第8話 君のいないバレンタインイブ

詩さん執筆 第7話 私の想いは一生の片想い

https://kakuyomu.jp/works/16818093092734666929/episodes/16818093092983281955




 キーンコーンカーンコーン……


 朝一番のチャイムが鳴る。ほぼ全員の生徒が着席し、担任を待っている。

 でも——柊はいなかった。


「なぁ、柊知らない?」

「っ⁉」


 後ろの席の白鳥にそう問う。すると彼は自分が傷ついたような表情をして、その後少しだけ表情に怒りを滲ませた。


「……知らないけど、少なくともお前のせいではあるんだよ。そろそろ自覚した方がいいんじゃね?」


 そう言って白鳥は机に突っ伏する。これ以上問い質す気にもなれなくて、俺も前を向く。

 絶対白鳥は理由を知っているはずだ。だって……さっき一緒に走って行ったから。あんなに楽しそうだったから。


 あの二人に深入りはしたくないんだ。ただ俺は、柊が心配なだけ。


 ガララララッ


 彼女だと期待した自分が馬鹿だった。前のドアから入ってきたのは、頭のてっぺんが既に禿げた担任。


「みんなおはよう。出席取りますね」


 青い健康観察板を開き、つり目がちの視線が教室を回る。


「んー、柊が休みだな。連絡が来てないが、誰か知ってる人はいるか?」


 ちらりと後ろを振り返ると、事情を知っているはずの白鳥は、葉が刈り落とされてしまった松の木を見つめていた。


「いないなら、あとで連絡だな。じゃあ朝の会、日直~」


 いつも通りの朝。そのはずなのに、日常が変わってしまう嫌な予感がした。


 ◇◆◇◆◇◆


 絡む相手のいない俺と白鳥は、必然的に移動中も一緒だった。


「よくよく考えたら明日ってバレンタインだよな。チョコもらえる自信ある?」

「どうでもいい」


 話題が無くなるのを恐れているのか、ずっと話題を投げかけてくれる白鳥。さっきまではちゃんと応えていたけれど、こんな話は御免だ。


 ——俺がもらいたいチョコは柊のだけ、なんて言うのは欲張りなんだよな。


「あの調子じゃ無理か……」


 突然白鳥がそんなことを呟いた。小さな声だったけれど、ちゃんと聞こえてしまった。


「誰の話だ?」


 白鳥が興味を示すのは、大体誰かの恋愛のいざこざだけ。もしかしたら柊のことを言っているのかもと思った俺は、そう聞いたけれど。


「……いや、なんでもない」


 そう言って白鳥はそっぽを向いた。


 これだけ話さずに移動教室に行くクラスメートはどれだけいるだろうか。俺と白鳥ほど仲が良くはないコンビはいない気がする。


 ——柊が居れば違うけれど。


「お前もちゃんと考えろよ」

「え?」

「俺はちゃんと応援してんだからな。これでも」


 右手の人差し指で俺の額を小突いた白鳥は、そう言うと早足で歩いて行ってしまった。

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