レシピ8

第18話

~大澤Side~



「……何してんの?」



課題を終わらせて急いで調理室に行くと詩織が泣いていた。


「いつき、詩織に何した?」


「違うの」



俺がいつきを責めたら涙を拭いて詩織は立ち上がる。



「中野くんは悪くないから」



どうして詩織はいつも、こいつのことを庇うんだ。



「中野くんは何もしてない」



俺のことは散々、避けておいてどうしてこいつのことはこうもアッサリと受け入れるんだよ。



「……そうゆうこと?」



俺は思わず冷たい声が出る。



「話って要は俺と別れるとか、そうゆうことなんだろ?」



詩織が今日一日中何か言いかけてたのは薄々気付いてた。



だけど聞きたくなかった。




フラれるって、そう思った。



「……俺のことは手が触れるのも嫌なのに、いつきは許されるわけ?」



「あの、先輩、それは-」



「お前は一回黙ってろよ」




俺がそう言うと口を閉じる。



「でてけ、いつき」



「え、でも……」



「出てけよ」




顔を見たくなかった。無性にイライラする。



「かずまさ、」



いつきがいなくなって、そう呟く詩織を見つめる。



「……俺じゃ、ダメか」



俺の言葉に詩織は目を見張った。



「俺じゃ詩織の助けにはなれない?」



何があったか知らない。


だけど、最近の詩織はやっぱり少しおかしい。


何も言わない詩織にかけるべき言葉を見つけられない。



「もう、勝手にしなよ」



俺は廊下に立つ伍樹を横目でチラッと見て防音室に向かった。



「あの、先輩っ」


「詩織のこと慰めてあげて」




俺がそう言って立ち去ろうとすると腕を掴まれた。




「俺じゃ無理っすよ」




掴まれた腕を振り払う。



「離せよ」


「離したら先輩、帰るじゃないっすか!」



そしてもう一度俺の腕を掴み直す。



「本宮先輩が必要としてるのは誰がどう考えたって大澤先輩でしょ!」




そう言ういつきを置いて俺は鞄を持って下駄箱に向かう。



ライブが来週だから本当はバンドに寄る筈だったけど、サボってやる。



そう思って歩いていたら。


「おーさわっ!」


後ろから名前を呼ばれた。



顔を向いたらスズだった。

俺はシカトして歩き始める。



「何で帰るの?!今日は練習でしょ!」



何も言わずに歩くと走って追いかけてきた。



「詩織とは話したの?」



「うるさい。スズに関係ないだろ」




するとスズは俺の鞄を引っ張る。



道行く人が何人か俺達のことを見るから、恥ずかしくなって鞄を下ろし、立ち止まった。



「やめろよ!皆が見るだろ!」


「関係あるよっ!」


スズは息を切らして俺のことを見上げる。


「詩織は私の親友で、大澤はバンドの仲間なんだよ?!」



そして俺に言った。




「詩織、崎本さんにヒドいこと言われたの」




スズは俺に詩織が言われた言葉を俺に教えてきた。



話を聞き終えてビックリした。



「……なんでそれ、俺に言わないの?」


「大澤が傷付くから言えないって詩織は言ってた」




確かに傷付いた。


でもそれは多分、詩織が思ってる傷とは全然違う。



「おれ……、何で気づけなかったんだろ……」



「大澤がそんな気持ちで自分と付き合ってないって分かってるのに、身体が動かなくなるって言ってた」



気付いたら既に俺の駅前だった。



「その話を今日する筈だったのに!」




電車の通る音がやたらうるさかった。



時計を見るともう調理部は終わってる時間。



「もう、遅いじゃん……」



するとスズがはぁ、と息を整えた。




「明日は土曜日だよ。詩織も、何もない」



そして制服を正した。



「仲直りしてよ……」



そう言ったスズがなぜか少しだけ大きく感じた。

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