BestEnd

小菅駿

第1章

第1話 アゲイン2

「誰も読むことはないかもしれないが最後まで書いてみることにした」


「なんとなく最高の終わりを迎えるには必要なんだと思う。」


──────────────────────────────────────


「眠いな」


1月24日午前7時2分


新道啓は瞼をこすりながらノートを見ていた。

眠いのはテスト勉強で徹夜したからではない。

そもそもテストは10時40分からだ。


わざわざ大の学生がこの時間に起きるのには理由があった。


「…ったく、相変わらず突拍子のない奴だな」


軽く身支度を済ませると啓は家を出て大学の最寄りへ向かった。




「はよーございます。」

いつも通り駅前のベンチに座っている爺さんに挨拶をする。

それに反応して爺さんは軽く手を挙げ会釈した。


いつも通りの光景だ。


この爺さんは俺が大学に行くときも、大学から帰る時も春夏秋冬常日頃からあのベンチにいる。

初めて見たときは疑問に思ったが、そんなことにはもう慣れてしまい今では挨拶をするほどだ。


九ヶ月前を懐かしみながら啓は大学へ向かって歩き出す。

最寄りの駅から大学までは少し遠い。

普通の生徒はバスに乗って行くが啓にその選択肢はない。


理由は単純。彼は裕福でない。


それなのに都内の私立大学へ通わせて貰っているのだから出来る限り出費を減らそうとするのは当然だった。


大学まで半分の距離を超えたとき、啓は足を止めた。


「なんだあれ」


とんでもない数の猫が群れをなして歩いている。

引き連れているのは女の子のようだった。

ミディアムの髪型と小柄な後ろ姿からして可愛いのが伝わってくる。

普段ならそちらに目を取られるであろうが異様なのは猫の数だ。

恐らく100匹はいるだろうか。

どうやって連れているのか、そもそもこの地域にこんなに猫がいたのか、ただ唖然とする。


「世の中よく分かんない事だらけだな」


猫の行進を見送ると啓は大学へ向かって再び歩き出した。


程なくして目的地へ辿り着く。

普段はもっと遠い場所にあるはずだが、これから用があるのは理系用のキャンパスだった。

慣れないキャンパス内を足早に進んでいく。


「啓ーー!!」


突如でかい声で名を呼ばれた。どうやら目的の奴に見つかったらしい。

勘が良ければもう分かるだろう。

そう、俺がわざわざ朝早くに家を出てまでここに来たのはこいつに呼ばれたからだ。


そういえば最近会えていないなと思い昨夜連絡した所、今日ここへ来るよう返信があったのが現在までの経緯である。


声の主は俺に向かって全速力で走ってくる。

しかもやたら腕を大振りにしているのが見えた。


…おい、まじかよ。なんで朝からこんなテンション高いんだ。


だんだん距離が近づいてくると声の主は急に減速しつつ背中をこちらに向けた。

このふざけた野郎は何を思ったのか、華麗にバク転を決めつつアクロバットをしながらこちらへやって来る。

バク転、バク転、バク転からのバク宙。


…おいおいおい、まじかよ。朝に気でも狂ったのか?


体操選手の様にバク宙を決め切ると奴、小川シュウはこちらへ近づいてきた。


「よう」

「啓!今のどうだった!!??」

「…シュウ、お前朝から元気すぎんだろ。」


小川シュウと新道啓は小学校からの付き合いであり、旧知の仲である。

高校進学の際、一度離れてしまうも大学へ入学後、別の学部ではあるが再会を果たした。

しかし同じ大学ではあるものの格差は激しい。

奨学金を借りている啓に対し、シュウは理系で特待生の扱いである。

普通なら彼と一緒にいることでギャップや苦痛を感じてしまう者は多い。


だが啓は違った。


多くの人間は普通である。

だからこそ抜きんでた才は煙たがられる。

ただでさえ煙たがられるのにシュウはそれを気にもしない。

「シュウは下を向くことなく、常に前を見続けている。」

それが啓が行うシュウへの評価だ。


常に対等で向き合って来たからこそシュウの変化にはすぐに気づく。


「ん、めずらしいな。マフラー巻いてるの」

「!!よく気付いたね!最近寒いから買ったんだよ!」


ふーん、と啓は思う。

口には出さないが、いつもは汚れている靴も珍しくちゃんと磨かれていて綺麗である。


「お前、彼女でも出来たのか?」

ちょっと揶揄ってみる。

しかし笑顔でシュウは受け流す。

「俺に女子が寄ってくるわけないでしょ!」

明るく自虐する彼は彼女なんて本当にどうでも良いように見えた。


普段ならこうして談笑するのも良いが今日は別である。

啓にはこの後テストがあった。


「それよか急に呼び出してどうしたんだよ」

無理やり本題へ入るとシュウからニヤつきが消えた。

「あー、そのことなんだけどさ」


真顔で話し出すシュウに対し思わず息を呑む。


「今日この後遊びに行かない?」

そう言い終えると彼はまたニヤつきだした。

そんなシュウを見て啓は思わずため息をこぼす。


「そんなことかよ、でも悪いけどこれからテストでその後バイトなんだ。また今度行こうぜ」


俺の言葉を聞いたシュウは笑顔のままではあったがなんだか少し哀愁が漂ってるように感じた。

「…そっか…そういえばさ、俺きの…」

「ヨォ!小川じゃねーか!」


シュウの言葉は後ろからの声に遮られる。

声の主が理系のキャンパスには驚くほど不釣り合いなリーゼントを携えた男だと気付くのにそう時間は掛からなかった。


「急に会話に割って入っちまって、すまねぇとは思うけどよ、テメェ久しぶりじゃねーか! そんでオメェは小川のダチか?」

急な乱入に戸惑いはあったものの、不思議と啓は冷静だった。


「そうだけど、あんたは?」

「オレァ田端ってんだ、オメェ友達ならよ、ちゃんとこいつのこと心配してやれや」

…?何を言っているのかよく分からないが、なんとなくこのヤンキーが変な奴なのは理解できる。不必要な言い合いはやるだけ無駄だ。


「…そうだな、気を付けとくよ」

何を気を付ければ良いのか知らないがとりあえずそう答える。

「じゃあ俺これからテストだから行くわ」

面倒から逃れるため啓はシュウに手を振りキャンパスを後にしようとする。

「ちょっと待てや」

しかし田端が止めた。

「テメェ、テスト行く前に何か言うことがあるんじゃねぇか?」

「…?」

しかし田端の意図は啓に伝わらない。


「名前だよ!  名   前   !!!」

「…ああ、そういうことか。新道だよ、新道啓」

聞きたいことを知れたからか田端は満足気な笑みを浮かべた。

「そうか!また今度な!新道!」

どうやら仲間認定を受けたようだった。


「…疲れる1日だ」

まだ起きてから3時間しか経っていない。

それなのに意味不明な状況が多すぎて脳が混乱しそうだった。


やっとの思いで本キャンパスにたどり着くと時刻はテスト開始の20分前だった。

「まじかよ、これテスト直前の確認出来ないんじゃねーか……?」

ため息を吐きたくなる。

「前向きに考えよう。久しぶりに親友と会えて新しくダチが出来たんだ。良い一日のはずだ。」

吐き出したくなるため息を押し殺し前向きに考える。

少なくともシュウならそう考えるはずだ。


12時10分


終わってみればテストは予想より簡単だった。


「新道!新道のおかげでテストできたわ」

同じ授業を取ってる奴が近づいてくる。

「…そうか、でもお前が努力したから出来たんだ。良かったな。」


「…ッポ」

「変な効果音をだすな!」



基本的に新道啓は人当たりが良い。

決して天才ではないが、努力を惜しまず頑張ることが出来る人間だ。

だからこそ周囲からも認められている。



「そういえばこれで後期の授業終了じゃん!」

「まじだ!激熱やんー!」

啓の周りは既に春休みの話題でいっぱいだった。


大学に入ってから初めての春休み。

約二か月の長期休暇など今まで味わったこともない。浮足立つのもよく分かる。


ここから二か月各々が休みを楽しむのだろう。

しかし啓には関係のない話だった。

彼には遊ぶための金などない。

ひたすらに将来を見据えた資格の勉強をし、アルバイトを淡々とこなすだけの日々は目に見えていた。


「辛くないと言えば噓になる」


やりたい事だってちゃんとある。だけどそれを追い求めるのは合理的ではない。

ただ、ほんの少しつまらないと思うだけだ。


「バイトまでまだ6時間か」

普段通り図書館で勉強することにした。


16時55分


大学を後にして、バイト先へ向かう道中何かから追いかけられてる様な素ぶりをする女に遭遇。

頻繁に後ろを振り返っている。

普段なら目で追いつつもスルーするが、運の悪いことに女は財布を落としていった。


「ハァ、やばそうな奴にはあんま関わりたくないんだけどな」

啓は財布を拾うと女を追いかけた。

「おい!財布落としたぞ!!」

ジョギング程度で追いかける啓に対し女は気付かぬままどんどん距離を離していく


「くそ!はえーな!あの女!!」

啓も本気で走り出す。

そろそろ追いつくかという時、女は公園へ入っていった。


都内にしては大きめな公園だ。

「こんな場所あったのか」

普段なら来ない場所だからこそ新鮮に感じる。

木々が生い茂る奥へどんどん進んでいく女を見つけた。

啓もそれに続く。


「おい!あんた!!」

啓が声をかけるも女はどこかを見つめながら叫んでいた。

「いやあ!!来ないで!!」

えぇ…なんだこいつ…頭おかしいのだろうか。

「あぁ…近づいてくる…音が近づいてくる…」

女は意味の分からないことをぶつぶつと呟いていた。


本当になんなんだこいつは…薬物乱用を疑いたくなってくる。


「なあ、何にそんな怯えてん」

「来ないでよ!化け物!!いやああああ!!」


ブチッ


自分の中で堪忍袋の緒が切れる音がした。

もういい。このイカれ女は無視しよう。


「財布、ここに置いておくからな」

啓は財布を地面の上に置くと来た道を戻ろうとした。




しかし歩き出して数秒、異変に気付く。


「出口がない」

周りを見渡す。 おかしい。

出口がないのもそうだが、明らかに入ってきた公園よりも土地が広い。

そもそもある筈の遊具がどこにも見えない。

どれだけ先を見渡しても木々が並んでいるのみだ。


「どこだ…ここ」

スマホは圏外。

恐怖よりも困惑が勝つ。

とりあえずあの女と合流しよう。

そう思い先ほどの場所に戻ると財布だけがポツンと置いてあった。


どうやら女はまたどこかへ走って行ったようだった。


「まじでなんなんだ、今日は」

ため息をぐっと我慢しつつ下を向く。

土が柔らかいからか足跡が残っていた。


ここで第二の異変に気付く。

もう一つ”足跡”がある。

35㎝はあるだろうか、とんでもなく大きい足跡である。


「なにかがいる…。」

およそ人とは思えないサイズの足跡は啓の疑念を晴らすには十分だった。

どうやらあの女は本当に何かから逃げているらしい。

木々に隠れつつ足跡を追いかけると何か動くものを見つけた。


「…なんだよ、あれ」


ピエロだ。


暗くて顔はよく見えないが確かにピエロの格好をしている。


「…デカい」


3m程はあろうか、およそ人間とは思えない大きさである。


異質なのは体のデカさだけではない。その手には赤黒く染まった斧が携えられており、ノソノソと動く姿は熊を彷彿とさせる。


なんとなく分かる。こいつは人を殺してきている。


下を向きながら進んでいく様子はピエロが間違いなく足跡を追っている証拠に思えた。


俺には気付いてない。今なら多分逃げられると思う。


「……でも柄じゃねぇよな」


困っている人がいたら助ける。それが啓にとっては当たり前で、譲れない事でもあった。



女は程なくして見つかった。


足を怪我したのか木にもたれ掛かっている。


このままでは多分すぐに殺される。

どうすれば助けられるだろうか…?啓が必死に知恵を振り絞ろうとも答えは出ない。


ピエロに至ってはそんな事もお構いなしで足早に女へと近づいていく。


「いや…いやよ…やめて…」


本当に動けないらしい。

斧が振り翳される。

このままじゃ女は殺されるだろう。


何もしなければその未来がやってくるのみ。

ならば、やる事は一つ。

頭よりも体が先に動く。


「があァァァァァァ!!」

火事場の馬鹿力だろうか、自分でも驚くほどの速さで女を拾い上げ脇に抱えていた。


ピエロは視界が悪いのか、女がどこに消えたのか分からないでいるらしい。


女を抱えて全速力で木々を駆け抜ける。


「クソ!どこまで逃げればいいんだ!!」

こんな状況にも関わらず体の調子は良い。

しかしどこまで行ってもこの森林から出ることが出来ない。


「なあ、あんた…」

「おい…」

何度声をかけても返事がない。

女は気を失っているようだった。


このままあるかも分からない出口を探して逃げ回るのが正解なのか…?


かなりの距離を離した所で足を止める。


「やっぱり柄じゃねえ」


そう呟くと啓は女を木の裏に置き、来た道を戻りだした。


勝てる保証など微塵もない。


しかしこのまま逃げ続けてもジリ貧になるだけだった。


ならば答えは一つしかない。


「体力があるうちに迎え撃って倒す」


作戦は至極単純。

奴から斧を奪い、その斧で足の腱を切る。


上手くいけばトドメをさせるかもしれないし、駄目でも相手の身動きは奪うことが出来る。


息を殺してただひたすらにピエロを待つ。


5分が経過した。


しかしいくら待てどもピエロの姿はどこにも見えない。


冷静すぎたからであろうか、ここで啓に最悪の想像が浮かび上がる。


そもそもあのピエロは本当に足跡を追っていたのだろうか?

奴は女を見つけた時も”常に”下を向いていた気がする。

もしかしたら何らかの方法であのピエロは足跡以外に女を見つけ出す事が出来るんじゃないのか…?



最悪の想像は当たってしまう。


女の元へ戻る道中で目的地へ一直線で向かうピエロの後ろ姿を見つけた。


”間違いなくこいつは女の場所が分かっている”


理由は分からないが女の命を最優先で狙っているのが明白だ。


「なら、ここでやるしかねぇ」


気合いを入れる。


啓は確かに一歩ずつ大地を踏みしめ、その巨体の背中目掛けて加速していく。


「まずは腕!!」


骨を折る気で打った啓の渾身の一撃は不発に終わる。


何が起こったのかは確認せずとも分かった。


「避けられたのか…!!」


有利だった展開は彼方に消え、啓はピエロとの対面を余儀なくされる。


「ハッ、なるほどな」


何故ピエロの視界が悪かったのか、対面してみて初めて分かった。


「趣味のわりぃお面だな」

怒ったような顔をしたピエロのお面は目の部分が少ししか開いていない。


てことは、今俺の攻撃を避けれたのは視覚以外の何かが理由か


高鳴る心臓に対して頭は冷静、体も軽い。


ピエロは斧を振り翳したまま啓目掛けて向かってくる。


「ハッ、ちゃんと走れたのかよ!


その巨体からは想像も出来ぬ速さで近づいてくる。

斧を振り下ろす速度はもっと早い。


かろうじて避ける。それと同時に空気が重く切り裂かれた音がする。


死を想起して鳥肌が止まらない。


紙一重だ。避けたと思っても次の瞬間にはまた斧がこちらへ向かってくる。


ピエロは息を切らす様子もなく斧を振り続けている。


今はまだ上手く避け切れているが、そんなのは時間の問題だ。

確実にこのまま続ければスタミナ切れで殺される。


その時


不安定な足場だ。土で滑ったような嫌な音が鳴った。


ただし、その音の発生源はピエロではない。


「やべ…」



ピエロがその隙を逃すわけなど無かった


間髪入れずに啓目掛けて本気で斧が振り下ろされる。


───それが罠だとも知らずに。


思い切り振り下ろした斧は啓には当たらず、無慈悲にも地面にめり込んだ。


「やっぱりな、隙を晒せば反応してくれると思ったぜ」


慌てて取ろうとしても地面に突き刺さった斧は簡単には抜けない。


ゴギィッ


鈍い音が辺りに響き渡る。

啓の全体重を乗せた回し蹴りはピエロの肘を的確に粉砕した。


すかさず抜けかけた斧を手に取り、両足へ斬り込む。


「…ハァハァ…」


最低限の狙いは達成、足と右腕を潰した。


もうピエロは動けない。


「…今ならやれる」


啓は斧を持ち上げると首へ向け全力で斧を振り下ろそうとした。


しかし失敗に終わる。


振り下ろす位置を間違えたわけじゃない。


そもそもの問題だ。


啓が持っていたはずの斧はどこにも無い。


疑念と同時に左足に大きな痛みを覚える。


ナイフだ。啓の足にはナイフが突き刺さっている。


目を疑う。


足に刺さった筈のナイフが目の前で消えた。


傷はそのままだ。ナイフのみが消え失せたのだ。


それと同時に何も無かった筈のピエロの左手にはナイフが握られてる。


それだけじゃなかった。切った筈の足が再生している。


何事もなかったかのようにピエロは立ち上がり、ノソノソとこちらへやってくる。


「…まじかよ」


元々不利な戦いではあった。

既に万策は尽きている。


…だけどそんな簡単に諦める事など出来ない。


ただ後悔の言葉を口にする。


「俺は…まだ、何もできてねぇ」


それなのにここで死ぬのか…?

涙は流れない。ただ悔しさで体が打ち震える。


何故だろう。意図せずその名が出る。


「シュウ…」


歩く音が止まった。目の前には大きな足が見える。


どうやらもう終わりらしい。


目を閉じた。






…しかしいくら待てどもその時は未だやってこない。


啓が顔を上げるとピエロは目の前で立ったまま横を向いていた。


ピエロが向く方を啓も見てみる。


「…なんだ? 誰かがいる…。」


顔は見えないが、なんとなく男な気がする。


数秒経った頃だろう。


静寂の中、その誰かは突如大声を出し、こちらへ走ってきた。


それと共に闇夜は黄と赤の光で照らされる。


敵と認識したのだろう。ピエロも全速力で男目掛けて向かっていく。



「……聞き間違えだろうか…?」


…もし聞き間違えじゃなければ確かにこう言っていた。




それはかつて憧れたヒーロー、そのシリーズで使われる最も有名な文言であり掛け声。


誰もが一度は口にした事がある筈の言葉…


「変身!!」


赤の光を発しながら戦う男の姿には確かに見覚えがあった。


「…」



その後の戦いは一方的だった。


一切物怖じせず攻撃を捌く。

武器を持つピエロに対し男は素手だった。


ただ圧倒的な暴力を振りかざすのみ。


しかしそこに油断はない。


淡々とダメージを与え続けていく男の姿はヒーローよりも処刑人の方が正しい表現だろう。


最後の最後で斧を生成し反撃しようとしたピエロだったが、その努力虚しく、男が蹴りを入れるとピエロの体は燃え始め武器を残して崩れてしまった。



「大丈夫か?」

男が近寄ってくる。

大丈夫な訳がないだろう。こっちは足を刺されてるんだ。

なんて能天気な奴だろうと思う。


「…でも良かった。間に合って…」


そう言うと男の装甲は光を放ち、消え失せていく。


言葉を失った。


中から出てきた男には見覚えがある。


「シュウ…」


ヒーローの中身は親友だった。


「お前…なんで」


「話は後にしよう。まずは病院に行かないと」


そう言うとシュウは啓に肩を貸した。


しかし啓は拒否して指を指す。


「シュウ…あっちに女が倒れてる…」

「そっちを優先してやってくれ」


少ししてシュウが女を連れて戻ってきた。


どうやら女は既に意識を取り戻しており、記憶はあやふやらしかった。


「そうか…何はともあれ無事なら良かった」


啓は安堵したように声を振り絞っていた。


気付けば携帯の電波も繋がるようになっている。


「そういえば…ここは何処なんだ」

啓の疑問にシュウが答える

「奥多摩だよ。ここは」

「はあ…?」


啓が戸惑うのも無理はない。


啓が入った公園は新宿区にある大学からそう遠くはなかったはずだ。


原理は分からないが本当に奥多摩に居ることは最寄り駅が示していた。


「川井駅って…」


女を駅まで送り届けるとシュウは救急車を呼んでくれた。




俺はと言えば恐らく安心して眠ってしまったのだろう。


そこから先は覚えていない。














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