エメリウスと錬金術と
みなと劉
彼と同じ道
エメリウスは、小さな村の片隅に立ち尽くしていた。目の前に広がるのは、馴染み深い家々と人々の営み。しかし、彼の胸には今、新たな決意が灯っている。
かつて、彼は死の淵にいた。幼い頃、謎の病に侵され、医者たちですら手を尽くしたがどうすることもできなかった。意識が薄れる中、ふと部屋に現れた一人の男——彼こそがエメリウスの人生を変えた人物だった。
「大丈夫だ、必ず治してやる。」
優しく微笑むその男の手から放たれた輝きは、魔法のように彼の身体を包み、絶望に沈んでいた命を救った。男は名も告げず去っていったが、その背に刻まれていたのは、ひとつの印——錬金術師の紋章。
それから数年。エメリウスは回復し、普通の生活を送ることができるようになった。しかし、彼の心にはあの日の出来事が深く刻まれていた。「俺も、あの人のように人を救える存在になりたい。」そう思った時には、王都にある錬金術アカデミーへの入学を決意していた。
村を出る日、母親は涙を浮かべながらエメリウスの手を握った。
「体に気をつけてね。……あんたが元気でいられるのも、あの方のおかげだものね。」
エメリウスはうなずきながら、荷物を背負う。錬金術師になる道のりが、どれほど険しいかは分からない。それでも、憧れの人に少しでも近づきたかった。
王都への道のりは長く、見知らぬ景色に胸を踊らせながらも、不安が心をよぎることもあった。アカデミーでは高度な知識が求められると聞く。自分にその素質があるのか……だが、その疑念を振り払うように、エメリウスはポケットの中の小さな石を握りしめた。それは、かつて彼を救った錬金術師が残したもので、淡い光を宿していた。
「俺は……錬金術師になる。」
その決意を胸に、エメリウスは一歩を踏み出した。彼と同じ道を歩むために。
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