女装した俺が不良に絡まれていた学校一の美少女【冷血の雪姫様】を助けたら友達になった件。
カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画
第1話 救出
ある日の休日。俺、
一人の女と金髪の不良三人組。遊ぼーよとか彼氏いるのとかあーだこーだ男たちの一方的な会話に耳を傾けつつ、物陰から俺は様子を見る。
暗い日陰の路地裏で三人の男に囲まれ立ち尽くす少女。口説く男たちは優しげな言葉とは裏腹に語気が強く、高圧的な雰囲気だった。苛立っているのだろうか。
(……大丈夫か?)
そう思いつつも助けに入ることを躊躇っている理由は二つあった。
まず一つは、絡まれている彼女が
学校一の美人と呼ばれる彼女は日本人とロシア人のハーフであり、そりゃナンパもされるわという容姿をしている。
純白の雪のような輝くプラチナブロンドのロングヘアー。つんとしたクールな目尻、きめ細かな肌、そして女子にしては高い160代の身長。胸も大きく、スラリとしたプロポーションはまるでアニメから出てきたヒロインのよう。
入学から半年、これまで先輩教師女子問わずあらゆる層から憧れられ、告白された数も3桁をこえると噂される……が、しかし。彼女はその全てを無視した。そう、みんな断られるどころか返事すら聞けていないのだ。
告白した人によれば、『圧力が凄くてヤバかった』『雰囲気で断られたと思って逃げた』『めっちゃ睨まれたから泣いた』『1時間まったけど一言も返してくれなかった』『眼力凄くてチビッた』『怖すぎて漏らした』『おしっこでた』『漏らしちゃいましたよ。ふふ……』など、彼女の圧にあてられお漏らし敗走するやつらが続出していたらしい。
そしてそれは普段の生活においてもそうで、彼女に話しかけても無視され返事が返ってくることは稀である。その対人関係の冷たさからついた通り名は【冷血の雪姫様】
あらゆる人間をその気の強さと眼力と圧力で退けてきた彼女。であればこの状況ですら俺がわざわざ手助けする必要もなく切り抜けられると思っていたのだ。
ここからでも感じる雪姫の凍りつくような冷気のような圧。氷色の瞳から発せられる冷たい視線はナンパ男たちに突き刺さり、眉をひそめたじろぐ。
だがしかしそれは逆効果だったのかもしれない。雪姫の睨まれた男とは別の仲間が壁を蹴って威圧した。
「おい、かわい子ちゃん。こっちが下手にでてるからってよ……なんだその目つきは」
(いや、かわい子ちゃんて……)
微動だにしない雪姫。やはり【冷血の雪姫様】か。微塵の動揺もなく、壁を蹴った男を睨みつける。やはり中々の度胸だ。
「……」
睨まれた不良は少しビビったのか一歩後退する。そこに道が生まれた。塞がれていた道がひらかれ、そこを通ろうとする雪姫。
「と、まてまて!」
「!」
しかし後方にいた男が彼女の手首を掴んだ。引っ張られバランスを崩した雪姫。転ぶことは無かったものの手首は依然掴まれたままで、こうなってはもう逃げることはできない。
「よし、このままいこーぜ。カラオケとかさ」
「いーねー」
「ほらいくぞー」
ずるずると手を引かれ連れて行かれる雪姫。いくら彼女が気が強く、冷血であろうとやはり力の差はあるのだ。……くそ、仕方ないか。
「あの」
その場を立ち去ろうとしていた彼らに俺は声を掛ける。
「あ?」
振り返りこちらをみる男三人と雪姫。
「なんだお前」
男の一人がそうきいた直後、彼の目の色が変わる。
「いや、まて……お前」
他の男二人もハッとした表情を浮かべ、こういった。
「か、可愛い……!!」
「うわぁ!」
「こっちの子とは別ベクトルの可愛さ!!」
彼らの瞳に映る俺は少女だった。……そう、俺は女装をしていたのだ。
(くっ、堪んねえ……)
可愛い。その言葉が心地よく俺の体を駆け巡り、ぞくぞくとした快感となる。満たされる承認欲求、肯定感。そうだろう!俺、可愛いだろ!?
日頃から肌のケアや睡眠時間、運動して努力してるからなあ!!はっはっは!!
小遣いを貯めに貯めて買ったこの綺麗なセミロングのブロンドウィッグ、姉ちゃんに誕プレで買ってもらった青いワンピースと、研究に研究を重ねた化粧のスキル……それら全てが合わさり今の俺はどっからどーみても美少女!!そこの雪姫様にも見劣りしねーだろ!!むしろワンチャン勝ってるまである!!いや、勝っているだろ!!俺がナンバーワンだぜ!!
つーか声もアニメ声っぽくて可愛かろう!?女声も研究し日々暇さえあれば練習を積み重ねてきたからな!!ふははは!!
そんな感じで男達の反応に気持ちよくなっていると、彼らの一人が言った。
「あのさ、俺たちこれからカラオケいくんだけど……よかったらあんたも遊ぶ?」
そう、こうなる。俺がすぐに助けに入らなかったもう一つの理由は、俺が今女装しているから。こいつら三人の顔、よくみたら見覚えがある。前にボコボコにしてやったことがあるヤンキー高校の二年だ。ほんとなら俺の姿を見ただけで逃げてくんだろうけど、今はあいにく女装で別人と化している。この姿で出ていってもナンパの対象が増えるだけ。動きにくいワンピースで喧嘩とか破れたら嫌だし、したくもない。だから出て行きたくなかったのだ。
「よかったら、つーか……強制っていう?」
「ぎゃはは」
「ほらいこーぜ」
けど、もう見過ごせない。例え彼女が【冷血の雪姫様】であろうと。逃げようとしたことから嫌がっているのは確かになった……そして助けが必要な事も。それを見なかったことにして帰るなんて俺にはできない。
「ごめんなさい……これからその子と予定があるので、あなたたちとは行けません」
俺がそう言うと雪姫と目が合った。相変わらず無表情。けれどその瞳はしっとりと潤んでいた。
「え、なになに?お友達?」
「はい、友達です。……ね?」
俺が雪姫にそう問うと、彼女はこくこくと二度頷いた。てっきりまた無表情のままノーリアクションだと思っていた俺は内心驚く。いや、無反応でも助けようとは思っていたけれど……それがあまりにも珍しくてびっくりしてしまう。正直俺は彼女が人の問いに対して反応をしたところを今日初めてみたと思う。学校の授業や必要最低限の場面でしかリアクションしないあの【冷血の雪姫様】が……状況が状況だからなのかもしれないが、彼女は俺たちが友達だという嘘をすんなり肯定したのだ。
俺は警戒させないように会話を続けつつ彼らに歩み寄る。
「私たち待ち合わせしてて。約束の時間になってもその場所に全然こないから探したんだよ……こんなとこにいたんだね。行こ?」
俺は雪姫の手を引き立ち去ろうとする……が、しかし男は離さない。
「いやいや、待てよ。少しくらい良いじゃん」
「そーだよせっかくの出会いじゃんか?」
「このまま五人で遊べば良いじゃん」
「や、遊ぶとかじゃなくて……用事があるんですよ」
「用事ってなに?その後なら遊べんの?なら連絡先交換しよーぜ?」
いや、しつけーな……。
その時、ふと男共をボコボコにした時の記憶が蘇った。確かあの時も女の子無理矢理連れてこうとしてたんだよな、こいつら。……泣くほどビビってたクセにもう忘れたってーのか?二度とやるなって約束させたのに……この鳥頭共が。いや、そりゃ鳥に失礼か。
(このアホどもにはちゃんと伝わる方法でやらないとダメみてーだな)
「はっきり言わないと伝わりませんかね?」
「ん、なにが?」
俺は雪姫を掴んでいる男の手を払い除けた。
「しつこくて嫌だっていってるんですよ」
その瞬間、一気に雰囲気が変わる。
「は?しつけーだ?何様だよこら」
顔を近づけ凄んでくる。それに対し、俺はにこりと笑いこう返した。
「あ、そーだ。ジュース飲みます?」
「……は?」
唐突な提案。思わずぽかーんとした表情になる男。
俺はさっき朝食用にコンビニで購入した林檎と水筒をリュックからとり出した。水筒の蓋をあけ林檎の真下へ。右手には林檎を掴み、左手には水筒を掴んでいる。そして――
メキメキ……ミシッ
ブシュウウウウッ――!!!
――ポチャン、ポチャン……。
片手で握りつぶされた林檎。その果汁と果肉が水筒へと吸い込まれていく。フレッシュな搾りたての林檎ジュースを目の当たりにし、目を丸くする雪姫以外の男三人。
「……飲みます?林檎ジュース」
「あ……い、いえ……はは」
ひきつる笑みを浮かべる男たち。
「それじゃあ、もう消えてくださいますか?」
俺がにこりと笑うと、「「「はいっ!!」」」と声を揃えた三人は足早に去っていった。
ふー、とりまなんとか喧嘩せずに終わらせることができた。あいつらが物わかりの良い雑魚で良かったわ。まあとはいえこれ二度目だし今度改めてシメるけど。
それはさて置き、だ。……とりあえず今は雪姫の方をなんとかせねばな。
「あの、大丈夫ですか?」
俺が聞くと彼女はこくこく頷いた。ほんと妙な感じだ。普段学校でみかける雪姫であれば――
生徒『雪姫さん先生が呼んでたよ』
雪姫『……(無言の圧力)』
生徒『よ、よんでたよ……なんかごめん』
生徒『雪姫さんごめん、教科書忘れたからみせて』
雪姫『……(無言の圧力)』
生徒『あ、なんでもないっす。自分今から家とってきます!』
生徒『雪姫さん、昨日掃除当番忘れてたでしょ』
雪姫『……(無言の圧力)』
生徒『あ、掃除楽しかったんで大丈夫でした!むしろありがとうございます!』
教師『雪姫さん、えっとね……』
雪姫『……(無言の圧力)』
教師『あ、すみません。怒らないでください……ひぃ』
こんな感じで直立不動、微動だにせず一言も喋らずに全てをシャットアウトするあの【冷血の雪姫様】が、ふつーに反応してくれている。
なんだろう、これあれに似ているな。懐かれてない野良猫に懐かれた時のようなあれ。ただ雪姫が頷いているだけなのに妙に嬉しいんだが。
と、その時。
「……あの……」
か細い声が聞こえた。消え入りそうな弱々しい声……だが、その声色は儚くも綺麗な音色をしていて耳に残った。
周囲には誰もおらず、とはいえ俺の声ではない。だとすると残るはただ一人。
雪姫が顔をあげると一筋の涙が頬を伝った。
「……ッ、……!!?」
――ドクン。
(なっ、……し、心臓がッ)
それは、心臓が爆発してしまうかのように思えた、これまでに経験してきたあらゆる状況――
三桁をこえる大人数の不良グループと喧嘩した時。
車に轢かれそうになっていた猫を救出して俺がはねられてしまった時。
川で溺れていた子供を助けに飛び込んで助けたは良いが逆に俺が溺れ流されてしまった時。
ビルからの飛び降りで身投げしたサラリーマンを助けて俺が落ちてしまった時。
姉にえっちな本を発見された時。
姉にえっちな動画を鑑賞しているのを見られた時。
姉とガチ喧嘩して一方的に半殺しにされた時。
――そのいずれをも超越し今まで生きてきた人生の中でも感じたことのない大きな胸の高鳴り。
「……助けてくれて、ありがとう……ございます」
潤む瞳、ぎゅっと掴まれた手、微かに震えている体。
キュンとする胸の痛み、抱きしめたくなる庇護欲に駆られた刹那的感情、顔の熱さ。
……な、これは……かわ、可愛……
え、ちょ……ま……めっちゃ、かわ
か、かわ……かわい……
はっ!?
い、否アアアーーッ!!!!
慌てて目を逸らし俺は首をブンブン振る。
「ッ!!」
「……!?」
びくりとする雪姫。
まって!今の無し!!セーフ、セーフ!!あぶねっ!!
いやいやいや、ふつーに俺の方が可愛いからね!?ふざけんな!!!今のは涙の差だから!!基本的な可愛さでは俺の方が上だから!!認めてないからあああ!!!
「……はあ、はあ」
「……?」
……ふいー、危なかった。負けを認めるとこだったぜ。一時の気の迷いで……マジあぶねえ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます