長い永いバレンタイン

レンジでチン

第1話 バレンタイン

(ジリリリリリリ)




 目覚まし時計の音で目が覚める。


 カーテンの隙間から光が差し込む。


「……朝か」


 俺の名前は蓮城れんじょう歩夢あゆむ。高校一年生。何に対してもやる気がなく、とにかく無気力な人間だ。


 眠い目を擦りながら、俺は時計を確認する。


【2月14日 6時10分】


 世間一般では、今日はバレンタインらしい。俺とは無縁の話なのだが。


「……さっさと行くか」


 そうして俺は素早く準備を済ませ家を出ると、ある場所へと向かうのだった。




 そうして俺はその家の前まで来ていた。


(……何回見てもでかい家だな……)


 そこに聳え立つ豪邸にそんなことを思いつつ待っていると、ソイツはやってきた。


「すみません、待ちましたか?」


 黒く長い髪を靡かせながら出てきたコイツは桃瀬ももせ知咲季ちさき。俺と同じく高校一年生。学年一の美女と言われていて、文武両道な女。またその見た目から、男子からの人気も高いと言っていた。


 そして、コイツの父親は会社の社長で、お金に困ることはないらしい。俺からすればとても羨ましいことだ。


「ああ、待ったよ。早く行くぞ」


「……相変わらずですね……」


 そうして俺はそんなコイツと共に学校へと歩き始めるのだった。


 なぜ俺がこんなことをしているかというと、あれは二ヶ月前のこと……




○○○




【ニヶ月前】


「蓮城君……ですよね?」


 俺は知らない女から声を掛けられた。


「ん……誰だお前?」


「え? 知らないのですか?」


 目の前のソイツは驚いた表情で俺は見つめていた。


 そもそも俺の知っている人間は、片手で数えれるくらいしかいないため、コイツのことも勿論知らなかった。


「私の名前は桃瀬知咲季です。校内でも度々噂されてるのを知らないですか?」


 どこかで聞いたことがあるような気もするが、思い出すことはできない。


「知らないな」


「……そうですか。なら、尚更都合がいいですね」


 そんな意味深な言葉を口にするソイツを前に、俺は急かすように言った。


「何でもいいから早く要件を言ってくれ」


 そうしてソイツはその衝撃の一言を口にする。




「……私の彼氏になってくれませんか?」




「……は?」


 俺は一瞬思考が停止していた。


「いや……勿論本気というわけじゃなくてですね……」


「本気じゃなかったら何なんだよ!」


 つい叫んでしまう。俺はその言葉の意図がわからなかった。


 そうしてソイツは語り始める。


「……最近私、男子から告白される事が多いんですよ。毎度断っていくのも面倒でして……それで、私に彼氏がいるってなれば皆さん諦めていくと思いました。そこで選ばれたのが貴方なのですけど……」


 確かに、コイツは顔も整っていて、まあおそらく成績もいいのだろう。だからこそ、男子からの人気も高く、告白もされるわけだ。


 そこで、女に興味がなさそうな俺に白羽の矢が立ったのだろう。


 だが、俺の答えは既に決まっていた。


「断る」


「……え?」


「そんな面倒な事やりたくないし、やったところで別にこっちにメリットがないだろ。じゃ、俺はバイトがあるから」


 そう言って、俺はその場から立ち去ろうとする。のだが、


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 俺はソイツに服の袖を引っ張られ、引き止められた。


「……何だよ。俺は早く帰りたいのに」


 俺は渋々ソイツに向き直る。


「じゃあ……貴方、バイトをしてるのですよね」


「……ああ、金がなきゃ生きていけないからな」


「なら……報酬を渡します」


「……ほう。それなら話を聞かんこともないが……高校生が持ってる金なんてたかが知れてる……」


「1日5000円でどうですか?」


「喜んでその仕事引き受けさせてもらいます」


「思ってた以上に食いつきがいいですねこの人……」




○○○




 そんなこんなで現在に至る。そしてコイツ曰く、登下校は一緒に行きたい、とのことだ。だから、これは仕事の一環でしかない。


(……にしても、金を出してまでこんな事をさせるなんて……相当な物好きだなコイツ)


 そんなことを考えながら歩いていると、ソイツから声を掛けられた。


「……そういえば、今日はバレンタインですね。歩夢君」


「急にどうした?」


「いやいや、チョコレートを貰う相手はいたりするのかなと思いまして」


「いるわけないだろ。そもそも、そんな奴がいたとしたらお前は俺を彼氏として選んだりしなかっただろ」


「……そう、ですね。それもそうですよね」


「……?」


 何故か悲しげな表情をするコイツ。思っていた反応と少し違ったため少し驚いたが、まあ気にすることでもないだろう。


「……そういえば歩夢君は今日の午後、何か用事はありますか?」


「いきなりだな……まあ、今日はバイトもないし、空いているが……それがどうした?」


「……たまには、貴方と一緒に遊びに行こうと思いまして……」


「えー……面倒臭い」


「そんなこと言わずに……ねえ?」


「でもお前なんかと行きたくない……」


「報酬もう渡しませんよ」


「無礼な態度をとった事、深く反省を申し上げます」


「……全く、本当にこの人は……」


 流石に報酬がなくなるのはまずいため、素直に従う事にした。……それににしても、意外な事考えるもんだな、コイツは。


 そんなこんなで歩いていると、学校へ着いたため、俺らはそれぞれの教室へと向かうのだった。




○○○○○○○○○○○○○○○




 どうも、レンジでチンです。


 最後まで読んで頂きありがとうございます。


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