巡り合わせの立証
市井へい
冬
Ⅰ(1)きれいな男だな
雪がちらつく、曇天の冬の空。
湿気った重い雪は未だ慣れず、他人のようなよそよそしさを感じる。
学生の頃を勘定に入れると十年以上も住んでいる街にもいまいち愛着を持ちきれない。
ふと、帰ろうかな──なんて思う。
羽毛のような雪が降るあの場所にはもう家もなければ、自分を慈しんでくれた人たちも居ないというのに。
足取りも重く、落葉もすでにない灰色の道をたらたらと歩く。気分が晴れない。
いつまで経っても「居場所」を見つけられないでいる。ずっと手応えみたいのを得られない。
あんまりのろのろ歩いていたせいだろう。
後ろから俺と同じようなトレーニングウェア姿の男が抜いて歩いていった。
──きれいな男だな。
直感的にそう思った。
はっきり顔が見れたわけではない。ただ、すれちがうその一瞬でそう分るぐらい際立った顔立ちと雰囲気だったんだと思う。
遠のいていく後ろ姿は細身で手足もすんなりしている。黒髪。首は長い。
頭や顔が女性ばりに小さくて、まるでモデルようなプロポーションだ。百八十弱の俺と比べると少し小さい感じだったから、身長は足りなさそうだけれど。
職業柄どうしても人のスタイルとかボディデザインは気になるし、整っている人間はどうしても目に入る。
しかし、あんな風に生まれたらそれだけで人生勝ち組、イージーモードだよなぁ。
イケメンは絶対強者だもんな。
柄にもなく悪態をつきたくなるのも、この垂れこめている灰色の重い雲のせいじゃない。
昨晩、フラれた。
二週間後にクリスマスを控えたこの時期に。
もう二十七だし、別にそんなにクリスマスを特別なイベントだとは思っていない。ただ、ホリデーシーズンをひとりで過ごすとなると、天涯孤独の身にはちょっと堪えるっていうだけだ。
つと足を止めて視線を落とす。
いや、今手元にあるものを有難く思おう。
ないものねだりは自分を擦り減らすだけだ。
俺にはやりがいのある仕事と、信頼し、頼りにしてくれるクライアントがいる。
気を取り直し、歩調を改めて足早に契約先のジムに急いだ。
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