第11話

崎本さんはすごく和政にこだわる。



「そうですね……」


「大澤を和政って呼ぶのは詩織だけだよね」



結奈が「ねっ??」と、私の顔に近付く。



「私も昔は大澤くんのこと、和政くんって呼んでましたよ」



蘭ちゃんが私の服を何故かギュッと掴む。


「ちなみに大澤くんも昔は私のこと、百合子ちゃんって呼んでくれてました」



和政の昔を知ってる人と知り合いになるのは初めてで、その話は少しだけ興味があった。



「崎本さんは和政と、いつからお友達なんですか?」


「そんな焦らないでください」


私は笑顔で聞いたのに顔をふせられる。



「えっと……?」


「私と大澤くんが昔からの知り合いだからって、別に詩織さんにご迷惑おかけしませんから」



なんでだろう。


私が聞いたのは「いつからお友達か」なのに、なんで私が二人のことを心配してるみたいになっちゃったんだろう。


誤解は解くべきだなと思った。


「あの、」



「私はお二人のこと、ちゃんと応援していますよ」



しかし、私の小さな声は遮られてしまった。



「え?あ、ありがとうございます……」


「しおりー、そろそろ楽屋行こうよー」


結奈は全然違う方向を見て、なぜか甘え口調で言う。



「……がくや?」



崎本さんの聞き返しに結奈がステージを指差す。



「えぇ、そうですよ。

私達、メンバーのガールフレンドなので」



何だか挑発的な結奈。


「ガールフレンドなので!」



蘭ちゃんまで便乗して私の後ろで言う。


何も言わなくなった崎本さん。

私は何だか可愛そうになってしまった。


「崎本さんも行きますか?」


「しおり……」


結奈が何かを目で訴えるが、何を言いたいのかはよく分からない。


「だって崎本さんも和政と話したいだろうし。

お友達は入れて良いって前に言ってたよね?」


私が崎本さんを楽屋口に誘導しようとした時。



「あ、結奈ちゃん!」



後ろから少し聞き慣れた大きな声が結奈を呼ぶ。


「うるせぇよ」


その横でもう一人の男の人が小さく呟いた。



「野上先輩、伊達先輩」



それは昨年の先輩で流星先輩の親友。


和政達や私達にもとても、優しくしてくれて、ライブにも殆ど毎月のように来ている。


今も私達に気さくに話しかけてくれた。



「久しぶりー」


「野上先輩、伊達先輩。お久しぶりです」



すると野上先輩はニカッと笑った後、崎本さんを見つける。


「だれ?」


崎本さんを指差しながら野上先輩は結奈に聞く。

しかし、結奈は機嫌悪そうにしたままだ。伊達先輩は黙って床を見てる。


伊達先輩は野上先輩と違って、すごく静かな人。

私達の中でも結奈としか殆ど話さない。



「……やっぱり私、行かなくて大丈夫です」


崎本さんはそう言って体を翻した。



「でも、」


「皆さんと話を合わせる自信がありませんから」



私の引き止めも聞かず、すたすたと客席に戻る。



「……え?俺、まずかったか?」



野上先輩は気まずそうに私たちのことを見る。


しかし、伊達先輩は崎本さんの背中を見ながら小声で言った。



「むしろ、成功だろ」



伊達先輩の言葉に私と野上先輩は首を傾げた。



「は?何が成功だよ?遠慮させちゃっただろ」


なぁ、と私に話を振る野上先輩。



「遠慮じゃねぇ。嫌味だ、ばーか」



伊達先輩がため息をつきながら言った。

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