事前に案内したけど、今日はバイノハザード8をやっていくよー。ちょっとホラゲは苦手だから叫んだりしたらごめんね?」


:はごはごの悲鳴は明日の仕事の活力になるからおけ

:むしろ悲鳴を聞きにきてるまである


「うー、なんか今日の親狐さん達、イジワルじゃないかなー?」


「じゃあ始めるよー、よし……スタート!!」


 羽衣はごろもここん


 金色と銀色の体毛と9本の尻尾がトレードマークの柄で可愛らしいvtuber。

 ファンネームはその子狐を見守るという意味で親狐。

 個人vtuberとしては脅威の登録者数80万人超え。

 主な活動はゲーム配信、格ゲーやホラゲで特にスーパープレイを連発しながらも要所でドジっ子を発動して負けたり死んだりしてしまうギャップが人気だ。


「あぁ!何でそこで手榴弾投げちゃうの!?いやでも窓から逃げれば……ひぃ!?」


 間違えて投げた手榴弾から逃げられずに自爆してしんでいた。


 それまではノーダメだったのに突然の死が過ぎる。


:何故その死に方ができるのか

:はごはご名物突然の死!が見れて満足


「わざとじゃないからね!?」


 それは親狐さん達も俺も良く知っている。


 ………

 ……

 …


「じゃあ今日はこれでおわりー、また明日も配信するからまた来てねー!今日はありがとうー!」


 スマホで配信終了画面が流れる。


「ふぅ……今日も可愛かったな」


 びんぽーん。


「ん?来たか」


 呼び鈴を聞いて玄関の扉を開ける。


「お疲れ様、京楓きょうか


「うん、今日も見てくれたんだ私の配信」


「当たり前だろ、みない彼氏がいるか?」


 大人気vtuber羽衣ここん、もとい狐沢京楓きつねざわきょうか

 そんな彼女に冴えない俺、田貫竜也たぬきりゅうやの様な彼氏がいることを他の誰も知らない。


「今日は何回も絶叫して疲れたよー、怖いゲームおすすめしてくれたのは嬉しいけど側にいてくれないと喉がもたないよ」


「ホラゲは人気ジャンルだし避ける訳にはいかないだろ?京楓はゲーム酔いしやすいからFPSは出来ないし」


「そうなんだけど……」


 何かいつもと様子が違う。


「気にしてるのか?彼氏を隠してること」


 京は真面目な性格だ。

 だから女性vtuberとしてはかなり禁忌である彼氏の存在を明かそうとしたことがある。

 

「あのなぁ、確かに隠し事を悪いと思っているのはわかるぞ。ファン、いや親狐さん達を裏切っている気がするのもわかる。でもここんのファンはどう言う人が多いかわかってるだろ?」


 女性vtuberにもというのはある。

 アイドルとしての側面を全面に押し出すアイドル売り、プロゲーマー、ストリーマーとして会話やプレイ技術で魅せる売り方もある。

 ……後はエロとか。


「ここんは皆から愛される子狐だろ?だから俺も京楓にはその……まだそう言うことしてないしさ……大切だから……」


「……ヘタレ」


「え?」


「なんでもない!それよりも最近ごめんね?もっと竜也君と一緒にいたいんだけど、配信ばかりで近くにはいるけど一緒にはいれないから」


「仕方ないだろ、隣の家だしいつでも来れるし気にしてない」


 俺と京楓は幼馴染だ。

 だが付き合ったのは高校に入った直後。

 その後すぐに京楓がvtuberとして活動を始めて今で2年目。

 

 近くにはいつもいたこの距離がすきでもあったけれど、少し物足りない所もあったのは確かだった。


「だから竜也君には


「…………は?」


 意味がわからない。


「遊んだり一緒にいる時間を増やすとかじゃなくてか?」


「うん、まずはこれ、みてくれない?」


 京楓のスマホに表示されていたのは目の下のクマが特徴的な大人女性の3Dモデル。


「まさか別名義でvtuber始めるのか!?今でさえ大変なのにそれは無理だろ!勉強もあるし……」


「私のじゃないよ、竜也君のだよ」


「は?どう言うこと?」


「私は考えたんだ、どうすれば竜也君と一緒にいながらvtuber活動が出来るかなって。それで考えたのがこれなんだ」


 スマホ画面には羽衣ここんの説明文。


『山奥から迷子になって女子大生の家に居候している狐の子供。人間に化けきれていないが家主さんは気にすることなく優しく接してくれている』


「竜也君にはこの家主さんの狸野めこまさんになって一緒に配信に出て欲しいの」


 ……は?


「はぁ!?リスク高すぎるし女性の真似なんて俺には無理だって……何だよ」


「竜也君は私と一緒にいたくないの……?」


「う……それは一緒にいたいけどさ、もうちょっと普通のやり方が……」


「もしかしてvtuberが普通じゃないっていいたいの?私の事そんな風に思っていたなんて……」


 ぐっ……


「わかった!やる、やるから!」


「本当!?良かったぁ、もう準備は出来てるから明日から始めよう!100万が無駄にならなくてよかったぁ!」


「おい、俺が断らない前提で動いてただろ」


「うん、だって竜也君は優しいから絶対断らないだろうなって、それに……」


 京楓は俺の肩に頭を乗せてよりかかる。


「私は竜也君の彼女だもん、ずっと好きな人と一緒にいたいし一緒のことしたいんだよ……?」


 え、それって、もしかして……


「楽しみにしててね、めこまさん」



 ………

 ……

 …



「準備いい?」


「お、おう……」


 機材には詳しくないがカメラやマイクはわかる。

 隣同士で椅子が用意されてすぐ隣にいても問題ない様だ。


「じゃあ、始めるよ」


【5、4、3、2、1……】


「こんはご、こんはごー!今日もみんな家に来てくれてありがとー!今日は皆に大切な私のご主人様を紹介するねー!」


(ほら、自己紹介!)


(お、おう)


「……こんちは、私がここんの家の主、狸野めこまだ」


:はごはごのご主人様!?マジかよ

:めっちゃ美人だ……俺も居候させてください!

:無気力系お姉さんと天然ロリの組み合わせとか最高かよ!


(こ、これでいいのか?)


(うん!最初にしては上出来だよ!ちょっとぶっきらぼうな所も竜也君みたいでいい感じ、声も元から可愛いから全然違和感ない!)


 全然配信の練習はしていない、ボイスチェンジャーを使って少し声を変えているくらいだ。


「めこまお姉ちゃんは配信初めてで緊張してるみたいだから皆優しくしてあげてねー、それと配信後にはお姉ちゃんのチャンネル開設するから皆登録してくれると嬉しいなー」


(ちょ!初耳だぞ!?)


「そして今日はお姉ちゃんと一緒にホラゲをやって行くよー、でも私は怖いの苦手だからお姉ちゃんの膝の上でプレイしていくね」


「なっ!?」


 京楓が座っている俺の太ももの間に乗ると画面の中の俺達も同じ動きをする。


:甘えるはごはごかわいー!

:はごはごがもし俺の前に座っていたらもう……

:ご主人様にここんちゃんがすりすり甘えてるの可愛過ぎんだろ


 誰も俺が男だと疑っているリスナーはいない。

 あまりにも堂々とし過ぎていて考えもしないんだな……


 というか、この状況はまずい。

 コメントにもあったけど目の前に京楓。

 匂いも熱も今までに無いくらい近い。


(京楓、もう少し離れて……)


(嫌?)


 そんな訳ないからマズいんだって!!

 

(ダメだよ変な動きしちゃ、めこまお姉ちゃんが男だってバレちゃうよ?親狐さん達はちゃんと見てるんだからね?)


 執拗に俺に身体を押し付ける。

 いつもの京楓でもない、ここんでもない、目の前にいるのは……妖狐だ。

 狐に化かされたのか、それともこれが本当の京楓なのかわからないけれど……


「あれ、お姉ちゃん急に黙ってどうしたの?怖いよ……?」


 いいだろう、そっちがその気ならこっちにも考えがある。


「はぁ……ここんは下手くそだな、貸せ」


「え……ふぇっ!?」


 京楓からパットを取り上げて代わりにプレイする。

 その間当然京楓は俺に抱かれたまま。


(京楓実況して、俺だとボロが出るかもしれないから)


「あ、ええと……お姉ちゃんはホラゲ以外にもゲームセンターにもよく行ってそこでもゾンビを撃ったりしてるからホラゲは得意なんだ」


:ここんちゃんとめこまさんって外でも遊ぶんだ


「うん、お姉ちゃんとはゲームばっかりだけど日帰り旅行とかも行くよー」


 京楓は身体は小さいが登山も趣味でよく日帰りで小さい山に日帰りで行くことが多い。


 京楓はゲームばかりで一時期体重が10kgくらい増えたこともあって、その運動に付き合っている。


「次は泊まりで遠くに行こうかと思ってるんだー、も有名だから一緒に入って配信もしちゃおうかなって思ってるところだよ」


:ここんちゃ!そんなハレンチな!

:でもはごはごの気の抜けた所も知りたいかもー


(はぁ!?いや待てそんなこと母さんもそっちの両親も許す訳……)


 京楓が見せてきたスマホの画面には『あのヘタレを男にしてあげて!』と。


 あのクソババア……


「楽しみだなーお風呂、ね、お姉ちゃん?」


「……別に」


 まぁ、風呂うんぬんは置いといて。

 京楓と旅行に行けるのは楽しみに決まってる。


 そして何とか初コラボ?配信が終わった……


「心臓が爆発しそうだった……」


「お疲れ、めこまお姉ちゃん」


「おい……」


「ごめんね、でも一緒に配信に出れて嬉しかったのは本当だよ?」


「旅行のことも俺は聞いてなかったけどな」


「あー、それは……サプライズ?」


 なんで疑問形なんだよ。


「本当は竜也君の誕生日に話そうかなって思ってたんだけど、我慢できなくて……てへ」


「てへじゃない、それに風呂配信なんて出来るわけないだろ?ていうか俺が反対だ」


「何で?」


「流石に応援してくれてる親狐さんだけど、彼女の入浴を配信するのは嫌だ」


「……竜也君も焼きもち焼くんだね」


 焼きもちでも何でもいい。


「でも竜也くんも一緒だよ?それも嫌なの?」


「いや、それは……」


 入りたいに決まってる。

 でもそうなったら俺の理性が持つかわからない、というか多分無理だ。


「……いいのか?」


「うん、私は竜也君がいいって言うなら」


「それなら……いいけど」


「本当!?良かったぁ!!!」


「え?水着?」


「うん、家族風呂でも水着着用可の所があってね。お母さんもそれならいいって……あれ?もしかして、私が裸で入ると思ってた?」


「……」


 京楓、こいつ俺が勘違いしてるってわかって話してたな……


「帰る」


「え?何で?」


「うるせぇ」


「待って、ごめんね?ちょっと嬉しくてからかっちゃっただけなんだからぁ!?」

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