第6話
私はそれを見送るように会場から一度廊下に出て少し、深呼吸する。
「本宮さん?」
そうしたら左側から聞き慣れた声がした。
私が振り返ると笑う。
「福本くん。どーしたの?」
福本くんの手にはまだ、お茶が残っている。
「何かちょっと疲れちゃって……。
いや、料理はすごい美味しいんだけど、それ以上に胸一杯、みたいな?」
そしてお茶をちょっと飲む。
「蘭ちゃんだったらスグに帰りたいって言っただろうな」
蘭ちゃんっていうのが福本くんの恋人だ。
「スズは?」
「スズちゃんは楽しそうに食事してる。
何人か友達できたって。
大人の人達とも上手に会話するし」
私はそんなスズを頭の中で想像する。
「スズは多分、こうゆうのに来たことがあるんだと思う」
私の言葉に福本くんが「あぁー」と、納得した。
「スズちゃんって確か音楽一家の娘だもんね」
私は首を縦に動かす。
「最近は世界を飛ぶ程、忙しくしているみたい」
スズと私は中学からの友達。
「確か前に一度パーティーの話をしていたことがあったかも」
スズの家も和政の家に負けず劣らずで、中学の頃スズの家は『坂本御殿』とか言われてた。
「だからスズちゃん、あんなにしっかりした身のこなしなんだね」
福本くんはまた小さい声で呟く。
その呟きはなんだか少し寂しそうに聞こえた。
「俺ってすっごい凡人なんだな」
残りのお茶も全部、飲みきった。
「何か学校にいたらさ。
スズちゃんとか大澤ってどちらかと言うとボーッとしてるってゆうか……。目が離せない感じしない?」
私は福本くんの話を黙って聞いていた。
「だけど今日はあの二人の方がなんだかしっかりしちゃってて、いつもと調子が違うね」
福本くんは普段すごくしっかりしててバンドでは皆の仕切り役みたいな感じ。
「……私はあまり違和感、感じてないかも」
福本くんが静かに私を見る。
「和政もスズも、私にはいつもと同じに見えてた。福本君、よく二人のこと見ててすごい」
すると福本くんは温かく笑う。
「いや、さすが本宮さんだよ」
すると、私の後ろから肩を叩かれた。
「しおり」
「かずまさ」
「なかなか戻って来ないから心配した」
そして福本くんをみる。
「詩織に何もしてない?」
「するわけないだろ」
そう言いながら福本くんは会場に戻って行った。
福本くんが行ったのを確認してもう一度、私にも聞く。
「大丈夫?」
「うん、もちろん」
すると私のことをジッと見つめた。
「人くるよ?」
「うん、だからこれだけ」
そして和政が私にキスしようとした時だった。
「大澤くん!」
私達は慌てて身体を離す。
「……崎本さん」
和政がその女の子を見て小さく声をかける。
「こんにちは。来てたんだね」
そんな和政に崎本さんは笑った。
「今さっき、着いたの」
そして私に視線を移す。
「……どちらさま?」
私は頭を下げた。
「初めまして、本宮詩織です。
大澤くんとは同じ高校で……」
友達です、って言いかけた。
「俺の彼女」
和政が、低い声で言った。
「……彼女?」
そう女の子は聞き返したけれどスグに笑顔を作る。
「はじめまして、
と、頭を下げる。
制服が雅志くんと同じものだった。
「崎本さんは雅志と同じ高校なんだ」
「クラスも一緒です」
と、ゆうことは……。
「高校一年生……?!」
大人っぽい雰囲気だから、同い年だと思っていたのに、ビックリした。
私の質問に崎本さんは笑顔で答えた。
「はい、そうです。見えませんか?」
その声に何だか少し威圧感を感じた。
「あ、はい、ビックリしました」
「タメ口で良いですよ」
私が敬語で話すとまた笑う。
「詩織さんは大澤くんと、いつから交際してるんですか?」
「えっと……、」
「崎本さん、詩織ちょっと疲れてるから」
答えようとしたら和政が私の前にスッと立つ。
「……そうですか」
そして、会場に戻りかけた時、私を少し睨んだような気がした。
「……あの子、和政と話したかったんじゃない?」
「いや、良いから」
「え、でも……」
お友達なんでしょう?
そう聞こうとしたら唇を奪われた。
「……邪魔された」
「邪魔って……、友達でしょう?」
そんな私に和政はハッキリと言う。
「友達じゃないよ」
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