大好きだよ

第4話

体を揺すられて目を覚ますと、そこには保くんが立っていた。



「たもつくんっ!」


「待たせてごめんなー。

いやー、帰りのホームルームさぼったのは

さすがにまずかったわ。


咲ちゃんにめちゃくちゃ怒られた」



咲ちゃん、とは私たちの担任の岡山咲先生のことです。



「待たせた俺が悪いけど学校で寝たら危ないぞ。変な奴も多いんだから」


「変な奴はそんなにいないし、いても私になんか興味ないと思う」



ヘラヘラ笑ってそう言ったら私の肩から優しく鞄を持ってくれる。

下駄箱では私の靴をわざわざ出してくれた。



「あ、ありがと……!」


「いや、こんくらいは良いんだよ。弁当どーだった?」


「ミートボール美味しかった!」



笑ってそう言うと保くんは私の頭をわしゃわしゃ撫でた。手、大きい。


保くんと私は身長差あるから、手を繋ぐ時もなんか変な感じになる。



「……しぃ、今日ちょっと裏の公園で話せる?」



びっくりして見上げたら保くんはちっとも笑ってなかった。



「え……。あ、歩きながらはダメなのかな」


「ダメってこともないんだけど……。

ちょっと真面目な話なんだよな」



フラれるじゃん、これ。

私は頭の中が再び真っ白になった。



そこからどうやって公園まで行ったのかは思い出せない。

保くんに手を引かれるがまま歩いた気がする。



「……あのさ、しい。

今日は昼飯、一緒に食えなくてごめん」


「ううん。いいよ」



それどころじゃないよ。

今から私、人生初の失恋を味わうんだ。


骨折より痛く、インフルエンザより辛いと

噂の失恋……。


胸が張り裂けそう、涙がもう出そう。


「……あのさ、しぃ。実は今日、」



出そうだった涙は落ちてしまって私の頬を伝った。


保くんは慌てて鞄からタオルを取り出す。



私は相変わらずハンカチもティッシュも持ってないし、カバンの中には大好きなアイドルの写真集が入ってる。



だからダメだったのかな。



「ちょっ、なんで?!なんで泣いてんの?!」



「うぅ……っ!

わ、私は本当に、ダメな女で…っ。


だけど保くんといる毎日はとても楽しかったよ……!」



流れ落ちていく涙を保くんは慌てて抑える。


私が保くんの手からタオルを受け取るとギュッ、と抱きしめた。


そして、私の手からタオルを静かに受け取る。



「……なあ、しい。

なんか今、別れの言葉みたいなの言った?」



別れ、て言葉に私は過剰に反応して嗚咽が漏れてしまった。


保くんは私の頭を優しく撫でてから私の頬の涙を指ですくった。



「だって保くん、秀実先輩に呼ばれてからいなくなったから……!」



ポロポロ溢れる涙を追いかけるようにすくいとって、またタオルで抑える。


そして少しだけ息を吐いて頭を下げた。



「不安にさせてごめん。

でも俺、しいとは別れるつもりはないよ」



そして私の顔をタオルで抑えたまま話し始めた。



「秀実先輩、一年の頃から俺によくしてくれててさ。

しいと付き合う前から、仲は良かったんだ。


でも当時は彼氏いたし、別れてからは泰睦のオッカケやってたし。


昼休み、告白されたけど断ったら泣かれちゃって。

落ち着くまで一緒にいたけど、ほんと何もしてないから」



子どもにするみたく、私のことを保くんは膝に乗せる。



「え?!だれかくる!」


「いや、誰もこないからこの公園を選んだよ」



そして私にキスをした。


そのあと抱きしめて落ち着かせるみたく、背中を撫でる。


やっぱり保くんはモテるよな。


今だって、こんな全部の所作が正解じゃん。



「……保くん、秀実先輩、振っちゃったの?」


「だって俺にはしいがいるじゃん」



「じゃあ秀実先輩、いまこんなに辛いんだね」



想像しただけで涙が止まらないんだもん。

きっと先輩だって、いま、めちゃくちゃ泣いてるよな。



「……まあ、うーん……。

それは言われちゃうと、なんとも言えなくなるんだけどさ」


「あ、ごめん……」



「いや。

しいのこと不安にさせて、嫌な気持ちにさせて、一日に女の子二人も泣かせて、最低だよ俺は」



はあ、とため息をつく保くんに私はそっと唇を重ねた。


自分からキスするのよく考えたら初めてじゃん!はずかしっ!



「……え?なにいまの」


「だって!保くんが落ち込むからっ!」


「落ち込むと、しいってキスしてくれるの?初耳だわ。

俺もっと毎日落ち込もう、そしたら」



笑いながら私にもう一度唇を重ねる。


泣いたせいで鼻が詰まって息ができなくて、保くんの肩を叩いてもキスをやめてくれなくて、唇を開いたらびっくりされて唇が離れた。


なぜか赤くなってく保くんに私も、つられて赤くなる。



「え……?どうしたの?」


「いやいや……。……え?今のなに?」



保くんが変だ。私は思わず首を傾げる。


すると保くんは私を膝から下ろして立ち上がった。



「……え?!なんで!」


「なんではこっちのセリフだよ!椎夏、何してんの?!」



なんか変なことしたっけ……?

私は保くんの手を握りながら考える。



「……いっぱい泣いたから怒ってる?」


「泣かせたの俺だから」


「じゃあなんで?」



保くんは私を唐突に抱え上げる。

慌てる私を大人しく降ろした。



「椎夏の変態」


「……ええ?!」



「俺、これでも毎日めちゃくちゃ我慢してるから、もう少し弁えて生きてくれないとめちゃくちゃにしちゃうよ?」




保くんの言ってる意味はあんまり分からなかったけど、とりあえず色気は無理にどうにかしなくても良いのかもしれない。






2021.10.12

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不良彼氏のモテ期 斗花 @touka_lalala

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