パレオの水着

斗花

刺激的で過激な彼女の提案

それは7月の中旬。


家で、彼女の結奈ゆなちゃんと二人、のんびりテレビを見てる時だった。


結奈ちゃんの電話が鳴って、俺はテレビの音量を少し下げる。


結奈ちゃんは少し受け答えしてから、俺の肩を叩いて、電話をスピーカーにした。

俺はテレビを一旦消す。


「やっほー!カクちゃーん!げんきー?」


「あすかちゃん、ひさしぶり。元気だよー」



電話の相手は結奈ちゃんの友人の明日香ちゃんだった。

明日香ちゃんは、俺と結奈ちゃんと同じ高校で、明日香ちゃんの彼氏の義旭よしあきも同じ学校だったので、高校の頃から四人で仲良くしている。



明日香ちゃんは、そっかー、と明るく言ってから続けた。




「海いこーよ!四人で!!」



俺の心臓が止まりそうになるのと裏腹に、結奈ちゃんはなぜか楽しそうだ。


「え、明日香にしてはまともな提案」


「でしょー?夏だし、なんか楽しみたくて!

あと、8月5日で義旭くん20歳だからさ!


お酒とか飲めるし、楽しめるかなって思って!

あ、カクちゃんはまだ飲めないかー」



う、うみ……だと……?!?!



「で、カクちゃんと結奈、いつがひま?

多分私と義旭くんのが二人より時間の都合つくよ」


「えーと……、じゃあ日程候補は後で連絡するね」



淡々と海へ行くことが決まっていく横で、俺は心底焦っていた。



「あ、あのさ、明日香ちゃん!

海じゃなくても良いんじゃない?!

義旭も別に海に行きたいとかいうタイプでもなさそうだよ!」


「いや、それがさ!

義旭くん、海かプールなら良いって!

ほら、義旭くんって超絶体育会系スポーツ大好き男じゃん?!


それに私も義旭くんの水着見たいし!!よく考えたら義旭くんの水着って見たことないんだよね!

ほらうちの高校って水泳なかったでしょ。高校の頃は夏は部活で忙しかったしさー。


あーどうしよう!義旭くんの水着姿をおさめるんだから一眼レフは持っていくの当たり前として。お揃いの水着とかって売ってるのかな?!買っちゃおうかな!!」



明日香ちゃんは彼氏の義旭のことを変態的に溺愛している。

それも高校の頃から変わらない。


結奈ちゃんと俺は明日香ちゃんの変態っぷりには慣れているので、一旦スルーする。


そして明日香ちゃんは続けて、とんでもないことを提案してきた。



「それでさー。

どうせ海行くなら綺麗なところが良いし、義旭くん、この間免許取ったんだよねー。

で、家の車も使わせてもらえそうだからさ。


泊まりでいかない?!」



とまりで……だと?!



「いいねぇ!たのしそう!

あ、でも、カクは時間作るの難しいかな?」



結奈ちゃんはなんでそんなに乗り気なんだ。


そんな目で見られてしまったら。



「いや、日程調節すればなんとかなるよ。

俺も免許あるから、二人で交代で運転する」



了承するしかないじゃないか。



「いいねー!カクちゃん、安定の神彼氏ー!

そしたら、日程決まったら教えて!

泊まるところは私と結奈で考えよー!」


「それほぼ確実に私が決めるやつじゃん」


「あはは。じゃーねー」



電話は唐突に切れた。

結奈ちゃんは嬉しそうにソファから立ち上がる。


「ありがと、カク!

夏、私もどこか行きたいなって思ってたんだよね!

バーベキューとか誘おうかなって思ってたけど、海の方が夏らしいかな?」


「あ……、そうだね!」


「え、あんまりだった?」



覗き込むような結奈ちゃんの視線に、俺は慌てて首を振る。


安心したように笑う結奈ちゃん、かわいすぎ。むり。可愛くて全てがどうでも……



よくはならないよなあ!!!!



「ご、ごめん、結奈ちゃん。

俺ちょっと、バンドの練習あるから行ってくる。

夜ご飯、待ってなくていいから!」


「はーい。

もう寝ちゃってたらごめんね!」



俺はベースを背負って、家を後にした。


結奈ちゃんは俺のことを見送ってくれる。

なんて可愛くて最高で素敵な彼女だ。


◇◆


自己紹介が相当遅れてしまった。


俺の名前は角山かどやま良介りょうすけ

みんなにはカクちゃん、とか、カク、とかいうあだ名で呼ばれている。


大学二年生で、実はプロのバンドマンだ。

ベースを担当している。


彼女の春日かすが結奈ちゃんも同い年で、高校二年生の終わり頃から付き合っている。


俺は大学入学してから一人で暮らしてるので、ほぼ半同棲みたいな生活を送っている。



……なんだけど。



「え?!春日と海に行くの?!」



バンドの練習を終えてから、ドラムの大澤和政とギターのフクこと福本幸也と三人で、夕飯を食べながら今日の話をする。



ちなみにバンドは高校の軽音楽部で組んだので、全員結奈ちゃんのことは知っている。


大澤は高校の頃は結奈ちゃんと同じクラスだったし、自分の彼女が結奈ちゃんととても仲が良い。


フクは大澤のリアクションと俺の顔色に不思議そうだった。



「なんでそんなに意外なの?

別に海に行くくらい、不思議なことじゃなくない?」


「いやいやいや……。俺はカクちゃんの心労を察するよ」



まだ不思議そうなフクに大澤はため息をつく。

しばらくしてから、フクは「ああ」と、納得したような声を出して笑顔で言った。



「ゆなちゃん、スタイルいいもんね。そりゃ心配かあ」



「いやそれもそうなんだけど!

俺、水着の結奈ちゃんを見て平常心でいられる自信が皆無なんだよね!!!!!」



大澤とフクはしばらく静止してから、呆れたようにため息をついた。


既に成人したフクは呆れすぎて、レモンサワーをお代わりしている。



「彼女の水着姿を想像して興奮冷めやらないって、高校生男子じゃないんだから」



大澤も、鉄板ホルモン焼きを追加で注文して、目の前のサラダを片付けるように食べ進める。



「本当だよ。

俺はてっきり、自分の彼女の水着姿に群がる他の男たちのことを考えたら殺意と心配で頭がおかしくなることについての相談かと思った」


「まあ大澤は大澤で異常なんだけどな?」



大澤は彼女のことが好きすぎて、彼女の話になるとちょっとおかしくなるところがある。



「いや俺も、その心配はもちろんある!

もちろんあるけど!


結奈ちゃんの可愛さを知ってるよね?!」


「まあ確かに春日は胸大きいし肌白いしスタイルが良いということで高校生当時、沢山の男子からエロい目を向けられていた」



大澤……。

そこまで俺の嫉妬心を煽らなくても!!



「ただ、付き合って2年以上経つ彼氏にも、そんなキモい視線を向けられてるなんて……」


「ち、ちがう!キモくない!え?キモいの?!

いや、そうなんだよ!俺ってキモいよな?やっぱり!


こんな気持ちで結奈ちゃんと、泊まりで海なんて行けるの?!」


「いや行けよ」



大澤のその通りすぎるツッコミに、俺は何も言えなくなる。

フクも大澤が頼んだチーズ入り卵焼きを俺の分まで食べてしまった。



「大体さあ、夏にデート行けるんだから、そのことをもっとありがたく思えよ」


「蘭ちゃん、受験生だもんね……」



フクの彼女は2歳年下で、今年受験を控えているため猛勉強中だ。


フクは飲み切ったレモンサワーのグラスをカンッとテーブルに置いた。



「そうだよ!!!

この夏、どこにもいけないどころか!!!

『ゆきくんといると集中できないから、会う回数減らしたい』とか言われて!!!


で?!

お前は!海に行くのか?え?

海に行って、かき氷を食べて、水遊びして、浮き輪で浮かびながらニコニコ楽しく過ごした後、美味しい魚料理をいただくのかよ!!」


「いやそれはまだ分からないけど、なんかごめん」



フクの勢いに思わず謝ってしまった。


た、たしかに、デートに行けるだけでも、素晴らしすぎるよな……。


そこからはフクの蘭ちゃんと会えないストレスをぶつけられることをメインに、夕食会は終わった。


◇◆



俺が家に帰宅すると、結奈ちゃんはまだ起きていて、敷いた布団の上で何やらスマホを眺めている。



「結奈ちゃんただいまー」


「ん、おかえり!おつかれ!」



俺の方を首だけ向けて、にこりと笑った結奈ちゃん……。


……かわいすぎる!!



「ちょっとシャワーだけ浴びてきちゃうわ」


「はーい」



シャワーを浴びて歯を磨き、寝室に戻ると、結奈ちゃんは俺にスマホを見せてきた。



「明日、バイト帰りに買おうと思ってるんだけどさ。

水着、こーゆーのと、こーゆーの、どっちがいいかな?」



ページ一つ目は体に布みたいなのを巻いて、胸元から膝上くらいまでが隠されている水着。


ページ二つ目は上からシャツのようなものを着ている上、スカートっぽいものを履いている水着だった。



「……なるほど!!」


「え?びっくりした。なに?」



結奈ちゃんはそもそも、露出する気はないんだな!!


……いや、そりゃ普段の私服に比べたら露出度高いけど、これなら全然平気だ!!


どっちも可愛いけど、シャツとズボンの方は上から羽織ってるだけで、結局肝心なところが隠れてないしな。

(※カクにとって肝心なところとは胸と腰)


「こっちかな!こっちの、なんか、布で巻くヤツ!」


「言い方……。まあ、わかった!ありがと!

そしたらこういうのにしようかな」



ふふ、と笑って少し照れながら結奈ちゃんは俺を見て呟く。



「どうせなら、カクが好きな水着着たいしね」



言ってから恥ずかしそうに顔を布団で隠す結奈ちゃん。



かわいすぎる……!



「なに、ゆなさん、どーゆーことですか」


「ちょっと、やめてよ!布団そっちに敷いたよ!」


「布団敷いてくれてありがとう、でもくっつきたい」



少し照れながら俺に抱きついてきた結奈ちゃんに、ちゅ、とキスしながら思う。



通常時でこんなに可愛いのに、水着着られたりしたら、もう無理だわどうすんだよ。



「……あ、そーだ。

あと、明日香と話して、部屋は二つにしようって。


私とカク、明日香と義旭、って感じです」


「え?……え、え?

え?明日香ちゃんと結奈ちゃんが同じ部屋じゃないの!?」



結奈ちゃんは更に照れたように顔を隠してから、小声で言う。



「な、なんか。

明日香、義旭と同じ部屋がどうしても良いらしくて……!

義旭も、別にそれでもいいらしくて……!

め、珍しいよね!義旭って、明日香と同じ部屋とか嫌がるのにいつもは!


わ、わたしは、ほらっ!

もはやカクの家に暮らしてるみたいなところあるし……。

いつもと変わらない?よね?ね?」



いや変わるだろ。


だって旅館って浴衣みたいなの着るよね?

環境がいつもと違うじゃん。


それになにより、水着見た後に浴衣?どうすんのそんなの。



そんなの、おれ、どうやって平静を装えばいいんだ??



「いやかな……?

久々に義旭と二人で過ごしたいとかある?」


「まあそんな感情があるわけはないんだけど……」


「よかった!


そしたら、その方向で!明日香と決めちゃうね!」



楽しそうな結奈ちゃんが可愛すぎて、俺は頷きながらそのまま手のひらをシャツの中に入れようとしたら、びくっと体を強張らせた。



「……はあー、かわいい」


「そ、そんなことない……っ」



こんな罪深き可愛さを前にして、俺はどうやって当日生き抜けば良いんだ……。

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