第2話

授業が終わって、私は色んなプライドを捨てて、泰睦に河田さんについて聞く。



「あー、まりえちゃんか。

俺を囲ってる女の子の一人だけど」



泰睦は彼女がいるくせに、女の子たちに囲まれてキャーキャー言わせる、悪い男だ。


今は伊代ちゃんとクラスが同じになって常に二人でいるから、たくさん女の子が来ることはあまりなくなったけど。


伊代ちゃんのこと、片岡先輩はなんとも思わないんだろうか。



「かわいい……?」


「みにいく?」



そう言って、私の腕を掴んで隣の教室を覗く。

慌てて帰ろうとしたら無理やり、私の肩を寄せた。



「なっ!は、はなして!」


「こういうの、ある程度威嚇しとかないと。

舐められたままだと、繰り返されるよ。



まりえちゃーん」



振り返ったその子は茶色い髪を丁寧に巻いて、お化粧をちゃんとしていて、綺麗な足をしっかり見せて、おっぱいが大きかった。



「あっ!泰睦くん!実は私も相談が、」



河田さんは私を見ると笑顔がなくなった。

泰睦はニコニコ笑ったままだ。



「……泰睦くんって、尾木さんと仲良いの?」


「全然。

でも、保の彼女だから仲良くしなきゃいけない感じになってる」



かわいい。

絶対、私なんかよりも保くんの隣が似合ってる。


河田さんは私と泰睦を見比べた後、泣きそうな顔になった。



そしたらすかさず泰睦が、河田さんのことを抱きしめる。


……えぇ?!なんでだよ!



「ごめんなさい、泰睦くん」


「俺、何回も言ってるよね。

彼女いるから付き合えない、って。保に頼っても無駄だよ」


「じゃあ一回でいいからキスしてよ、お願いっ!」



泰睦が河田さんの頭を優しく撫でる。

そして、髪を耳にかけてあげて優しく目を合わせた。


私、泰睦にそんなに優しい目で見つめられたことないんだけど!



「それはできない。


あと、保の彼女のしいちゃんが、まりえちゃんの手紙が下駄箱にあるのを見ちゃって、保へのラブレターだと勘違いしちゃった」



河田さんは少し驚いた後、慌てたように私に手を合わせて謝る。



「えー!ごめん、尾木さん!


私が好きなのは泰睦くん!

好きって言うか、いちゃつきたいのは!


菅野くん、いっつも泰睦くんといるから、なんとか取り持ってほしいって一年の頃からお願いしては断られてるの!」



そ、そうだったのか……。


……てゆうか、泰睦はこのこと知ってて、あんな言い方したのか……!


泰睦のことを睨むと案の定、笑いを堪えていた。



「そもそも菅野くん、明らかに尾木さん一筋じゃん!

さすがにあんな態度取られてたら、菅野くん狙いにいく女の子いないよっ!


泰睦くんはフラフラしてるから私みたいなチャラい女が近寄ってきちゃうけどさ」



河田さんみたいに私を全く知らない人にまで、保くんが私を好きなことってちゃんと伝わってるのか。


それはなんか、嬉しい。


そして河田さんは本当にめちゃくちゃ良い子だった。



「泰睦、あんな良い子までたぶらかして遊んでるんだね。サイテー」


「そうだよー。俺はサイテーだよ。

それに比べて保はサイコーでしょ?


こんな色気もないチンチクリンを彼女だって公言して大切にしちゃってるばっかりに、エロくて可愛い女の子が寄り付かないんだから」



……たしかに泰睦を囲ってる子達って、ギャルっぽくてチャラそうな子が多いよな。



「片岡先輩は真面目そうなのに、泰睦はギャルにモテるんだね」


「俺は全女子にモテるよ。ただ、積極的で目立つのがそういう子なだけ」



教室に戻ると保くんが慌てた様子で私の方に駆け寄ってくる。


そして席に戻ろうとする泰睦の腕を掴んだ。



「泰睦、しぃ連れて何してたんだよ!」


「しいちゃんが、まりえちゃんから保への手紙をラブレターって勘違いしたんだよ。


だから、まりえちゃんは俺のことが好きだよって教えてあげてたの」


「あぁ……。

……つーか、まりえ割と本気になりかけてるから今のうちになんとかしとけよ」



河田さんのことをまりえと呼んでる事実に、私は少なからずショックを受けた。


そして保くんは少し言いにくそうに私に目を合わせるようにちょっとだけ屈む。



「……あのさ、しい。まりえは誤解なんだけどさ」


「うん、ごめんね。変な心配、」



「今日昼休み、秀実先輩に呼ばれてて。

申し訳ないんだけど、昼飯、一緒に食べられないや。


あ、弁当は後で渡すから」



申し訳なさそうな保くんを見て私の頭は真っ白になった。

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