当て馬令嬢だって恋がしたい。

音繭恋(おん まゆこ)

ヒロインだって寝坊したい。

プロローグ




「いっけなーい!遅刻遅刻!」


朝の暖かい日差しに包まれた静かな家に、一人の少女の声がこだまする。

今日は私立宛禹磨あてうま学園高等学校の入学式。

少女、改め氷刃百仁華ひょうじんもにかにとって、これから始まる学園生活は人生の天王山と言っても過言ではなかった。


「え、嘘!もうこんな時間!?」


チラリ、と腕に巻かれた腕時計を見ると、8時40分。

入学式が始まる30分前を示していた。


「急がなきゃ、入学式始まっちゃう!」


家中を慌ただしく走り回る。

最後に鏡の前で身だしなみを確認して、そして鏡越しに見えた写真に眉を下げた。


「……お友達、できるかなぁ。」


写真は何も言わない。


「………、おかぁ_____」


沈黙に耐えかねたのか、彼女が口を開く。と、同時に


「お嬢様ーー!行きますよーーー!!」


執事だろうか、外から男の声が彼女を呼んだ。


「ぅ、! っ、…………はぁ…。」


その声に顔を顰めた彼女が、を言おうとして、に気づいて、を諦める。


うつむいた彼女の表情は、艶のある美しい髪の毛で見えなかった。


「…お嬢様ーー?」


返事がないことを不審に思ったのか、男が声をかける。


「……はーいっ!今行くねっ!」


パッと顔を上げ、見えたのは笑顔。

明るい声、軽やかな足取り。


もう振り返らない。


彼女の学園生活が、幕を開けた。



「____行ってきますっ!!」


























____かちゃり。玄関の鍵を閉める音が、家に響いた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

隔週 金曜日 16:00 予定は変更される可能性があります

当て馬令嬢だって恋がしたい。 音繭恋(おん まゆこ) @onmayuo1119

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ