第10話 最悪のバレンタイン
『バレンタイン 和語』
検索結果は、『愛の日』。
こんなの誰にも見せられない。世界が眠りに落ちた午前3時、一睡もできずスマホを見ていた。
そうか、バレンタインって愛の日なのか。
今日は2月14日。……バレンタイン、だ。うちの両親はデートと言って旅行に行くらしい。さすが愛し合っている夫婦だ。
今日、柊は学校に来るのだろうか。昨日は結局体調不良で塾にも来なかった。
机の上には、渡すはずのないこぢんまりとしたチョコ。今日から修学旅行の意気揚々とした姉ちゃんに教えてもらって作ったけれど、あの状況じゃ渡せない。
そもそも俺だって、柊が白鳥と必要以上に仲良くしていたのを見たばかりだ。今日の部活さえ憂鬱になってくる。
少なくとも、柊が学校に来る限り、柊と顔を合わせることになるんだ。
——いや。
俺がどうにかして熱を出して体調不良になれば、学校に行かなくて済むじゃないか。
思い当たったが吉日。ぽつぽつと雨の降り注ぐベランダの窓を開け、外に出る。
パジャマが水に濡れていく。だんだんと雨が強くなってきた。
あぁ……なんて日だろう。
本当だったらこんな最悪な日じゃなかったはずなんだけどなぁ。何が始まりだったかな。
……俺のLINEか。柊の好きな人を聞いたLINE。
あれさえ無かったら何もなかったのに。
一度ベランダから部屋に入り、スマホを取る。
柊とのチャット画面を開いて、送信取り消し。その前のLINEは、柊の好きな人の話の三時間前。俺たち、こんなにLINEしてたんだ。
びっくりした。俺たちってこんなに仲良かったっけ。
——涙が出てきた。
「……うっ」
涙を流すなんてガラじゃないはずなのに。なんでこういう時だけ……。
「情けない……!」
嫌だ。俺は涙なんか流したくない。
……分かっていた。
白鳥と一緒に居るのがお似合いなんだ、柊は。
そんな彼女のことを好きでいる資格なんて俺にある訳がない。
分かっていたのに、どうして捨て切れないんだろう。このもどかしい気持ちを。
——簡単に放れない、熱い想いを。
いっそ雨と共にこの想いさえ消えてしまえばいいのに。
この際、そんなことまで考えてしまう。
何が正解だったんだろうな。
俺が柊を好きでいることも間違いだったのかな。好きになったことでさえ、間違いだったのか。
……でも、捨てられない。無視できない、この想い。
なんて残酷な結末なのだろう。
◇◆◇◆◇◆
結局、雨に降られて一時間くらい経った後にベッドに戻り、泥沼につけ込むように眠ってしまった俺は、朝目を覚ますと八時過ぎだった。いつもだったらもう学校についている時間帯だ。
頭も痛いし、気分も悪いしだるい。予想通りの結果だ。
一階に降りて家の電話の親機を手に取り、学校の電話番号を入力する。
いつもだったらこんなことやるわけないのになぁ。
もし柊に会えない日があったら落ち込んでいただろうに。
どうしてこんなに想いに振り回されてしまうのだろう。
姉ちゃんは修学旅行に、両親は旅行へとっくのとうに出発しているようで、家には誰も居なかった。
風邪をひこうと思えばひけるものなんだなぁと少し思ってしまう。本当に良かった。これで今日は学校に行かなくて、柊と白鳥に会わなくて済むんだな。
……でも。
柊にお見舞いに来て欲しいだなんて、そんな欲張りを想ってしまう自分も奥の方で居たりした。
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