あい

青馬 達未

あい

私の生まれ育った故郷には、もう数十年帰っていない。

私の故郷は数十年前に想定を超える豪雨によって、河川が氾濫し、家の屋根までも水位があがり、私の町は泥の海に沈んでしまったのだ。

この水害でたくさんの人が居場所をなくし大切なものを失った。


私はその時丁度、出張で家族と離れていた。

水害を知ったのはテレビの中継映像だった。

画面の向こう側には、まるで町が海に沈んでしまったかのように見えた。

こうなる前に、避難が遅れたのは、一時的に雨が収まったことと予想以上の豪雨だったとの事。


私が出張先から帰った時には、私の町と家族はすべて流されていた。

残されたのは、家屋の破片と泥だけだった。


私は声も涙も出せなかった。

すべての光景が現実ではないかのように見えたからなのか

目に見えるものが、全て私には受け止められなかった。


「もう、あれから何十年経っただろうか。」

私の家族の遺体は数十年経った今でも見つかっていない。

あの雨は、私の生まれ育った町を、大切な思い出を、大切な友人を家族を何もかもを奪っていった。

私には、もうあの町にいることが辛くて帰ることができないでいる。


あれから、家族の顔を見ていない。

写真ですら流されてしまってもう顔を見ることすらできない。

本当に私に残されたものは無かった。


それからというもの私は、それからただ生きているだけでの状態で初老を迎えた。

しかし、私が立ち止まろうとしても社会は回っていく、こんな私もにも勝手に仕事では、後輩も部下もできてくものである。

ある日、会社の若者と他愛もない話をしていると、こんな話題がでた。

「この画像見てくださいよ。これ、AIなんですよ。」

私は、AIという人口知能ということは知っていた。そして画像や曲などを作るという事をユースで見たことがあったからだ。

しかし、実際に見てみるとすごいものだった。

「すごいな...」

本当に時代の技術に関心するだけだった。

「これ、実は僕が作ったんですよ!」

若者は自慢げに話た。

「自、自分で?」

私は、てっきり個人では扱えないものだと思って驚いき

反射的に

「私の欲しい画像も作れるのか?」

と言ってしまう程だった。

「特徴とか具体的にどんな画像か作りたいなら可能だとおもいますよ?」

若者は冗談半分だと思ったのだろうか、少し軽く答えたが

私の本気を彼に伝えた。


彼には、私の水害での過去、家族写真がないから、また顔が見たいことを伝えた。

彼は、快く協力してくれた。


忘れもしない妻と娘の顔。

私は彼に特徴を伝え何度も試行錯誤を繰り返し、その結果、

少し違和感はあるものの

そこには懐かし顔があった。


その画像に私を入れて、現代の技術を使ってゼロから家族写真ができた。

その時、失った何かを取り戻した気がした。


私はAIを使って創った家族写真を持って、故郷へと帰った。

きっと流されたであろう海に向った。


私はその家族写真と私の気持ちを綴った手紙を瓶に詰め

海に投げた。


海はあの日から、好きではなかった。

でも、今はこの広い海が私の想いを家族との思い出を受け入れてくれる気がした。








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あい 青馬 達未 @TatsuB

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